表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/65

激突 最恐 VS 最強 開戦――『一曲目』


 分身を使い闘わせている内にHP調整を終わらせた紅は朱音の攻撃範囲と反応速度を確認していた。

 そして――確信する。

 辺り一面に広がった氷は朱音の意思を反映して動いているが全部が全部そうじゃないことに。今まで何度も朱音と対戦してきてわかったことはやはりこの世界のスキルの方が全体的に強くなによりそれを朱音が使うことが恐ろしいということだ。

 だがデメリットはメリットでもある。

 向こうが本来の力に戻った。

 その事実は紅のパワーアップとも取れる。

 そして運営が用意してくれた普通なら誰もが持っている基本的なスキルを手に入れた紅は自身の最速を持って最強に勝負を挑む。

 聖水瓶を頭から被り、マッチに火を付け点火。

 すると全身に広がる火が体温の低下を多少なりとも抑止し、神災モードのオーラと混ざり混合していく。

 揺らめく火と水色のオーラ。

 この世界での新しい神災モードのお披露目である。

 もっと言えば相性最悪の相手専用の神災モードとも言えるのかもしれない。


 身体だけでなく、気持ちまでも熱くしてくれる火はどんどん燃えていき、炎となって紅の周囲の氷をじわりじわりと溶かし始めた。


「行くぜ、お母さんいや朱音! 俺様忍法瞬進の術!」


 紅が力強く一歩を踏み込んだ。


「――ッ!?」


 一瞬にして朱音の視界から消えた紅は瞬時に両者の間合いを詰めて右手に力を入れて殴る。


「は、やい!」


「まだまだ!」


 朱音の自動防御でもある氷の触手の反応速度を超えた動きは今まで朱音が見てきた何よりも速く、予測不能な動きを始めた。

 僅かな躊躇いを抱えながらも素早く反撃の一撃を繰り出すがその時にはもう紅の姿はそこにはない。


「――タン、たん、たったったん~熱く燃える♪」


 どこからかリズムに乗った声が聞こえ、朱音が自分の影に違和感を持つ。

 まるで影が意識を持っているかのように僅かに動き始めたからだ。


「――うえっ!?」


 朱音の頭上から素早く攻撃を見せる紅の一撃は髪の毛に触れるだけでギリギリのところで躱される。

 そして再び槍が紅の急所を狙い正確に素早く向けられるが地面に拳が触れた瞬間朱音の前から再び消える。


 今まで紅が使うことがなかったスキル『アクセル』の使用。

 その効果はプレイヤーのAGIを倍にする効果を持っており、この世界では発動者が任意で発動を解除するかMPゲージが底を尽きるかでしか止まらない。

 いわゆるMPを消費し続けることで持続的に発動するスキルと言うわけだ。

 そんなシンプルなスキルを手に入れた紅はこの世界でも最速の持ち主となって朱音に牙を向く結果となった。


「これじゃ……まるで瞬間移動ね……」


 槍を持つ朱音の右手に冷や汗が流れ始める。

 氷の触手による自動防御は今まで去年神々の挑戦で優勝した世界の女王にしか破られることはなかった。扱いが非常に難しく、集中力や神経は勿論、脳内によって演算された出力を自動的にインプットすることでMPを糧として動くスキルは並大抵のプレイヤーではその真価を発揮させることができない。また使用条件でもある要求するステータスも過剰と一級品のスキルでもある。それは同じ力や類似した多種属でしか今まで突破されることはなかった。

 なのに身一つ、そしてAGIに極振りしたステータスを持つ少年が中級者以上なら誰もが持っている基本的なスキルで突破してきたからだ。


「――ああ今が真実で俺が俺様になった~♪」


 テンポがあがっていく。

 それに合わせて身体が慣れてきたのか動きが良くなる紅。


「演算が間に合わない……じどぅげいげきが……ッ!」


 消えては出現をパータンではなく、その時の気分とノリで変えてくる紅の攻撃はいたってシンプル。

 だが紅の眼を知っている朱音からすればそれはワンパン。

 氷の盾を自動展開しても本来なら紅蓮の矢を防ぐことができる盾なのに今は一撃で壊される。紅はテキトウに見えて適当という名の臨機応変な攻撃をしている。


「どんなにスキルをつぎ込んでもステータス二万がせいぜいいい所。それは私やアリスでもそう。だけどそれを遥かに超える速さってことは……」


「二万五千オーバーだぜ!」


 一瞬で背後に周った紅が叫び、重くて鋭い回し蹴りを放つ。


「そうよね~あはは!」


 それを槍を使って受け止めると同時に攻撃を受けたベクトルと同じ方向にジャンプして距離を取りつつ軽減する朱音は笑い始めた。


「愛なんて鎖のような言葉は要らない♪ 女の子を一人占めする魔法の言葉が欲しい♪」


 独占欲に埋もれた哀れな男の本音で構築された歌は世界に発信されている。

 幸いなことに歌唱力に関してだけは人並み以上あるため聞くに耐えられない楽曲にはなっていないが、世界中の観客はコイツなんて言う歌を歌ってるんだ? と思わずにはいられない。

 だけど対峙する二人には世間の目は関係なく。


「いいわ、いいわよ、ダーリン。その進化した姿で私だけを楽しませて! 身も心もダーリン色に完全に染めて頂戴♡」


 冷や汗は引いた。

 歌は減少するMPを限りなく零にしていることに気付いた朱音は槍をもう一本取り出して両手に持った。

 同じ槍が二本。

 つまり攻撃力が二倍。

 そんな単純な話じゃないだろうな、と危機感を覚えた紅はとりあえず二曲目歌うか、の精神で歌い続ける。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