俺様裏超全力シリーズに対して小百合の取るべき行動
「まったく嫌な予感しかしませんね」
サボテン状態でピクリとも動かないレッドから視線を移した小百合が呟く。
「空にいる化物集団と太陽のような隕石……流石に一人だと手が折れますか。しかし姉妹を呼べば私が勝ちそうな気もしますし……」
恐らくまだ未完成であろう裏シリーズをどう対処するか迷う小百合。
今回の目的は紅がこの世界での戦闘経験を得ること。
まだ不慣れにも関わらず追い込み過ぎて切り札を全部消化させれば、まだ一部の関係者しか知らないとある用事で後日困るであろうことは想像が付く。
だけど落下を始めた太陽神を放置すれば恐らく草木一本残ることはないだろう。
そんなことを思った小百合は一人誰にも聞こえない声で呟く。
自分に問いかけるようして。
「この場合、わざと負けるで合っているかしら……」
ありとあらゆることを想定してどれが正解なのかを考える。
幾つもある迷路のような思考回路から正しい答えを探す。
そもそも正しい答えがあるかすらわからない。
それでも探す。
目の前にある裏シリーズと呼ばれるアレが全ての原典となり、大衆の中に残り、大衆が期待する、そんな答えを……探す。
ただひたすら考える。
脳内回路が焼き切れる速さで。
頭をフル回転させる。
時間は有限で命の制限時間は零秒に向かい時計の針を進めている。
頭上にいる化物たちはその時を待つようにしてアレを見守っているように見える。
ただし、見方によってはなにかに集中していて既に動く余裕がないようにも……見える。
「あれ……」
ふとっ、違和感を感じる。
可笑しい。
アレが地面に落下するなら地上にいる生命体は恐らく死ぬだろう。
なのにソコにいてはいけない存在がいる。
主を裏切った?
そう考えられなくもない。
もしくは道連れ?
腑に落ちない違和感の正体はさっきまで見ていたサボテン男。
そう思って視線を戻すと……。
サボテン男が身体に刺さった矢を抜いて立ち上がっていた。
「失敗は成功の基。次失敗しなければそれでいいんだ。まだ名前のない『水振の陣』『罰と救済』。いつかお前たちにも名前を付けてやるから今は力を貸してくれ!」
そう言って弓を構える紅。
だけど矢は手に持っていない。
「なにをする気ですか?」
「見てわかりません?」
「わからないから聞いているのです」
「だったら教えてあげますよ! 頼むぜ俺様戦隊! もうネタバレオッケーだぜ」
その声に神災狐が変身を解除し再び二人の紅と二人のメールが空に出現する。
四人が太陽神に手を向け、気合いを入れ始める。
「「おぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!! 兄弟のため、頑張れ、俺様!」」
自分を鼓舞するブルーとイエローの紅。
「お兄ちゃんのために私も一肌脱ぐよ!」
「もう一人の私ここからは全力全開だよ!」
「任せて!」
人魚ではなく人型となった二人のメールがフルパワーでなにかを制御する。
すると、太陽神が形態を変えながら落下の軌道も変える。
その先にいるのは矢を持たず弓を構える紅。
そして弓の前方には二つの綺麗な魔方陣。
それが空中で重なり一つの魔方陣となる。
中心部にかけて神々しく金色に光輝き、魔法陣の淵にかけて水色に光り輝きと少し違和感を覚えるそんな魔法陣。
魔法陣の淵には魔術語で書かれた金色と水色の文字が浮かんでいる。
「やべぇ、完全に制御外れてやがる……イエロー!」
「んなことはわかってる! 今はアレを何とか兄弟の元に運ぶんだ! そうすれば兄弟がなんとかしてくれる!」
「そうだな。今は兄弟のためやれることをする!」
なにかに追い込まれたように汗を流す二人の会話に「はっ?」と思わず声が出た小百合。もうなにがしたいかわからないので、会話の内容が理解不能なのだ。
一人は矢を持たず弓を構えるバカ。
上空には自分の力を制御できないで焦るバカ二人。
さらにそれをアシストしているように見える可愛い召喚獣たち。
だけど
「制御が外れた、だとぉ!?」
「これはやべぇぞ!!!」
「皆ここから逃げろ!」
「逃げるってどこにだよ!?」
「そんなの破壊不能オブジェクトの一つ大ギルドの中しかねぇだろ! あそこは絶対安全だ!」
早々に緊急避難警報が出たようにして一斉に全力でこの場から逃げ出し始めた観客たち。どうやら彼らにはこれからなにが起こるのか想像が付いたようだ。
厳密には神災教の者たちのあの慌てようがこれから起こるであろう出来事を先読みで全て代弁しているように見えなくもない。
「つまり……この世界でも破壊不能オブジェクト毎粉砕する一撃を生み出すつもりですか。なら破壊するしかありませんね。今は余計な負荷をかけるわけにはいきませんので、覚醒」
白いオーラが全身を包み込む。
小百合の眼が激しい光を放ち、攻撃と同時に攻撃の無力化並びに保険による精密射撃を実行するため、一番の危険分子だけに集中する。
「火力不足によって攻撃が消えれば矢は貴方の心臓を貫くことになるでしょう。逆にこの眼が消す前に私に攻撃が到達するようなことがあれば矢で撃墜します」
肩幅に足を開き、弓を構え弦を限界まで引いて力を溜める小百合は紅に最終警告をした。




