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力の流れ

大きな流れの中に私の力と意識が流れていく。目を閉じるとゆったりとした光の中を浮遊しているような感覚があった。流れに乗りながらも、自分の進みたい方向をイメージする。

意識が深くなっていく中、ひときわ輝きを放っている場所を見つけた。

そこか神聖石の深部なのだろう。

ゆっくりと近寄っていくと、急に力の流れが変わった。さっきの振り回された感覚を思い出して、今度は絡めとられるよりも先に私の力で振り回そうとする力の流れを変えていく。力の動きを止めてしまうと神聖石の全体の力の動きが滞ってしまう可能性があるため、受け流すように別の方向へと誘導するのだ。

そして、私自身の力は光の奥へと向かって行く。

輝きは強いけれど、小さな光がそこにはあった。

ただ、その光の輝きが時々弱くなるのがわかる。それも一瞬で、すぐに輝きを取り戻すけれど、少し待っていたらまた弱くなる瞬間がある。

まるで不整脈を起こしているような感じだ。

私がそっと光に手を伸ばすと、光は一瞬明滅した。警戒しているのかもしれないと思い、心の中で大丈夫だよと何度も繰り返しながら指先を伸ばした。私の神聖力を感じ取ったのか、小さな光は落ち着いたように輝きを放つ。

触れた光はとても暖かくて心地よかった。

ゆっくりとその光に神聖力を流していく。乱れる力を戻すように。静かにゆっくりと力の本来の流れを示していく。傷ついた場所があるようには感じられない。ただ力の流れがおかしくなることがあるのを補正していくのだ。

大丈夫だと神聖石に言っているつもりで、本当は自分に言い聞かせていたのかもしれない。

どれくらいの時間そうしていたのかわからない。

いつの間にか弱々しかった光がゆっくりと輝きを増していき、キラキラと周囲も小さな光の粒をまき散らし始めた。

これが本来の神聖石の輝きなのかもしれない。

その光景を見て、もう大丈夫だと思えた。

はっきりとした原因がこれだと言えるものはなく、ただ神聖石の中を流れる神聖力の動きがおかしかったとしか言えない状況だった。それでも、これで大丈夫だという確信はある。

「もう大丈夫だね」

その言葉が漏れると、私の周りに光の粒が集まってきた。

それがまるでありがとうとお礼を言っているように感じられて、嬉しい気持ちになりながら私は意識を浮上させるように神聖石の中から意識と力を離していった。

「セシリアさん」

ザックさんの声がすぐ近くで聞こえて、はっとしたように目を開けると、目の前にカイル様の顔があった。

驚いて固まると、すぐ横からザックさんの心配するような顔が覗き込んできた。

「大丈夫かい?」

「えっと」

「急に力が抜けたように倒れそうになったから支えていた」

カイル様が状況を説明してくれた。

神聖力を絡めとられて振り回されたり奪われたわけではない。意識を集中させすぎて立っていることを忘れてしまったように力が抜けてしまっただけだった。

自分の体に異常がないことを確認してからカイル様から離れると、すぐ近くにラニア様とベリル様が並んで神聖石を見上げていた。

その顔は2人とも呆然としているような、信じられないと言いたげな視線だった。

私も神聖石を見たけれど、特に触れる前と見た目に変わりはないように思えた。ただ、部屋を満たしている神聖力が少し変化したような気はしていた。

柔らかくなったというか、部屋全体が明るくなったような気もする。私が神聖石の保護をしたことで本来の力を取り戻したのだろう。

もう一度神聖石に触れてみると、一瞬滞っていた力の流れを感じない。正常に戻ったと判断しても大丈夫だろう。神聖石が無事に保護されたのなら結界の異常も解消されているはずだ。それに関しては今後の様子を見なければいけないけれど、おそらく問題は起きないだろう。

「神聖石の保護はこれで終わりです」

手を離して未だに呆けた表情をしている2人に声を掛けると、2人がお互いに顔を見合わせてから、私を真剣な表情で見てきた。

先に口を開いたのはラニア様だった。

「私たちではどうすることもできなかった状況を改善できたなんて。感謝するしかありません」

結界の異変は神聖石の問題だった。それを改善することで結界は本来の役目を果たせるようになった。その確認を今後していくことになるけれど、ラニア様は問題ないと考えているようだった。隣のベリル様も深く頷いて、代表2人は結界の異変が解決したと思っているらしい。

依頼された任務は無事に解決できた。

そのことにほっとしていると、急にラニア様が近づいてきて私の手を握った。

「神聖石の深部に触れて保護もできてしまうというのは、一介の聖女ができることではありません。先ほど本を読んだと言っていましたね。もっと詳しい話を聞かせてもらえますね」

お願いではなく命令に近い口調。

神聖石の保護を優先していて、先ほど会話のことをすっかり忘れていた。

神聖石の深部に触れられて、より詳しく調べることができたり、保護ができることを不思議がっていた。

無事に神聖石が保護できたことで、私への疑問をぶつけてきたようだ。

まるで逃がさないと言うようにしっかりと握られた手を離してくれる気配はない。

ベリル様も見ると、とても真剣な表情で私を見ていた。こちらも逃がしてはくれないのは明らかだ。軽蔑するような視線はもうどこにもない。

念のためザックさんに視線を向けると、彼も話を聞きたくて仕方がないように目を輝かせている。

どうしようかとカイル様にも視線を向けてみた。彼は関係ない人間なので、何か助けてくれるかもしれないという淡い期待をしてみたけれど、カイル様も興味があるように私を見つめる視線が真剣だった。

これは逃げられない。

私はため息をついてから、とりあえず地下から出ることを提案した。

「どこかゆっくり話せる場所に移動しませんか?」

適当な話をしても彼らはきっと納得してくれないだろう。ここは正直に話すしかないように思えた。

「お話してもらえますね」

念を押すようにラニア様が言ってきたので、諦めて頷くと手を離してくれた。

「すぐに部屋を用意しましょう」

ベリル様がすぐに動いて先に部屋を出て行った。

私への敵意はもうどこにもない素早い行動力に驚いていると、ラニア様が今度は私の腕を掴んだ。

完全に逃がさないという現れだ。

「詳しい話を聞かせてもらいます」

にこやかに笑っているのに、その顔を少し怖いと思ったことは胸の奥に仕舞っておくことにした。


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