神災出陣
独り言を呟いた紅にアレンが近くに来て問いかける。
草原フィールドは風がなく、雲一つない空からは太陽が眩しくて思わず清々しい気持ちになる紅。
「貴様なぜ服を着ていない?」
低い声の方に顔を向ける紅。
そのまま首を傾けて。
「なんで服を着る必要があるんだ?」
逆に服を着ている方が不自然だと言いたげに質問に対して質問で返答した。
「コイツ……変態か?」
ボソッと声が漏れたアレンに紅は言う。
「別にこの世界なら裸族になってもなにも問題ないだろ?」
それが当然の如く紅は言った。
それに対しアレンは言葉を詰まらせた。
紅から見たアレンはなぜか信じられないことを聞いたかのように目を大きくして戸惑っているように見えた。
それはアレンだけでなく、観客席で神災を見ようと紅が写るモニターに視線を向けていた者たちもだ。
いつからこのゲームはえr……げーむになったのか……。
一人の例外を除いて誰一人理解が追いつかない。
それを知ってか知らずか紅が捕捉する。
「一応言っておくけど俺は変態じゃない」
「……ん?」
「俺は紳士だ! それが答え。まぁ戦えばわかるさ」
「そうか」
アレンは深く考える事を止めたのか、鼻で笑い武器を手に取った。
左手には機能性に優れた盾を持ち、右手には片手用直剣を携えていた。
「上の数字を見ろ」
そう言われて紅が視線を空に向けるとカウントダウンの数字があった。
「後十秒後試合開始?」
「では選手のみなさーん間もなく試合開始となりますので武器を構えて下さい。ではカウントダウンをはじめまーす」
「ちょうど良いタイミングのアナウンスだな」
「五、四……」
カウントダウンが始まり二人の間に緊張感が生まれ……。
「よし、いつでもかかってきな」
紅は浮き輪をアイテムツリーに直して、パンツ姿で挑発する。
失礼。
パンツ一枚ではなく海パン一枚のまま武器はなにも持たず、不敵な笑みを浮かべる。
「二、一、試合開始!」
試合開始と同時アレンが放った殺気が紅の身体を硬直させる。
だが。
「貴様……なんだその不敵な笑みは?」
紅の表情は全然変わらなかった。
どころか既に慣れているかのように平然と答える。
「お母さんに比べたら大したことない、ただそれだけ」
「貴様!」
「そう叫ぶなって。俺はこの世界の神になる漢だ。それを今から見せてやる。これが俺の編み出した業だ! 多重影分身の術!」
HP一割と引き換えに分身を一体生成する。
そしてHPがある程度減ったタイミングで㏋ポーションで回復して再びスキルを使い三十人の紅がアレンを囲う。
全員海パン一枚姿で容姿も同じのため簡単には見分けが付かない。
「数による物量作戦。なんともくだらん」
「違う、違う。見てろ、これが俺様裏世界バージョンだ! 忍法口寄せの術!」
青い魔法陣からメールが出現する。
「メールお前の女王としての力を今こそ解放するんだ!」
金色の髪をなびかせながら上半身が幼さ残る少女姿で下半身が魚――人魚の召喚獣は「は~い!」と元気な声と一緒に登場しては空に両手をあげて気合いを入れる。
すると草原を作っている地面から海水が湧き水のように出てくる。
本来のメールの力を使う紅に観客一同「おぉ~」と関心の声をあげるが、アレンは違った。背中から生えた羽を使い空に逃げて紅の出方を慎重に伺う。
そこに油断も隙もない。
ただゆっくりと視線を動かして周囲の状況を確認して、落ち着いた様子を見せる。
「なにが狙いだ……」
アレンは紅のことを知っている。
最近妙に噂を聞くようになったからだ。
だからだろう……。
海の中を泳ぎ始めた紅たちがただ海水浴ごっこをしているわけではないと気づいたのは。
そして本体はメールの背中に乗った可愛い女の子を道具のように扱う卑劣な奴だと思った。
だけど、メールは嫌な顔は見せていなかった。
むしろ、紅のやることに対してお手伝いできることが嬉しいのか笑みを浮かべている。そもそも紅に対するメールの好感度はマックスで二人の信頼関係に隙はなく、多くの者は既に知っている。紅は決してメールの嫌がることは絶対にしないことを。だから大衆の観客たちは手に汗が流れ始めた。
各々が何かを感じ取り始めた頃――紅が口を開く。
「皆、聞いてくれ!。時は来た! 今こそ俺様海軍紅大隊の初陣の刻だ!」
紅の言葉に分身の紅たちの雄たけびが広がる。
分身は本体から㏋の一割しか貰っていないため全員神災モードに既に入っていた。




