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聖女の本

目の前に出された紅茶をとりあえず一口飲んで前を向くと、笑みを見せているラニア様と、真剣な表情をしているベリル様。その隣にどこかわくわくしているように見えるザックさんが座っている。

私の隣にはなぜかカイル様が座っていて、私を逃がさないと無言の圧力を感じるのは気のせいだろうか。

「えっと、なにからお話すればいいでしょう」

「神聖石の深部に触れられる方法を本で読んだと言っていましたね。その本というのは?」

「一体誰から神聖力の使い方を教わった?」

「僕の知らない力の使い方が他にもあるんじゃない?」

私の質問に、3人が一斉に口を開いた。聞きたいことを我慢していたため、質問できるとわかって口を開いたけれど、それが同時になってしまったようだ。3人がそれぞれ視線を合わせて無言にある。

誰の質問を先にすればいいのかわからなかったので、何も言わなかったカイル様を見てしまった。彼は肩を竦めて無言を貫いただけだ。隣には座ったけれど、傍観者を貫くつもりらしい。

なんとなく逃げられたような気がしてずるいと思ってしまった。

もう一度紅茶を飲んでから、私は目の前の3人を順番に見て口を開いた。

「私は帝都の神殿に入る前、男爵領にある村で生活していました」

順番に話していくのが一番だ。

「父が領主として村で生活していたので、私もその村で生まれ育ちました」

村の長でもある父は当然神聖石の管理をしていた。そして、定期的に近くの都市の神殿から聖人や聖女がやってきて、神聖石の保護をしてくれていた。そこで出会った聖人の1人に私の神聖力の強さを見出されたけれど、それは将来聖女になるという夢を持たせてくれただけだった。とはいえ、少しだけその聖人から神聖力について学んだこともあったのは確かだ。ただ、より深い力の使い方を教わったわけではない。

「私の村は第5都市に近い場所にありましたが、当時の大聖女は私の村にも巡礼に来てくれました」

「当時の大聖女というのは」

ラニア様の呟きに私は頷いた。当然今の大聖女リリス様の事ではない。

「大聖女ソフィア=ライスター様です」

その名前を口にすると、ラニア様が懐かしむようにため息をついた。

「あの方は大陸を巡礼して、小さな村や町に住む人々も安心させるように神聖石の保護に力を入れていました」

懐かしそうにするラニア様は大聖女ソフィア様のことをよく知っているような口ぶりだ。

気にはなったけれど、私は自分の話を続けた。

「ソフィア様が訪れた時に、私の神聖力の強さに気づいたようでした。私はまだ成人前の子供でしたから聖女と名乗ることもできない男爵家の娘という立場でした」

男爵令嬢としてソフィア様を迎え入れたことで、私の力を知ったソフィア様は私が成人したら近くの第5都市の神殿ではなく、帝都の神殿に来るように誘ってくれた。そして、神殿に来たら必ずソフィア様のところへ来るようにとも言われていた。

「私の神聖力の強さを知って聖女として育ててみたいという気持ちがあったのかもしれません。詳しいことは何も聞きませんでしたが、私は大聖女様が言うのだからと受け入れました」

その時に一冊の本を渡された。この本を読んで勉強しながら聖女になるのを待つようにと。

「その本はどのような物ですか?」

何が書かれているのか気になっているようでラニア様が質問してきたので、私はここへ来る前に休ませてもらっていた部屋に立ち寄って本を持ってきていた。

膝の上に置いていた本をテーブルの上に置く。

だいぶ年季の入った革製の表紙に、題目は書かれていない。それでも中身は綺麗で文字もしっかり読めた。

「読んでみてもいいかしら?」

「どうぞ」

ラニア様の前に差し出すと、本を手に取って外観を確認してから中身を見ていく。隣に座っているベリル様も覗き込むように本の中身を確認している。

2人が本に目を通した。するとすぐに本を閉じてしまい、お互いに顔を見合わせて、何かを確認するように頷いた2人は本をテーブルに置くと、真剣なまなざしを私に向けてきた。

本の内容に気になることでもあったのだろうか。

それにしては内容を読むほどの時間はなかったように思う。

首を傾げると、ラニア様が真剣な表情で口を開いた。

「まさかとは思いましたが、やはりそうだったようですね」

何のことを言っているのかさっぱりわからない。やはりということは、何か予想をしていたようだけれど、その予想も私には見当もつかなかった。

「何のことですか?」

ラニア様の真剣な表情に、隣のベリル様も納得している様子。ザックさんは本の中身を見なかったので、私と同じように不思議そうな顔をしている。隣のカイル様は様子を見ているだけで動く気配がない。

