新しい扉を開くバカと巫女
紅は鏡面の短剣を複製して投げる。
小百合はそれを簡単に撃ち落とす。
だけど紅は「へへっ。時間もらったぜ」と笑みを浮かべる。
大きくジャンプして、雰囲気を作る為の印を組む。
「影分身の術!」
すると――。
「世界を救うため救世主となって復活する時がやって来た。俺様戦隊ブルー只今参上!」
紅と全く同じ姿の分身が現れる。
それは赤色装備の本体と違い青色の装備を身に纏っていた。
そして観客(紅と同じ世界のプレイヤーたち)は思う。
「はっ?」
と。
「天の声に導かれし時、正義の味方がやって来る。俺様戦隊イエロー只今参上!」
さらにもう一人紅と全く同じ姿の分身が現れる。
それは黄色の装備を身に纏っていた。
そして観客は言う。
「えっ?」
と。
「聞こえる俺を呼ぶ美女たちの歓声と俺を取り合う美女たちの声が。俺様戦隊レッド只今参上!」
そして観客は叫ぶ。
「全部嘘じゃねぇか!」
と、最後はツッコミを入れられるも、美人な女の子たちに沢山からかわれたせいで身に付いたとも言える都合が悪い事は聞こえない素晴らしい聴覚をお持ちの紅は自分の世界に入っていた。もし入っていなければ今頃現実に心がやられていただろう。
最後は本体である紅が二人の間に着地する形で登場を終える。
三人は単なる装備の色違いに過ぎないため、紅のことを昔から知っているプレイヤーからすればただ見分けが付くようになった程度。
それと各々が統一性のない話題で言いたいことを言って登場してきたぐらい。
「影分身の術……つまりそのワードでそのスキルが発動するように設定したのですか。なら残りの言葉もなんとなく想像は付きますが……やはり油断はできませんか」
だが、突然の変化に歓声を上げて喜ぶ男が一人いた。
「おぉぉぉぉ! 俺様たち少し見ない内になんか派手になってるじゃないか!」
「この世界仕様だからな!」
「なるほど! なら実演も派手に行くぞ!」
「「オッケー!」」
紅は弓使いではあるが背中に背負った弓を構えない。
ただ、手を自由にしたまま三人で小百合を包囲するように広がる。
「その背中にある物は飾りですか?」
二人の分身に気を配りながら、本体に一番集中する小百合の気迫は今まで戦ってきた小百合を凌駕する。
そこに軽い危機感を覚えた紅は答える。
ただし不敵な笑みを浮かべて。
「なにを言っているんですか?」
「私変なこと言いました?」
「いいえ。今だ俺様たち!」
合図を受け取ったブルーとイエローがレッドに合わせて鏡面の短剣を複製と同時に形状変化させて投げる。六枚の水手裏剣となった鏡面の短剣による三方向からの攻撃。
「これは何を狙っているか少々不気味ですね。撃ち落とすか躱すあるいは無力化どれが最善となるか」
少し迷う小百合。
なぜなら安易な行動こそが自分の首を締めることを知っているからだ。
「「「虚像の矢!」」」
小百合の視線が水手裏剣に移った隙を利用して三人の紅が弓を手に取り矢を放つ。しかし燃える矢は水手裏剣と同じ軌道上にあると判断した小百合に避けられてしまう。
「MPの温存が吉とですか凶とでるか」
「その選択は間違いだぜ! 忍法霧隠れの術!」
レッドの言葉どおり、水手裏剣と燃える矢の衝突により起きた爆発は水蒸気爆発。紅が扱う物にしては規模が小さく何処か物足りなさを感じる。が、敵対する小百合からすれば不気味でしかなかった。
「なるほど。水蒸気を霧に見立ているのですか」
ですが、と心の中で付け加えて。
(私の眼は既に捉えている。それは下位互換の目を持つアイツも同じのはず。これになんの意味があるの?)
と、自問する。
ある意味、今の小百合は全盛期の小百合よりも紅のことを理解している。故の疑問はすぐに解決しない。




