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幼馴染みとして

第3都市へ向かうことをオルトロ様から命じられた時は、大聖女が一緒かもしれないと聞かされて正直憂鬱でしかなかった。

大聖女リリスが大聖女として相応しい神聖力を持ち合わせているとは僕は思っていなかった。

大聖女として色々と貴族からの申請を受けていても補佐聖女や他の聖女達に仕事を押し付けていることは神殿の中でも知っている人は知っている事実だった。

それでもリリスが大聖女に相応しくないと発言する者はいない。彼女の背後にあるトールス伯爵家が金に物を言わせて何をするかわからないという噂も一緒に付きまとっているからだ。

だから僕も余計なことを言わずに大聖女リリスの動向を見守ってきた。

幼馴染みであるカイル=アズリクフがリリスに気に入られて護衛騎士になった時に、皇太子の思惑をカイルから直接聞かされた。僕としては喜んで協力したいと思ったけれど、あからさまな行動はできなかったので、カイルの力になれそうな情報を集めることにした。

カイルとは親同士の仲がよく、幼い頃によく遊んでいた。貴族の学園にも一緒に通ったが、カイルは伯爵家、僕は男爵家ということで、年を重ねると一緒にいる時間が減っていった。

それでも、学園を卒業して僕は神殿で聖人となり、カイルは聖騎士として城で働くようになると、魔物討伐など、騎士たちの治療のために応援としてカイルと会うことが何度もあった。

やはり幼馴染みと言うべきか、僕は変わらずカイルと接していると、カイルも聖騎士としての態度よりも幼馴染として接してくれていたことは嬉しかった。

気心が知れた相手ということで、皇太子の思惑を打ち明けてくれて、神殿にいる時間の多い僕に協力してほしいと思ったようだ。

彼に頼まれたからというのもあるけれど、僕としても大聖女リリスには疑問が多かった。そのため、この1年はリリスの動向を注意深く監視するようになっていた。

そんな大聖女リリスと一緒に旅をすることになれば、彼女のことをより深く探ることができるかもしれないという気持ちも一瞬よぎったけれど、ずっと一緒なのかと思うと嫌だなと思う気持ちの方が明らかに大きかった。

落胆した気持ちを抱えて集合場所に行ったのだが、そこにいたのはいつもリリスに仕事を押し付けられて動き回っている姿を見ていたセシリア=ローズネルだった。

大聖女の動向を探るうちに彼女が優秀な聖女であることは把握していた。

僕の予想ではリリスよりも神聖力は強い。

それをはっきりと認識したのは村での神聖石の保護の時だった。

セシリアさんは神聖石に触れる前に異変に気が付いたようだった。僕は触れることで神聖力がほとんどなくなっていることに初めて気が付いて村長に進言できたが、彼女は見た目や場の空気で判断しているような気がした。

「あれが才能なのかな」

「何か言いましたか?」

馬に揺られながらセシリアさんのすごさを呟いてしまうと、後ろのベンさんが不思議そうな声を出してきた。

「なんでもありません」

「何か異常があったらいつでも言ってください。それに、セシリア嬢はしっかりとした聖女のようで助かっています」

彼の言いたいことは振り返らなくてもわかる。僕も同じ気持ちだ。

普通の聖女なら先ほどの魔物の遭遇に気が引けてこの先の旅が続けられるかどうかわからなかった。本来は馬車移動で魔物に遭遇しても馬車の中で見えないことが多い。それを間近で魔物を見て倒す場面も始めて見たのに、彼女はカイルと一緒に平気そうな姿で馬に乗っていた。気丈に振舞っている部分はあるかもしれない。それでも、彼女は帰りたいと泣き出したり騒いだりすることがない。

