伝えたい気持ち
「……はい。……もしもし?」
相手が電話に出た。
ただし、どこかめんどくさそうな声のトーンで。
まぁ時間を考えれば人によっては寝ていたり寝る準備をしていたりしてもなんら不思議ではないのだが。
そんなことはお構いなしと蓮見が口を開く。
「ちょっと頼みがある!」
「なに? 後声大きくてうるさい。もう少し静かに喋って」
よし、落ち着け、俺。
まずは一緒に同行していいのかの確認からだ。
一緒つまり……同性なら遊びに誘う感じでラフにいけるが女性ならデートのお誘いのようにまずは下手に出て相手の様子を伺いながらだな? よし、これで……なにも問題ないはずだ。
自分自身にそう語りかけ、美紀を応援する目的が同じ相手に提案を持ちかける。
「お、おう。それで頼みなんだが……二週間後の土日俺と(観戦)デートしてくれ!」
…………!?!?!?
(私を女として見てたの!? え? うそでしょ!?)
電話の相手が急に黙った。
電話の音で起こされ少し不機嫌だった橘ゆかりの眠気が一気に飛んだからだ。
そして――蓮見も黙った。
あっ……主語を言ってなかった、ようやく我に返った脳はこの後の言い訳を必死になって考え始める。
突然告白とも捉えられる言葉を送られた女子高生と突然勢い余って告白とも捉えられる言葉を送った男子高校生。それも同じ学校、同じクラス、席も一つ斜め先と比較的近く、最近話すようになった関係の二人なだけに……お互い気まずくてしょうがない。
「…………は、はい?」
突然の言葉に戸惑いが隠せない橘の声は裏返った。
「ちょっと幾らなんでもいきなり過ぎない? ……まぁ……考えてみる……とりあえず今日は眠いから明日学校で返事をする。じゃ、お休み」
そう言って蓮見に弁解の機会がないまま電話は切られた。
電話を掛ける相手は正解だったはずなのに、蓮見は応援の前にどうやらとんでもない爆弾に火を付けてしまったようだ……。
「違う、違うんだぁ!」
両手を頭に乗せて叫ぶ蓮見。
だけどどんなに嘆いても時は戻って来ないし、時間は巻き戻せないのだ。
これでは明日学校に行ったら皆に誤解されてしまう。
「ま、まずい……なんとかせねば……」
慌ててもう一度電話を掛けるが橘がでることはなかった。
別の大きな問題が生まれた蓮見はこの日一睡もすることができなかった。
だって……明日皆の前でフラれて間違いなく美紀の応援をするための道案内兼ガイドさんを確保できない可能性大になってしまったから……。