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前日の夜は


 橘ゆかりに連れられてアメリカの某ホテルにやって来た蓮見。

 全ての手続きが勝手にされており、母親から行ってこい、とだけ言われた無垢な少年は案内の少女の手を力強く握って絶対に迷子にならないように全神経を手に集中させて空港からここまでやって来た。


 流石に知らない言葉(英語)が当たり前に使われている国での迷子になれば幾らバカの代名詞を持つ蓮見でもどうなるかは簡単に想像が付く。

 そしてそのバカが迷子になった時に探すとなればどれだけ大変なのかは考えただけでも物凄く頭が痛くなった橘ゆかりも蓮見と同じく力強く恋人繋ぎをして絶対に手が離れようにした。つまり二人はお互いの関係性ではなく、なにかあった時の問題に対する労力が割に合わないという判断の元、周りから見たらカップルにしか見えない二人に一時的になったというわけだ。


「部屋に着いたから早く手離して」


 その言葉に慌てて手を離す蓮見。


「す、すまん……」


「うわぁ〜アンタの手汗でベタベタ」


 わざとらしく嫌な顔をして拒絶反応を見せる橘の声はどこか冗談に聞こえない。

 本心でそう思っているのか冷たい視線を向ける。


「そんな顔しなくても……」


「されたくなかったら私に感謝の言葉の一つでもかけたら?」


「道案内兼通訳ありがとうございます」


 プライドを護ることもなく頭を下げて感謝の気持ちを伝える蓮見に橘は「……はぁ~」とだけため息を見せてから奥へ歩いて部屋に用意された椅子に座る。


「それでなんで俺アメリカに来たの?」


 そんな橘に付いて行く形で蓮見も対面の椅子に座る。


「直接応援したいだろう、って言う私の気遣いよ」


「なるほど、えっ?」


「なに?」


「生で見れるの?」


「そうよ。それどころか会えるわよ、すぐにね」


 その言葉に蓮見は言葉を失った。

 もうすぐ会えるかも? とは内心思っていたわけだが、まさか本当にすぐに会えるとまでは思っても居なかったからだ。


「とは言っても明日以降ね。このホテルの中階から上階までは関係者用に全部貸し切ってるからって言ったら……わかる……わけないよね?」


「おう! よくわかってんじゃん。ってことで簡単に要約するとどうなるの?」


「明日以降会える。これならわかる?」


「理解した!」


 満面の笑みで答える蓮見と先が思いやられると頭を抱える橘。

 同じ年齢で同じ学校に通い同じクラスで多くの時間を同じ環境下で勉強をしてきたはずなのにここまで国語と英語力の差がある二人はある意味正反対の人間で例えるなら天才の頭脳とバカの頭脳を持っていた。

 そのため普通の会話にも支障がでる。

 そう考えると橘としてはなぜコイツと会話が成立する女がコイツの周りに寄ってきて好意を持つのかがサッパリ理解不能だった。


「一応確認だけど今日はこの部屋から出ないでね?」


「えっ……もしかしてお前……俺の事が好きすぎて監禁目的でここに連れてきた……いえ、連れて来てくれたんですか!?」


 口を手で隠して、目を大きくする蓮見。

 内心嬉しいそうに見えなくもない態度を見て拳につい力が入り小声で笑う橘。


「えぇ、そうよ。そうじゃなかったら同じ部屋に泊まろうとすら考えないし、こんなにいい部屋取らないわよ。私の中では蓮見君が告白してきてくれたし、今夜あたりにでも良いお返事しようかな、って思ってるの。だから今夜は何処にも行かないで欲しいな?」


 とても甘い言葉での誘惑に蓮見はガッツポーズ。

 ようやく俺にも訪れたモテキ到来! と心の中で喜ぶ。

 そう……蓮見の耳は超翻訳機能以外に都合の良い言葉には感度が良い性質があり、それが現実とゲーム世界どちらにも適用されることが多い。


「わかったぜ」


「うん、ありがとう」


 満面の笑みで答えた橘は最後に「今日会うとマズイのと探す手間暇考えたらリスクしかないからに決まってるでしょ。それに寝坊常習犯を起こす監視役も必要だからよ」とても小さい声でそう付け加える。

 だけど蓮見の耳はソレは不要だと無意識のうちに判断され一切入ってこない。


 言うならホテルの迷子の呼び出しを仮にしても英語を全く理解できない蓮見にはJapanese Boy という単語すらなに言ってんだコイツ? にしか思わないぐらいの英語力しかないのでほぼ無意味に等しく、四十五階建てのホテルの中で気が向くまま好き勝手動いて迷子になる男を探すとなればリアル版ウォーリーを探せが開催されてしまうのは最早考えるまでもなく橘の脳内では予め予測されていた。



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