「神聖石の深部に触れること。私たちではできなかった調査をして保護をしてしまった。それにこの本。セシリアさん、あなたは大聖女ソフィアの後継者だったようですね」

「・・・・・え?」

確かに大聖女ソフィア様から本を受け取って勉強していた。神聖石の深部を探る方法や保護するための神聖力の使い方など、本から学んだことはいくつもある。だけど、大聖女ソフィアの後継者になった覚えは一度もなかった。

「何のことを言っているのか、私にはわからないのですが」

困惑していると、ラニア様はもう一度本に触れると中身を開いた。

今度はテーブルの上で広げたので全員が本の中身を見られるようになる。

先ほど本の中を見られなかったザックさんとカイル様が覗き込むように前のめりになった。

開いたページは神聖力の使い方が記されている部分だった。何度も読み返したので、内容は頭に入っている。それに練習もしたので今では体が神聖力の上手な使い方を覚えている。

「何が書いてあるのかわかりますか?」

ラニア様の質問はこの場にいる全員に向けられていた。私はすぐに頷いたけれど、覗き込んでいたザックさんは首を横に振って、ベリル様は肩を竦めた。カイル様は何も言わなかったけれど、静かにソファに深く座ってしまった。

それぞれの反応に私は違和感しかなかった。

誰もが本の内容を読めていないと表現している。

ラニア様を見ると、ため息をついて本を閉じた。

「私もこの本の内容はわかりません。セシリアさんだけが読めるようですね」

「そんな・・・この本は聖女として神殿に入るまでの勉強のために大聖女様から渡されただけの本です」

誰もが神殿に入る前に本を手渡されるわけではない。私は聖女になる前に神聖力の強さを見抜かれて、将来のために本を託されたのだと思っていた。それ以外の人たちは神殿に入って先輩から力の使い方を学んでいたため、本来はそういうものであって、早く見つけられた私はある種特別だったとは思っていた。それでも、私のような人は他にもいるだろうと思い、深く考えることがなかった。

本も大聖女に返すべきものではあったけれど、私が帝都の神殿に入る前にソフィア様がなくなってしまったためずっと持っていただけだ。

特別な本であるとは思っていなかった。

「今まで神殿で働いていて、他の聖女や聖人と違うと思ったことはありませんか?」

「それは神聖力の強さでできることの違いがあると思っていたので、同じ聖女でも違いはあるものと思っていました」

すべての聖女が私と同じだけの神聖力を持っているとは思っていない。カリナも聖女ではあるけれど、私よりも力は弱い。それに、神聖力のコントロールに関しても私の方が得意だということはお互いに理解していた。

力の差を理解していただけで、私だけが特別だとは考えたことがなかった。

そのため聖女としての本を持っているという話もする機会がなかった。ただ、カリナも神殿に来てから先輩からいろいろと教えられていた。私にも先輩聖女がいたけれど、比較的できることが多かったので、その先輩にどうしてそこまで神聖力の使い方が最初からできるのかと問われたことはあった。その時は村にいた時に聖女から教わったことがあると説明して、その先輩聖女も深くは追及することがなかった。

だから私は大聖女に特別に選ばれていたなど考えることもなかった。

「私が後継者だなんて、本が読めるだけで決めつけるべきではないと思います」

確かに私は本を読むことができる。どうしてなのか他の人たちは読めない。その差で大聖女の後継だと決めつけるのはどうだろう。

「この本自体が特別なのですよ」

「この本が?」

ラニア様は何かを知っているようだった。だからこそ私が後継だと断言している。

「大聖女様と大聖人様は、それぞれ特別な本を数冊所有しています。それは代々受け継がれていくもので、その内容は大聖女様と大聖人様だけが知ることができるようになっています」

そんな本があることは知らなかった。リリス様がそんな本を読んでいるところを見たことがない。それに本があるということも聞いたことがなかった。

「私は大聖女がソフィア様だった頃に補佐聖女をしていたことを話しましたね」

頷くと、懐かしむようにラニア様が話を続ける。

「ソフィア様は数冊の本を所有していましたが、それは大聖女が読める特別な本だということを私は聞いたことがありました。中身を見たことがなかったので確かめることはできませんでしたが、その本は大聖女様以外に読むことが許される人がいるということも聞いたことがあります」

大聖女ソフィア様は補佐聖女に本の存在を話していたらしい。内容は言えなくても、読める存在が大聖女として認められている存在だと教えてくれた。そして、大聖女以外にも読める人がいるとも話していた。

