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新事実

話が終わって部屋を出ていくセシリアの後姿は、落ち着けない気持ちを表しているような気がした。少し考えて整理をしたいと言って彼女は本を抱えて出て行ったが、俺はそんな彼女の姿を見ていても、予想もしてなかった事実を知って、内心喜んでしまっていた。

彼女の混乱した気持ちを考えると、セシリアが大聖女になれることを嬉しいと伝えることはできない。だから平静を装って傍観者でいた。だが、彼女が大聖女として名乗り出てくれれば、現在の大聖女リリスを引きずりおろす絶好のチャンスであることも間違いない。

ろくに仕事をしないリリスを大聖女に相応しくないというきっかけを探っていた。そのための証拠をずっと集めてきたが、ここに来て前任の大聖女が後継者を指名していたことが発覚すれば、神殿は一度混乱するだろうが、本当の大聖女を置くことができる。

セシリアの実力なら、すぐに混乱も収まると思えた。疑う者たちもいるだろうが彼女の味方も神殿にはいる。それに、このことをユリウス殿下に報告すれば、皇家もきっと後ろ盾になってくれるはずだ。

問題があるとすればリリスの後ろ盾であるトールス伯爵家だろう。それでもセシリアとリリスの実力の差を見せつけて、神殿と皇家の後ろ盾を得られれば伯爵家も下手に手を出せなくなるはずだ。

「これからどうするでしょう」

部屋に残っていたベリルが口を開くと、ラニアが肩を竦めた。

「それを決めるのはセシリアさんでしょうね。彼女が大聖女になるという覚悟を持ってくれれば、私たちは全面的にセシリアさんを支援したいと思っています」

2人も俺と同じ意見のようだ。ラニアはリリスと会ったことがある。リリスの実力を知っているので、セシリアが大聖女になることに賛成のようだ。ベリルも最初は敵視するような態度を取っていたが、セシリアが神聖石の保護に成功したことを目の当たりにして賛成している。

ザックに視線を向けると、目が合った瞬間にこやかな笑顔で頷いてきた。俺の言いたいことを把握している。ザックはセシリアのサポートという立場でここに来ているが、神殿に戻ったら大聖人へ報告をするはずだ。そこでセシリアのことを話すことになる。

大聖人もセシリアに味方すれば、リリスの立場はより一層危うくなるだろう。

「無理にセシリアさんを大聖女に据えることはできません。彼女が自ら大聖女になると言ってくれなければ、私たちはセシリアさんが大聖女になれる資格があることを知っているだけで終わってしまいます」

大聖女は無理やりやってもらう存在ではない。セシリアが自分の意思で動かなければ意味がない。

「セシリアさんが大聖女をやるっていう方向に持って行かないといけませんね」

ザックの提案に俺はすぐにでも乗っかりたいと思ったが、ラニアとベリルは顔を見合わせてから首を横に振った。

「やる気を出してもらいたいのは私も一緒ですが、誘導して大聖女になっただけではセシリアさんが大聖女としてやっていくのは厳しい気がします」

「たしかに、大聖女としての覚悟を持ってもらわないと、たとえ後継者だからと大聖女になっても長続きしないで終わってしまう可能性もある」

自らのやる気を見せてくれないと周りも認めてくれないし、誰も味方になってはくれない。

その心配をしているようだ。

とにかく、セシリアの意思が一番重要になる。

「今は考える時間が必要だろうな」

彼らも同じ意見のようで、俺の言葉に静かに頷いた。

どれくらいの時間がかかるかわからないが、セシリアが強い意志をもって大聖女になると宣言してくれることを祈るしかない。

「とりあえず今日は休んでください。ザックさんも疲れたでしょう」

まだ午前中だが、神聖石の保護は無事に終り、それ以外になにかする予定がなかった。

原因の究明と解決を目的にここへ来たが、数日はいるつもりでいた。それがもう終わってしまったので、今後をどうするべきか相談する必要があった。

すぐにでも帝都に引き返すか、この神殿で他にできることをするべきか。

俺としては速く戻って殿下に報告したい気持ちもあるが、セシリアの気持ちが定まっていなければ彼女を大聖女にと声を上げることもできない。

部屋を出ることになって俺はザックと一緒に部屋に戻ることになった。ベンとイスカは部屋で待機している。移動の護衛が2人の任務なので、今日は休んでもらっている。俺は殿下への報告があったためザックと一緒に行動していた。

