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それぞれの思い 美紀


 ■■■


 修行が終わり、やっと各々が自分の時間を手にした頃。

 美紀は部屋で一人思い悩んでいた。


「なんで? ……どうして? ……あれだけ通用する自信があったはずなのに……」


 ここに来て久しぶりに感じた壁はあまりにも高く、あまりにも険しく、簡単に乗り越えれる物じゃなかった。


「……なんで全く通じないのよ……」


 奥歯を嚙み締め今日の振り返りをする美紀の手に自然と力が入る。

 決して美紀が自意識過剰だったわけではない。

 美紀には過去の実績があり、周りの評価は今でもある。

 ただ――それでも氷山の一角である朱音には届かなかったというだけ。


 せっかくゲームが楽しいと思えた。

 だけどそう思えたのはあの日まで……今はそれ以上に苦しいとしか言いようがないぐらいに精神的な焦りと疲れからそう感じることしかない。


 やはり遊びでやるのと本気で仕事としてするのでは求められる物が違う。

 高校生にしてそれに気づいた美紀は思い悩む。


 ――ふとっ。

 思い出す。蓮見と一緒に過ごした時間を。

 あの時は本当にいつも楽しかった。

 周りを見れば対峙することはあっても最後は一緒に笑える仲間がいて励まし合う仲間がいた。なにより隣に――アイツがいた。

 

「私はこの先どうすればいいの……」


 一人悩む美紀を助ける者はいない。

 朱音や七瀬や瑠香に相談すればいいのかもしれない。

 だけど今後ライバルになるであろう相手にはどうしても相談したくない。

 苦しいのはあの二人も同じだろうから。

 ならば朱音?

 いや……それは無理だ。

 なぜなら今の朱音はもう蓮見の前で見てた優しい朱音ではなく、厳しく貫禄がある師匠なのだ。それに相談したって……それは美紀ちゃんの問題。今後を考えるなら自分一人で思い悩んで答えを出すしかないわ。なんて言われるに違いない。簡単に想像が付くのはここに来て朱音のことをよく見ていたから。

 

「どうすれば……もっと強く……」


 さらに思い出す。

 あれ?

 そう言えば蓮見ってなんで成長止まらなかったんだろう?

 今にして思えばとても不思議である。

 結果論から見れば停滞したと思っても次の戦いでは必ず次の武器を用意していた。その隣には必ず仲間がいた。この状況下で相談できる相手が一人いた。こちらの事情を多少知り蓮見の成長を支え続けた一人が確かに――美紀はスマートフォンに手を伸ばしてエリカへ電話を掛けた。


 数秒後――。


「もしもし?」


「エリカ? 今時間いい?」


「その声は……美紀? いいわよ、それにしても久しぶりね」


 美紀は弱い自分をエリカにさらけ出した。

 恥ずかしいと思う自分がどこかにいるのはやはり自分が弱いからだろう。

 だったらいつも自分が弱いと自重していた蓮見となにか通じる物があるかもしれないと、希望を託して洗いざらいありのままの出来事を伝えていく。

 すると、エリカが言った。


「情けないわね。きっと蓮見君が聞いたらショックを受けるわよ。だって美紀――」


 エリカが受話器越しで言ってくる言葉は美紀にとって意外な物だった。

 最初は厳しい言葉だと思ったが、全然違う。

 エリカの言葉を聞けば聞くほど自分がまだ心の片隅で甘えているのだと気づかされる。蓮見は今までに何度も今の自分と似たような状況になっていた……それでも何度も立ち上がり続けたのはなんのためだったのか……そこに美紀が求める答えがあった。


「ありがとう、エリカ。少し気持ちが楽になった」


「どういたしまして。そんで頑張りなさい、私応援してるのよ? それと頑張ってたらいいことあるかもしれないわよ」


「それもそうね」


「ならばいばい。また電話する」


「は~い。お休み美紀」


「お休みエリカ」


 それから美紀は明日の為に深い眠りに付いた。



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