「それが、大聖女が認めた後継者」

口を開いたのはザックさんだった。彼は何か思い至ったように頷いている。

「後継者は大聖女様の仕事を引き継がなくてはいけません。直接引き継げるのが一番でしょうが、それができない場合のため、本が引き継がれるのだと聞いたことがあります。もしも、後継者を見つけていなかったとしても、神殿で行われる選定で選ばれた者が本を読むことができれば、大聖女として認定されます」

後継者と定められていれば読むことのできる本。それ以外でも、選定によって選ばれた聖女でも大聖女として相応しいと判断されたものは読むことができるらしい。詳しいことがわからなくても、それが大聖女になるための資格なのだ。

「私はこの本を渡された時、まだ聖女ではありませんでした。それでも後継者として認めていたということですか?」

村で男爵令嬢という立場ではあったけれど、将来聖女として働きたいと考えてはいた。でも、大聖女になりたいと言ったことはないし、なるようにとソフィア様から直接言われたこともなかった。勉強のためにと渡された本に秘密があったなんて思いもしなかった。

「あくまでも私の見解ですが、セシリアさんはまだ成人していなかったこと考えて、本だけを渡して何も言わなかったのだと思います。聖女になるため神殿に来てから、あなたを大聖女の後継者として育てたいと考えていたのではないでしょうか」

ソフィア様はもういない。どんな考えで私に本を預けたのか想像するしかないけれど、ラニア様の考えに私もそんな気がした。

本を渡された時、聖女として働くのなら、必ず帝都の神殿に来るようにと言われたことを思い出す。私の村から一番近い都市は第5都市だったので、最初はそこの神殿に行くつもりでいた。でも、ソフィア様に帝都に来るようにと勧められたことで、私は帝都に行くことを目標にしていた。

きっと、私を後継者にするために自分の側に置いておこうとしたのだろう。

「大聖女の後継者としてセシリアさんを選んでいたのなら、前任のソフィア様はどうして亡くなる前にセシリアさんのことを話さなかったのでしょうか?」

ソフィア様の話になって懐かしく思っていると、ザックさんが片手を上げて疑問を口にした。

「セシリアさんを指名していれば、今大聖女リリス様は存在しなかったことになります」

確かに、私が次の大聖女だとソフィア様が公言していれば、リリス様が大聖女になることはなかった。

「それも私の考えですが、やはりセシリアさんが成人していなかったことが原因だと思います。まだ聖女として認定されてもいないのに、大聖女に抜擢することになれば、神殿はきっと混乱していたでしょう」

男爵令嬢でしかない私がいきなり大聖女だと言われても、たとえソフィア様が認めていても周りは疑いの目を向けてきただろう。私も本を読みながら聖女としての力を勉強しているだけで、実戦の経験もない。そんな小娘を神殿が迎え入れて大聖女に据えても、誰も信用してはくれなかった可能性が大きい。

「ソフィア様の側で数年でも修業させていればセシリアさんを後継にと宣言できたことでしょう。でも、聖女にもなっていないセシリアさんをいきなり大聖女に据えることはできない。だからこそ、誰にも何も言わなかったと思います」

補佐聖女であったラニア様も聞いたことがない後継者。倒れてしまった後もソフィア様は自分の中に私という後継者を見据えながら名前を口にすることはなかった。

「きっと、セシリアさんなら聖女になった後でいつか大聖女になってくれると信じていたのかもしれませんね」

優しい眼差しでラニア様が私を見た。

他の誰かが大聖女になったとしても、または大聖女がしばらく見つからない状況になったとしても、いつかは私が大聖女になるのだとソフィア様は確信していたからこそ何も言わずにこの世を去ったのだと思っているようだ。ずっと補佐聖女として仕えていたからそういう考えになったのだろう。でも、私は一度会っただけなので、ソフィア様がどこまで考えていたのかはわからない。

「セシリアさん。あなたは大聖女になれる資格を持っています。そして、今回の神聖石の保護が出来たのは、大聖女だからこそと言えるでしょう」

本を読んでいたからこそ神聖石の深部に触れる方法を知っていた。そうでなければ今回の任務はできなかったと今ならそう思えた。

「我々では原因を見つけられず神聖石の保護ができなかったと思います」

ベリル様が納得したように言う。今回の依頼は成功と言っていい。でも、私が大聖女の資格を持っているという全く考えたこともない事実も掘り起こすことになった。

私は今後どうしたらいいのだろう。そんな疑問が胸の奥に生まれて、神聖石の保護が無事に終ったことを喜べるだけの気持ちにはならなかった。


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