毅然とした態度で先に進むことを苦としていないような雰囲気に感心してしまったぐらいだ。

それにカイルと何かを話していて、よく見ているとカイルがとても穏やかな表情をしていることにも気が付いた。あいつがあんな顔をするのを見るのは久しぶりな気がした。

「セシリアさんは大聖女の代わりが務まると判断された聖女ですから、きっとこのまま第3都市までついてこられると思いますよ」

カイルの表情に驚きつつも、ベンさんとの会話は続ける。

「馬での強硬移動なので、体力面は気にしないといけないでしょうね」

「そうですね。女性にはきつい旅になるでしょう」

だから、村で休憩したときに歩けないほど体力を消耗していることを知って治療をしておいた。すると僕の治療も彼女はしてくれた。相手を気遣える優しい女性のようだ。

「今回の旅は大聖女が来なくて本当に良かったと思っています」

ベンさんも大聖女リリスを立派な大聖女として評価していない人のようだ。心底リリスが来なかったことに安堵するような声が聞こえる。

同感だったので頷いてしまうと、背後で笑うような気配を感じた。

「大聖女リリスに関して悪い噂は耳にしていますよ。どうやら神殿の中でもよく思っていない人はいるようですね」

「より大聖女に近い人たちは特にわかっていると思いますよ」

開き直って口にすると、ベンさんが苦笑したようだった。大聖女リリスを咎められないのはトールス伯爵が背後にいるからだということも彼は知っているのだろう。

「そんな場所であんなにまっすぐに仕事と向き合っているセシリア嬢は貴重なのかもしれませんね」

「そうですね。潰されてはいけない存在だと思います」

仕事を押し付けられて走り回っているようだが、彼女は不満を漏らすことなく仕事をこなしているようだった。神聖力が強いからこそ仕事を押し付けられても出来てしまうため、彼女が誰かに手伝いを申し出る姿も見たことがなかった。

いいように使われていると思う。このまま都合のいい聖女としてこき使われて捨てられることだけは避けたい存在だ。

彼女を何とかしてあげたいが、それができるほど僕に権力があるわけでもない。

それよりも、カイルが大聖女リリスを断罪できるだけの証拠を集めて皇太子や大聖人様が不適合だと突き付けてくれた方が手っ取り早い気がする。証拠さえあれば、トールス伯爵も下手に娘を庇えなくなるはずだ。

それを期待しているが、その前にセシリアさんが潰れないように気を配ってあげることが僕にできることなのだろう。

もう一度セシリアさんに視線を向けると、カイルと会話をしているようで、2人の間に穏やかな空気が流れているような気がした。お互いに落ち着いた表情をしている。

いや、カイルの方はセシリアさんの頭を見つめる視線が少し違う気がする。

「あいつ、まさか・・・」

今まで微塵も女性関係の噂がなかったカイルだが、この度春が訪れたのかもしれない。

驚きつつもなんだか嬉しい気持ちになるのは幼馴染だからだろうか。

一か月前の魔物討伐で怪我をした時、他の騎士たちの治療を優先してカイルは怪我を隠していた。それをこっそり僕が治療するはずだったのを、先にセシリアさんが見つけて治療したらしい。その時に怪我を隠したことに対して怒られたそうだ。それ以降、事情を知っている僕の前では彼女を気遣うような言動がいくつかあった。自分の怪我を治してくれた聖女として、他の聖女を違うセシリアさんが気になっているのだと思っていたが、そこに違う感情も芽生えていたようだ。

そのことを指摘したら否定して拗ねてしまうそうな気がする。そうなると彼女への感情を拗らせる可能性があるので、今はそっと見守ってあげる方がいいように思えた。

なんだか子供の成長を見守る親になった気分だ。

幼馴染みとしてもカイルが幸せになってくれることを祈っている。

ただ、セシリアさんはきっとカイルの気持ちに微塵も気づいていない。それよりもカイルに対して恋愛感情を持っていないと思う。

他の聖女達がカイルに見惚れたり、かっこいいと騒いでいても、彼女はそれに便乗することもなければ、カイルを異性として見ているのかさえ怪しい気がしていた。

今回も一緒に第3都市までの護衛騎士として同行しているだけと思っているだろう。

「先は長そうだな」

2人の温度差を埋めてあげる手助けが僕にできるかどうか、それは今後の2人の雰囲気や関係性で判断していくしかない。何かできることがあれば、その時は惜しみなく手助けをすることを誓うのだった。


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