裏シリーズの恐怖
そもそも裏シリーズとは形のない無限をイメージして作られている。
すなわち表シリーズとは違い、周りの助けがなくても表に負けない神災とも言える。
だけど表と明確に違う点が幾つかある。
それは――まだ紅が慣れていないため発動までに時間がかかることだ。
「良し、矢ができた!」
だけど時間さえ作れれば、裏シリーズは問題なく発動する。
俺様戦隊とメールたちがスキルの一つ圧縮を使い四人がかりで巨大なエネルギーを秘めた太陽神を一本の矢の形状に変えて紅の手元に誘導した。
言うなら小さい太陽が一本の矢となったわけだ。
その矢の威力はもう見なくてもわかる。
まともに受ければ今まで紅が別世界で幾度となく発動されてきた俺様究極全力シリーズに匹敵する力をその身に受けることと同義だということぐらい。
それを逸早く察した者たちはすぐ近くの大ギルドの中に逃げたのだと小百合はようやく理解する。
「迎撃すれば間違いなく矢が衝突した場所での超爆発ですか……」
紅蓮に燃える矢がセットされ照準が合わせられる。
「魔法陣の効果はもう話さなくてもわかりますね?」
「……え、えぇ」
最悪の水爆矢が誕生した瞬間、小百合は息を呑み込んだ。
向けられただけで、怖気が走るのは気のせいなんかではない。
脳が生存本能を刺激して、全身に警告しているのだ。
今すぐ紅の心臓を止めろ! と。
だけど「やっぱり俺様シリーズの代名詞でもあるコイツが俺の究極裏全力シリーズ第一号に相応しいぜ」などと不敵に微笑んではブツブツとなにかを言っている所を見る限りそう簡単に死んでくれるような人物ではないのは誰もが知っている。
「一応聞いておきますが、私の後方には大ギルドがあります。その矢はちゃんと普通の矢と同様に狙った所に飛ばせるのですか? 見た所今も四人の力がなければその形状すら保てず誤暴走して爆発してしまいそうに見えますが?」
「モテモテ美男代表の俺様に不可能はないですから!」
全くもって信用ならないその言葉に苦笑いする小百合。
さっきの失敗は一体なんだったのだろうか。
「外せば関係のない人たちにその余波が行きます。それでもその矢を躊躇いなく私に向けますか?」
「当然! 俺様の眼に狂いはない!」
紅が矢を放つ。
矢が通った道に存在する草原が炎で燃えていく。
それだけで凄まじい熱量を持っていることがわかる。
矢が歪んで見えるのが、それだけ大気を熱しているからだ。
魔法陣の効果を付与された矢は不安定な動きを見せながらも小百合の方に飛んでいく。
「仕方ありません。ならその矢ごと消し去りましょう」
瞬間、小百合のMPゲージが零になる。
この世界用に調整された代行者の眼は新しい能力も持っている。
任意のMP消費量に合わせて自分に向けられた攻撃を軽減できる力だ。
そして軽減の果て、小百合に対してダメージが通らなくなった攻撃は全て消滅する。
言うなら攻撃そのものがなくなれば爆発もそれに付随する余波も全て起きず特別な眼を持っていてもKillヒットすら起こせない。
目に見えない壁が紅が放った矢の行く手を阻む。
小百合の妨害によるものだ。
矢は小百合の消費したMP量に比例してその攻撃力を奪われる。
「んっ!?」
そして消える。
はずだった。だけど矢は再度加速して小百合に向かって飛んでいく。
「軽減による無力化が効かないのなら、仕方ありません、到達する前に迎撃します」
この際大爆発は仕方ない、と考え本気の一矢を放つ小百合。
紅の倍以上の精度で放たれた矢は不規則に動く矢の未来を見据えて、一直線に飛んでいく。
数秒後。
二つの矢の衝突が迫る。
ボッ!
だけど衝突はなかった。
小百合の放った矢を一瞬で燃やし、代行者の眼を使わずして攻撃を無力化した矢はそのまま目標地点に向かって飛び続ける。
「そんな!? 私の妨害で熱量はかなり減ったはず! なのに接近しただけで燃やされるなんて」
追い詰められた小百合の口調にボロが出る。
だけど紅は事の顛末が気になるのか矢の行く末だけに集中していて聞いておらず、頭上にいる者たちも矢の制御に全神経を注いでおり聞いていなかった。
既に観客は誰一人おらず、周囲で一番安全な大ギルドに避難してここには誰もいない。
矢が通った道をなぞるようにして地面が炎の道を作っていく。
その時点で相当な熱量をまだ持っていると推測できる矢は遂に小百合の眼前へと迫る。
「まずい……ッ!?」
膝を追って背中を後ろに倒し小百合が回避行動に取る。
後コンマ一秒でも判断が遅ければ身体を貫いた矢はそのまま前へと進んでいく。
現実世界では親友に負けないぐらいの運動神経を持つ少女はバク転による回避を華麗に決めるが、安心はできなかった。
約五秒後。
矢が破壊不能オブジェクトとなっている大ギルドに衝突したからだ。
ドドドドドドドドドッ!!!!!!
すみません。
10月は結構バタバタしているので更新が不安定になると思います。




