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戦いのゴングが鳴る前に


「対戦者を確認した皆さんは自分の名前の隣にある番号のステージに自動的に転送されます。するとすぐにアナウンスが流れますので指示に従って勝負を開始してください。決着が着くと再びこの場所に転送され、今日の試合が終了となります。後は今日の勝敗に応じて各々に点数が付与されます。その点数を元に明日以降の対戦が決定しますので公式からのアナウンスには気を付けてください」


 その言葉にフムフムと頷く紅。


「なるほど。小百合さんの言葉通りだな。後は試合が終わるまでは里美たちとの会話が禁止だったけ。本当は近くまで行って今すぐにでも話しかけたいけど、それが原因で里美たちの程よい緊張感と集中力が切れる可能性があるって言われたら我慢するしかねぇか……。それに俺は俺のやり方で応援するって決めたしな」


 紅は小百合との約束を思い出す。

 足を運ぶべき場所は納得がいかないお別れを迫られた相手の場所ではなく、再会を条件に『神々の挑戦』を盛り上げるエキストラとして”ゲームを楽しむ俺”を皆に見せればいいのだと。なにも勝つことだけが目的ではないと、自分の使命を再度心の中で確認する。当然勝敗なくして闘争心と言うのは燃えないのだろうが、紅は今も昔も誰が相手でもゲームを楽しむことを大切にしている。

 だから物凄く楽しめたなら負けても構わない。

 内心は悔しくて辛い、なんてこともあるだろうけど紅は知っている。

 楽しくないゲームで勝ってもちっとも嬉しくないことを。

 それは偶然か必然か。

 力を手にして強くなりすぎた結果周りに敵がいなくなった者たちの一種の甘くて絶賛するご褒美でも末路でもあるソレを手にした者たちが抱える感情に似ていた。


 だから――惹かれるのかもしれない。


 ゲームを楽しむ紅に。


 強者と呼ばれる者たちが敵となる相手が目の前に現れたと思い。


 確かに歯ごたえがない相手やもう知り尽くした戦略の相手と戦い続けても人間誰しも飽きがくるのは仕方がないこと。

 だからエンジニアはユーザーである沢山のプレイヤーたちに楽しんでもらえるように頭を使う。だけど所詮は人間。万人を楽しませることはできても不特定多数の全員を楽しませることは無理だ。そこに偶然強者によく効く良薬として機能する男がある日現れた。その男の自由奔放にあるエンジニアたちは頭を抱え、彼の自由奔放過ぎる行動を制限しようとした。だが、それらは全て失敗に終わった。だけどある結果も生まれた。それは強者と戦う度に行動パターン(戦闘スタイル)が大きく変化するある種理想の敵だった。その敵は某世界で某責任者に社会的制裁(神災)を与えた。そして某責任者は考えた。彼を制御するのではなく、力を与え今度はこちらが利用してみるか、と。結果はもう言うまでもなく――。


「全試合同時進行か!?」


「やべー、どれ見る? どれ見る?」


「【進撃の神災者】は何処のモニターだ!?」


「神よ! 我らは神の味方ですぞ!!!」


 などなど、一人の男をきっかけに例年より盛り上がりを見せていた。


 某責任者は言った。


「神災を抑制するために神災と最強を用意し敗北した。ならば最強を倒す為に今度はこちらが全ての神災を制御下に置き力を与えれば最強に勝てる」


 と。それを聞いた某娘は言った。


「仕事とプライベートがごちゃごちゃ過ぎ」


 と。だけどまぁ悪くないか、と付け足して今も特別観客席からエリカと一緒に戦闘フィールドに転送された紅を見ていた。


「紅君頑張って」


 心配そうに祈るエリカに小百合は小さい声で言う。


「本当に運がいい人です。アイツは里美と同じくらい貴女を……」


 今まで隣でサポートしてくれた存在が急にいなくなれば、アイテムツリーを見る度に思い出しても仕方がない。

 そんな意味合いを込めて隣で祈るエリカに聞こえるか聞こえないかの声で小百合は言った。


 紅の初戦の相手はアレンと呼ばれる男で容姿は二十歳前後の外国人プレイヤーだった。


 だけど紅はいつも通り気が抜けた表情で転送先のフィールドで大きなアクビをしながらのんびりとアナウンスが流れるのを待っていた。

 数メートル先にいる自分より圧倒的に強い実力者には目も向けず。


 紅の目的は勝ち負けではなく、里美たちの応援と鼓舞である。

 明日からは全ての試合が時間差で始まる。

 その前に紅は紅のやり方で皆を鼓舞すると心に決めている。


 だから――紅は一人呟いた。


「皆との笑顔の再会のためにも、まずは小百合さんとの約束を守るところからだな」




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