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未知の聖女

すぐに地下室を出て、セシリアを抱えたまま廊下に出ると、聖女ラニアが先を歩いてセシリアの部屋まで案内してくれた。

「ベッドに寝かせてください。体調に異常がないか確認します」

2人部屋を1人で使っているので、ベッドが2つある。その1つにセシリアを寝かせると、ラニアがすぐに彼女の体に異常がないかを確かめ始めた。服を脱がせりはしないので俺がここに居ても特に咎められたりしない。

「何ともないようですね。眠っているだけです」

規則正しい呼吸に問題は見つからなかった。そのことにほっとすると、ラニアはすぐに部屋を出ようとした。

「このままにするのですか?」

「神聖石に問題がないか確かめなければいけません」

セシリアに異常がないことを確認すると。今度は神聖石に問題がないかを確かめる必要がある。

セシリアは神聖石に触れていたことで倒れたから、何か問題があったのかもしれないと思ったようだ。だが、一緒に触れていたザックは何ともないように見えた。セシリアだけが倒れたことを考えると、彼女にだけ何かが起こったと考えるべきだろう。

「私はこの神殿の代表です。憶測だけで神聖石が大丈夫だと判断することはできません」

しっかりとした責任感のある声に、俺がこれ以上言うべきことはない。

「彼女が目を覚ますまでここにいます」

女性の部屋に恋人でもないのにずっといるのは失礼なことだろうが、今はそんなことを言っている時ではない。

ラニアは静かに頷くと部屋を出て行った。その代わり扉は開け放ったまま。密室で男女2人。しかも女性側が眠っていることを考えての配慮だろう。

静かになった部屋で眠っているセシリアの顔を覗いてみた。

落ち着いた表情に見た目では異常はなさそうだ。

そこでほっとすると、いつまでも女性の寝顔を見つめるのはマナー違反だと思い窓の外に視線を向けた。

昼前の明るい光が降り注ぐ。

落ち着いた雰囲気に、自分の心の尖ったものが取れていくような気がした。

セシリアが倒れたことで神経がすり減ってしまったようだ。

ただ見ているだけという約束で神聖石がある場所を見せてもらうことができた。何が起こっているのか、それを解決できるのか、自分のわかる範囲で確かめておくことも今回の旅の俺の役目である。ユリウス殿下も今回の第3都市の異変を気にしていた。その報告も仕事なので、ラニアとベリルに許可をもらって見るだけという条件で同行できた。

セシリアとザックが神聖石に触れていたが、2人が神聖力を流して調べていることは理解しても、具体的に何をしているのかはわからなかった。俺も神聖力を少しは持っているが、聖人になれる程の力はない。具体的に何が起こっているかまでは、見ているだけでは想像するしかなかった。

一緒にいたラニアとベリルは何をしているのか、どういう状況なのか把握していたのか、じっと神聖石を調べている2人を見つめているだけで動かなかった。

だが、神聖石に触れていたセシリアが急に体を揺らしたことで、2人が急に走り出した。

大きく体が傾いたセシリアはそのまま床へと倒れこむ。なんとなくその倒れ方が、足元がおぼつかなくて倒れたというより、何かに引っ張られるように倒れたように見えた。だが、セシリアの隣に立っているザックは反応がなかった。それ以外に何かがいたようには見えなかったし、別の存在を感じることもなかった。

不思議な感覚ではあったが、それよりも倒れたセシリアの方が心配でもあったので、駆け寄った2人を追った。見ているだけという約束ではあったが、緊急事態と判断して神聖石に近づくことにしたのだ。

セシリアが倒れた以外に異常を感じることはなく、隣に立っていたザックは何が起こったのかすぐに把握できなかったようで、驚いた顔をして固まっていた。

ラニア達を追い越して俺はセシリアを抱き起こした。彼女は意識があるようだが反応することができない状態だった。眩暈に襲われているのか頭がふらふらと動いていた。ラニアも確認するように顔を覗き込んだが、セシリアは上手く反応できないようだった。