神聖石の保護が終わったことは伝えることができるだろうが、今後の行動はまだ決まっていないので、今はまだ何も言わずに部屋に戻ることにした。

部屋に戻ってベッドに腰掛けたザックは、ため息をつきながら勢いよくベッドに寝転がった。

「僕よりも力は強そうだなって思っていたけれど、まさか大聖女になれる程だったとは僕も考えなかったな」

天井を見つめながらザックはセシリアのことを口にした。

「一緒に行動していた時に何か気になることはなかったのか?」

「大聖女だから神聖力に違いがあるわけじゃないよ。ただ、初日に村に立ち寄って、そこでお互いに体力の回復をしたけど、その時に触れたセシリアさんの力はコントロールが上手いなとは思ったけど」

力が強いと思ったのは、そういう話を聞いたことがあった。実際にセシリアの神聖力に触れて、力加減が上手いということは感じ取ったらしい。

「俺の怪我を治した時も、誰も気が付かなかった怪我に最初に気が付いて、すぐに治療してくれたが、あっという間だったな」

魔物討伐で怪我をした俺だが、他の怪我人を優先させて自分の怪我を隠していた。自己判断で治療は後回しで大丈夫だと思ったことが原因だ。

だが、セシリアは俺の怪我を見抜いた。すぐに治療をしてくれて、それと一緒に怪我を隠していたことを彼女は怒ってきた。そのことに最初は驚いたが、怪我の治療をすることが仕事の聖女なのだからそれを隠すことに対して怒っているのだと気が付いて、セシリアはしっかりとした聖女なのだと、俺の中にあった偏見を取り除いてくれた人だ。

それまでは大聖女リリスや補佐聖女を見て、周囲の他の聖女の反応でなるべく関わり合いになりたくない存在という認識があった。

セシリアはそんな聖女達と違い、きちんと仕事をこなして貴族も平民も関係なく相手にしていた。

だからこそ彼女の真っすぐさに惹かれてしまったと思っている。

それでもはっきりと自分の意思を彼女に今伝えようとは思っていなかった。セシリアの態度を見ていると俺も他の人たちと変わりないように見えるからだ。そうでなければ彼女に惹かれることはなかっただろうが、少しでも俺のことを気にしてほしいと思ってしまう葛藤がないわけではない。

そんな自分の考えに苦笑していると、ザックが起き上がった。

「セシリアさんがどんな答えを出すのかわからないけど、カイルも何か動くつもりなんだろう?」

大聖女リリスを引きずりおろすために動いていたことをザックは知っている。大聖女に相応しくないという証拠を集めて突きつけるつもりで準備をしていたが、セシリアという切り札が出来たのだから、彼女が覚悟を決めてくれれば、当然協力するつもりでいる。

「まずはユリウス殿下に報告することになる。おそらく殿下はセシリアを大聖女にするために動くだろう」

「でも、セシリアさんが大聖女になりたくないと言ったらどうするの?」

「その時はとりあえず説得から始めるだろうな。俺も殿下もリリスを大聖女のままにはしておきたくない」

相手の身分や地位ばかり気にして治療をしているリリス。他にも依頼された仕事を他の聖女に押し付けているような人物がいつまでも大聖女でいていいはずがない。トールス伯爵も黙らせなければいけないため、慎重に証拠を集めていた。

「セシリアが大聖女になる覚悟を決めたとしても、すぐには公表しない方がいいだろう。彼女を潰しにかかってくる可能性がある」

「それは同意するよ。特にリリス様に気づかれると厄介だろうね」

セシリアを大聖女にするにしても、彼女が前大聖女の後継者であることはできるだけ伏せておくべきだろう。そうしないと、大聖女になる前に彼女を潰そうとリリスやトールス伯爵が動くはずだ。

大切な後継者であるセシリアを護ることも今後の課題となるだろう。

「神殿では俺はリリスの監視をすることになるだろう。セシリアも普通通り仕事をすることになるだろうが、彼女の事情を知っているのはザックだけだ。できるだけ気にかけてやってほしい」

護衛をしろとは言えない。そんなことをしたら余計に怪しまれるので、彼女が無事であることを確認する程度はザックに任せようと思う。他の聖女と一緒にいれば下手にリリスも手を出せないはずだ。

「いろいろと考えなければいけないだろうが、まずはセシリアが大聖女になると覚悟を決めてくれるかが問題だ」

そこが最初の問題だ。

今1人で彼女は何を考えているだろう。自分の知らない立場があったことに驚いて混乱しているはずだ。そこから大聖女になろうという考えを持ってくれるのか、このままでいたいと諦めてしまうかはわからない。

期待はしたいが、押し付けるようなこともできない。

セシリアの答えを待つまで、気持ちが落ち着かないことになるが、それでも俺は彼女が答えを出すまでひたすらに待つしかないと覚悟を決めたのだった。


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