『神々の挑戦』開会式 前半
■■■
――翌日。
多くのプレイヤーがある会場へと集まった。
そこは例年『神々の挑戦』に出場する者とそれを観戦するプレイヤーたちで賑わうのだが今年は違った。
理由は明白。『神々の挑戦』に全く興味がない者たちも今年はそこに何かに導かれるようにして集まったのだ。
既に運営による小出しによる情報開示と本来いるはずがないプレイヤーが世界を飛び越えて神出鬼没の神災者としてやって来たのだ。
もう彼を置いてサプライズ参戦するに値する者はいない、と多くの者がそれを願いそれを勝手に信じて此処にやって来たのだ。
そうなると彼がサプライズ参戦してもサプライズではないのでは? と思う者はなぜかいない。なぜなら自分たちの予想が当たるなど誰一人思っていないからだ。
かつて多くのプレイヤーが神災対策をして彼に挑んだが彼の行動や思考回路を正確に把握できたものは誰一人いなかった。だから今回もどうせ当たらないといい意味で皆思っているのだ。
「ついにこの日がやってきたな!」
「てか本当にアイツがゲストなのかな?」
「逆にアイツ以外にいないだろ?」
「紅ボーイがゲストだって? 笑わせないでおくれ坊や。ただのジャニーズボーイがゲストのはずないだろ?」
「朱音、菖蒲、碧の三人が既に認めている紅様を侮辱するな!」
「我々は神災神である紅様の信者だ。別にプロ戦に興味があるわけではないのだよ、おっさん」
観客席は観客席で少し熱が入り始めた頃。
タイミングを見計らったかのようにホログラムの美少女が露出の多い格好で大きな音と眩しい光の中元気よく登場する。
「ハローエブリワン。皆さんこんにちは。現時刻を持って参加選手全員の入場が完了しましたので例年通り大会総責任者による開会の言葉に移らさせて頂きます」
仮想空間だからこそ実現できる七階建てホール型の試合会場に集まった数万人の視線が中央に映し出された巨大なディスプレイへと向けられる。
「皆さん初めまして。私は今大会の運営責任者を務めることになりました橘と言います。出場者の皆様は予選を勝ち抜き、もしくは特別予選(竹林の森)を勝ち抜き、選ばれた栄えある実力者であることは間違いありません。ですが、もうお察しの通り私がここにいると言う事はもう皆さん言わなくてもわかりますよね?」
その言葉に反応して会場全体から沸き起こる神災コール。
もしこれで外れていたらその者はどんな顔で……いやこの話は止めておこう。
なぜならそんな未来は――。
「この日のために、私の自慢の部下も日本から呼びました。そして私は用意した。何があっても壊れない世界を!」
大会参加者三十五人の背中に緊張が走る。
三十五人は知っている。
そして世界ランカー一位にして去年の優勝者は小さい声で呟く。
「私より強い相手もしくは手応えがある相手を用意して欲しいって要望を叶えてくれるとはつくづく面白いゲームだ」
と。その声は踊っていた。
さらに、別の者もボソッと呟く。
「やっぱり私の勘が当たった♪ 本当に来るのね、ダーリン♪」
ニヤリと女が微笑むと、会場全体が熱い炎で包まれる。
「さぁ私からのプレゼントだ。選手全員に告げる。今年の大会は大荒れだぁ!!!」
次の瞬間。会場全体に広がる炎が爆発。
連鎖して続く爆発音。
それに負けじと新しく生まれた炎が熱を帯びて派手に空中を踊る。
責任者の男はさらに会場を盛り上げる。
まるで喧嘩を売るように。
「世界のプロになった? 俺は、私は、もう強すぎて相手がいない? 運営は常日頃からもっと強い敵を用意しろ? 上等じゃねぇか、だったら用意してやるよ、かつてサーバーダウンや世界ランカーを苦しめた最恐をこの世界に召喚してやる。それと観客席にいる全員に告げる。この世に安全な場所など存在しないと先に言っておく。なぜなら俺たちには百パーセント安全な場所は作れないからだ。後は自己責任で頼む」
その言葉に観客席のボルテージが一気に上がっていく。
対して出場選手たちはなにかに打たれたように笑みがこぼれ始めていく。
結局の所。
皆待っていたのだ。
進撃の神災者の異名を持つ者が此処に来ることを。
そう。
どうせ一波乱起こすなら、ここでやって欲しいと。
「我々アメリカ運営陣はプレイヤー『紅』をサプライズ参戦ゲストとして正式に認める! さぁ、『紅』いや『《《神々の挑戦》》』の《《ラスボス》》よ、その姿を現せ!!!」
会場全体を包み込む巨大な大爆発を合図にある男が元気な声で登場する。
「《《俺様只今参上》》!」
だが、次の瞬間。
無の時間が流れた。
会場全体が目を疑った。
ここは戦場……のはずなのに……。
海パン一丁の男が武器も持たずに会場のど真ん中に現れたのだ。
ただしマイクだけはなぜか持っている。
彼は海水浴場と場所を間違えたのか……誰もが理解に苦しんだ。
既に常識の範疇を超えた紅の行動。
これになんの意味があるのか、と。




