激突 最恐 VS 最強 開幕――加速するギア
放たれた矢は朱音の背後から静かに心臓を狙って飛んでいく。
その間にさらに六体の分身を作りMPポーションと聖水瓶を持たせて素早く移動させる。
だが――飛んでいた矢は分身と同じく触手のように伸びてきた氷によって防がれ粉々に砕け消滅していく。
「なるほど、お母さんの半径五メートルは特に気を付けないといけない感じか」
まだ朱音と言う呼び名にも朱音との戦闘にも慣れていない紅は今まで以上に慎重に動いて行く。衝動を爆発させるのは必要な情報を得てからでも十分に間に合うからだ。
「そこにいたの?」
朱音が振り向いた瞬間を狙って紅が指をパチンッと鳴らす。
「今だ! 全てを燃やせ、紅蓮の矢」
冷気には火力と分身たちによる紅が持つ単独スキルでは最高火力の紅蓮に燃える矢が四方八方から放たれる。
「――ッ!?」
奇襲の連発。
大木から生える小枝の葉の隙間や大きな岩影を利用した四方八方からの攻撃。
それだけではない。
予め放り投げられた聖水瓶を貫通しさらに火力を上げて空中浮遊する朱音を襲う矢の数は六本。
「まだだ!」
分身たちに力を渡し同じく神災モードとなった本体の紅も少し遅れて分身たちと同じ行動に出る。
氷の触手が飛ぶ矢と攻撃を仕掛けてきた本体を含む紅七人へ同時に攻撃を仕掛ける。
「なんとも万能な氷様だぜ! だけどそう簡単には捕まらないぜ! 来い俺様戦闘機全機スクランブル発進だ!」
その言葉に合わせて紫色の魔方陣が出現し毒矢を連続で発射させ氷の触手を一矢一死で撃ち落としていく。だけど氷の触手は次々と枝分かれして数を増やして紅へと襲い掛かる。対して毒矢は迎撃と同時に発艦紅の足場となり氷の触手による攻撃を回避しながら動く。
「数には数。第二次攻撃隊緊急発艦!」
もう一つ。
紫色の魔方陣が出現し紅を護るミサイルとして機能する。
分身たちも同じくスキルの一つ『猛毒の矢』を使い対抗する。
だけど火力が足りず一体、また一体、もう一体と分身たちが氷の触手に心臓や脳を貫かれ粉々になっていく。
この瞬間紅は悟った。
この程度ではまだまだ火力不足であると。
「これを受け取れ!」
紅は分身の一体に向かって聖水瓶Ver2と火炎弾を投げる。
今までのと比べて濃度が高く効果が大いに期待できる便は蓋が緩んでいた為液体が空中で飛び散り分身が全身に浴びる結果となる。
そして生き残った分身が雄たけびを上げながら火炎弾によって生まれた炎に包まれながら姿を変え燃える神災モードの神災竜となって降臨する。
「へぇ~凄いわね、でもばいばい~」
朱音が肩幅に足を広げ槍を投擲した。
槍は神災竜が行動に出る前に頭を貫き、槍を起点として氷が生まれ炎と一緒に神災竜を氷漬けにして粉々に割れた。
槍は磁力に引っ張られるようにして朱音の手の中へ戻っていく。
誰もが信じて疑わない最強の小手調べに紅の表情から余裕が消えていく。
特別な眼がなくても相手を一殺できる者は油断なく残った紅に視線を向けた。
そして特別な眼を持ち相手を一殺できる者も隙が全くない朱音に視線を向け、両者の視線が重なった。そして。
「よし、準備運動はこれくらいでいいか」
それは強がりから出たハッタリかそれとも真実なのか。