とりあえず神聖石の調査を中断して彼女を部屋で休ませることにした。

何が起こったのかわからないため、ザックとベリルは部屋に残って神聖石に異常がないかを確認することになり、ラニアに案内されてセシリアを運ぶことになった。

運んでいる間に意識を失ったようで、今は落ち着いて眠っている。

目を覚ましたら何が起こったのか話を聞く必要があるだろう。

「なにか、良くないことが起こりそうなのか」

結界の異変というだけで不吉なことを考えてしまうというのに、結界を作っている神聖石に触れて倒れる聖女がいたと知られたら、それこそ第3都市全体に不安と恐怖を撒いてしまう。このことは内密に処理することになるだろう。

「殿下への報告はしないといけないだろうな」

そのために俺はここに居るのだから、今回のことを報告する義務がある。

今のところ総合的に見ていると、結界の異変の原因がわからず、それを解決することができなかった。今回の任務は失敗だったと判断するしかない。

失敗だと評価されれば、第3都市の存続の危機となり、殿下も皇族として動く必要が出てくるかもしれない。

「たしか、第3都市の管理は陛下の弟君で公爵のはず」

それぞれの都市には管理する長として皇族か、その血筋の人間が選ばれる。大陸には12の都市があるが10の都市を皇族が管理して、残りの2つは魔物が大量発生する前に存在していた2つの国の代表がそれぞれ管理している。

俺が直接公爵に第3都市が危機的状況ですと伝えるわけではないが、まずはユリウス殿下に伝えなければいけない。そう考えると気が重くなる。

「・・・ん」

気分が沈んでいくのを感じていると、セシリアが意識を取り戻したようで、ゆっくりと目を開けて天井を見上げた。

「ここは・・・」

「気が付いたか」

顔を覗き込むように声を掛けると、セシリアは意識がはっきりとしているのか俺の顔を見てすぐに驚いた顔をした。

「カイル様」

「君は神聖石を調べている途中で急に倒れたんだ。そのままにはしておけないから部屋まで運んだ」

「倒れた・・・そうですか」

状況を把握するように彼女は片手で目元を覆って記憶を呼び起こしている。

何が起こったのか思い出すと、手を避けて体を起こした。

だが、まだふらつくのかバランスを崩しそうになったので、手を伸ばして体を支えてあげた。

「ありがとうございます」

セシリアは礼を言ってベッドに腰掛ける体勢になる。落ち着くように深呼吸を繰り返してから部屋の中を見回した。

「他の人たちは?」

「神聖石に異常がないか確認している。何事もなければ戻ってくるはずだ」

隣に立っていたザックは特に異変に気が付いたようではなかった。もしかするとセシリアの体調に問題があっただけかもしれない。まずは彼女の状態を確認することが先だろう。

「体調はどうだ?あの部屋に行く前から調子が悪かったなら、先に伝えておいてほしかったが」

「私は平気です。体調に問題もありませんし、神聖石の力に油断して振り回されただけです」

「振り回された?」

特に体に問題はないようだが、振り回されたという意味がわからなかった。

神聖力は感じ取ったり、治療や神聖石の保護の時に使う力であって、振り回されるというのは聞いたことがない。不思議な表現に戸惑うと、セシリアは何かに気が付いたように口元を手で押さえた。明らかに余計なことを言ってしまったという雰囲気だ。

これは聖女や聖人でないと通じない会話だったのかもしれない。

「神聖石の部屋にいるのなら、私も戻ります。確かめたいこともありますから」

今の話をなかったことのように彼女が立ち上がった。だが、少し足元がふらつくのか数歩進んで立ち止まる。そんな姿を見せられて、黙って後をついて行くことはできない。

すぐに横に立って腕を差し出した。

きょとんとした顔で見上げられるが、すぐに意味に気が付いたようでふわりとセシリアが笑った。こんな表情もするのだなと思うのと同時に、胸の奥に疼く感情があったが、それは気が付かなかったことにする。

「止められると思いました」

「聖女として動いているのだろう。俺は口出しできる立場ではないから、手伝うくらいしかできない」

エスコートだけならするという意思表示に、セシリアも貴族出身だ。すぐに手を添えてきた。

「だけど、地下の部屋に行くには代表のどちらかが一緒でないとたどり着けなかったはず」

その指摘にセシリアはとりあえず地下へと行くための部屋まで行きたいと言ってきた。

何か彼女に考えがあるのかもしれない。自分の立場をもう一度思い出して、とりあえずセシリアを伴って地下へと続く部屋に行くことにした。



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