明日のために今日できることを
想像する。
皆が活躍している場面を。
「俺は皆と同じ場所に立つことすらできない。けど応援ならできる。美紀……」
「……ん?」
不意に聞こえた手に動いていた手が止まる橘。
「疑いようのないバカね」
鼻で笑い小声で呟く橘の頬が僅かにあがる。
「応援じゃなくてただ側にいるだけで美紀は強くなれるってなんで気付かないかな」
まぁ、こいつの知能じゃ無理か、と付け加えて親に到着の連絡と全て手筈通りに進んでいることを報告した橘は大きく背伸びをして一生懸命に考える蓮見の観察を始める。
蓮見は知らない。
美紀をここまで成長させたことを。
橘は知っている。
美紀がいつも蓮見を意識して驚異的な速さで成長したことを。
そして二人は知らない。
大会参加者が次々と今もチェックインを済ませては最後の調整を始めていた。
その国や地域によって戦い方や戦法と言った物は変わってくる。
それにどう対応していくかが鍵となる。
そうなると多くの参加者プレイヤーが気にする必要がある。
それは――神災。
変幻自在。
既にプロ女性プレイヤーと知られる内野に通じる力。
それを知るために過去の戦いが見られ分析されていることを二人は知らない。
まだ参加が確定でないはずの者の警戒。
それは影響力を持つ朱音たちの発言によって生まれた。
もし蓮見がここで相手の想像を超える進化ができなければ未来はない。
そう――応援においても同じことが言える。
蓮見を意識していた者たちの成長は蓮見があってのもの。
だけどその蓮見の力が通用しないとなればその者たちの未来も――。
故に知らず知らずの所で蓮見の応援ソング。
これが案外大事な物となっていた。
「さてさてどうなるかな」
小さい声で笑う橘は『奇跡起こるかも』と責任者に言葉を送って側で見守るついでに読書を始める。
「あの日眺めていた 景色に手が届きそうな少女たちへ送る
憧れに手が届くのなら 後は坂を上るだけだろう
力を振り絞って 勇気を持って 最後の一歩を踏み出せ」
歌詞が蓮見の頭で創造されていく。
蓮見が新しい世界で手に入れた俺様装備合体。
まだ仮名に過ぎないこの力。
どうせならこの力を表現したフレーズも使いたいと珍しく頭を使う。
どちらの世界で早く会えるかはわからなくても明日会う時にまではなんとか百パーセントを超えた力で応援したい蓮見の強い気持ちも歌詞に反映されていく。
■■■
数時間後。
気持ちを高める応援歌が完成。
同時に『俺様テンションアゲアゲ』と呼ばれる曲名の歌もおまけで完成した。
制作の一部始終を横目でチラチラと見ていた橘と視線があった蓮見は大きく背伸びをして咳払いをする。
「ごほん」
「……なに?」
「その……なんだ」
「はっきり言って」
「お昼の話の続き聞きたい」
その言葉に本を置いて考える橘。
「私なんか言ったけ?」
「返事」
「あ~あぁ~返事ね」
ようやく蓮見の言いたいことを理解した橘が答える。
「まぁ日が暮れたし……聞きたいなら答えようか?」
「おう!」
自信に満ちた声で答える蓮見はドヤ顔を見せる。




