俺様に相応しい準備
「あっ、連絡来てたの気付かなかった」
そんな言葉をもってして二人の会話が終わりを告げる。
そのままスマートフォンの画面に集中して何かの連絡を返し始めた橘を見て蓮見は今は大人しく待っていた方がいいだろうと判断する。
これにはちゃんとした理由があり、至る所に英語で文字が書かれており下手な行動が橘の怒りに触れ怒られる未来があるかもしれないからだ。
蓮見の中での橘は美紀以上に厳しくて怒らせたら恐いイメージがある。
なのでここは大人しくしておく。
本当は目を盗んでせっかくのホテル探検をしたいと少年心が躍っているのだが、明日以降は外出して良さそうな雰囲気と懐かしい人たちにも会えることを約束してくれているのならここは従うに限る。
本当は下心もあり好印象なら今日の夜……。
「あっ、そう言えば俺新しい世界での俺様ソング考えてなかったな……」
まるで大事な何かを思い出したかのようにボソッと呟いた蓮見は目を閉じて自分の世界に入る。
「はっ?」
声と一緒に向けられた視線はもう蓮見には届かない。
迷惑顔の橘は大きなため息をついてから「どうせ止めても無駄か」と諦めの言葉を吐いてから視線を画面に戻す。
蓮見はどんなテーマの曲にするかを真剣に考える。
テンポアップ系、リズム系、スローダウン系。
Jpop? ここは敢えてのクラシック!?
自問自答して新世界での自分をどうやって表現するのか具体的にイメージする。
――タッタッ♪。
燃えろ――俺様のバーニングハート!
幸運――モテキ到来。
異性の心を惹きつける俺様シリーズ。
「…………違う、なんかしっくりこない」
ぶつぶつと口に出しては首を振ってそうじゃないと納得のいかない様子の蓮見。
ここ連日の《《小百合》》との修行を通して気づいたことがある。
それは蓮見自身どこかフルパワーを出しているはずなのにいつもとどこか違うことだ。
いつもならすぐに気持ちが高まる場面でもなんか高まるまでに時間がかかる。
そう感じていた蓮見に足りないもの。
それが明日以降皆の応援をするための俺様ソング。
いつも絶好調の時は大抵頭の中でメロディーが流れてきてそれに合わせて身体が勝手に動いてくれる場面が多々あった。
そこで蓮見は考えた。
全力で皆の応援をするにはテンションアゲアゲの百二十パーセントの力を解放しなければ俺の応援歌が伝わらないのでは、と。
飛行機の中で考えた応援歌。
それを一人一人に届けるためにはそれを可能にするスイッチ――俺様ソングが必要なのだ……たぶん。
バカがバカなりに考えた最善案は果たして吉とでるのか凶とでるのだろうか。




