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迷う想い

大聖女の後継者として指名されていた。

そんな事実を突きつけられて、私はどうしたらいいのかわからなかった。

あの本を渡された時、私の目標は帝都の神殿に行って聖女になること。そして、私に帝都で聖女になるように誘ってくれたソフィア様の役に立つことだった。

補佐聖女になれるとは思っていなかったけれど、なれるのならなりたいと夢は見たこともある。できるだけソフィア様の近くで役に立てたらいいなと思っていたからだ。

成人して帝都に行くまで渡された本を何度も読み返して神聖力の使い方を自分なりに学んできた。定期的に村に来る顔見知りの聖人がいたので、彼にも相談しながら神聖力を磨いていった記憶が懐かしい。彼には本の存在を話したことがなかったけど、将来帝都の神殿に行きたいことだけは言っていたので、私に聖女としての見込みがあると確信していた彼は快く神聖力について教えてくれた。

私はソフィア様の後継者として神聖力を磨いていたわけではない。一介の聖女として役に立ちたくて必死だったことを思い出す。

「成人してソフィア様に会えていたら、後継者の話をしてくれていたかしら」

1人部屋でベッドに腰掛けて窓の外を見つめながら呟いた。

ソフィア様は私が成人する半年前に亡くなっていた。その原因が過労だという噂も耳にしていた。

体が弱かったソフィア様は大聖女としての資質があっても、体力面に不安があった。それを周りも心配していたらしいけど、そんなことを気にしない貴族たちが平民出身のソフィア様を大聖女ならこれくらいできるだろうと、次々に依頼をしていたそうだ。誠実に仕事をこなしていたソフィア様だったけれど、あまりの膨大な仕事量に体を壊して倒れてしまったそうだ。

それでも貴族たちは平気で依頼を持ち込んできていたと聞いた。大聖人様もいたけれど、高齢で仕事量を制限していたこともあって、しわ寄せのようにソフィア様が使われていたのだ。

限界を迎えたソフィア様は、私と神殿で会うまでは生きようと思っていただろう。そして、私に大聖女の話をして、引継ぎをしたいと考えていたのではないだろうか。

「・・・ソフィア様」

名前を呼んでももう会えない。何を考えていたのか聞きたくても答えはない。

すべてが推測ではあったけれど、ラニア様はソフィア様のことを話してくれた。私もラニア様の話の内容がソフィア様が考えていたことのような気がしている。

まだ子供の私を守ろうとしてくれたのだろう。私が聖女になるまで元気でいるつもりでいたはずだ。後継者として育てたうえで引退して、ゆっくりと静養することも考えていたかもしれない。

その未来を奪われてしまったけれど、最後まで成人していない私のことは話さなかった。

聖女にもなっていない私が大聖女になる存在だと知られれば、潰す人間か利用しようとする人間がいただろう。そうならないために倒れても後継者の存在すら口にすることはなかった。

そんなソフィア様の気持ちに私は答えるべきなのだろう。そう思うけれど、すでに大聖女はリリス様がなっている。私が声を上げれば、確実に対決することになるし、リリス様の後ろ盾であるトールス伯爵家とも戦う羽目になり、神殿の中は混乱するだろう。

貴族ではあるけれど男爵令嬢の私では力が弱い。私の家族にも何か影響が出る可能性も十分に考えられる。

「どうしたらいいでしょう」

窓から見える空を見つめて呟いてみた。誰からの返事もない静寂に寂しいと思ってしまう。

室内に視線を戻すと、小さなテーブルの上に置かれた本が目に入った。

ソフィア様が託してくれた大聖女になる資格の本。そんなことと知らずに聖女になるため一生懸命読み込んだ。

そう言えば、この本に書かれている内容は他の人に話さないようにとソフィア様が言っていた。聖女としての本なら他の聖女や聖人に話してもいいと思うはずだけれど、まだ幼い私とソフィア様だけの秘密なのだということに浮かれていたような気がする。聖女になりたいと公言することはできても、本の内容が聖女になるための勉強なのだと教えられても、内容を離してはいけないことを素直に聞き入れていた。

「子供に言い聞かせておくのは簡単だったでしょうね」

自分のちょろさに今さら恥ずかしさを感じてしまった。

内容を話してはいけないのは、後継者である私しか読めないからだった。

当時の私は言われたとおりに素直にソフィア様の言葉を受け入れてしまっていたけれど、だからこそ今まで狙われるということはなかったのだとも言えるのだろう。

ただ、この年になってもう少し考えるべきだったと反省もしてしまう。

過去を振り返っていても仕方がないので、この先のことを考える。

どちらの答えを出したとしても、今後の私はきっと今まで通りにはいかないだろう。

帝都に戻っても神殿には事情を知っているザックさんがいる。もしかすると大聖人様へ報告する可能性だってある。それに、カイル様もリリス様の護衛騎士ではあるけれど、きっとリリス様には何も言わない。そのかわり、本来の主である皇太子殿下には話してしまう気がした。

第3都市の結界の異変を解決するようにと皇太子殿下の指示も出ていたのだから、当然私が神聖石の保護をしたことを報告して、その流れで私の秘密も言うことになるだろう。

たとえ私が大聖女にならないと宣言しても、周りは私に期待することが目に見えていた。そうなればいつかはリリス様に私の素性がばれるはずだ。

私が大聖女の後継者だということが知られるのが早いか遅いかの問題だけで、私は確実にリリス様と対決することになるはずだ。

「私は大聖女になりたくて帝都に行ったわけじゃないのに」

ソフィア様の力になりたかった。

それが叶わないと知って、落胆したことも覚えている。それでも帝都の神殿で聖女として働こうと思ったのは、ソフィア様が護っていた帝都を見てみたいという想いがあった。

そして、神殿に入るとすでにリリス様が大聖女として選ばれていた。あまり力がないということはすぐに見抜いた。それでも大聖女に相応しくないと騒ぐつもりはなかったし、リリス様なりに大聖女としてしっかり勤めを果たしてくれるのなら、私が補佐に選ばれた時に支えればいいのだと思った。

「私が、大聖女」

ベッドに伏せるように倒れこんだ。ぐるぐると頭の中でいろいろなことを考えて落ち着かない。

答えを出さなければと思うけれど、その先のことを考えてどうしたらいいのか迷ってしまう。

それを繰り返していると頭痛がしてきた。

「ソフィア様・・・」

あなたが生きていてくれれば、私はこんな風に悩むことはなかったはずです。

心の中でそう叫んで目を閉じた私は、考えすぎたせいかいつの間にか夢の中へと誘われていた。


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