【進撃の神災者】のお手並み拝見
ギルドを後にした二人は近くの練習場に来ていた。
ギルドを出る時に次の目的地について話していた際、小百合から提案された紅がそれに頷いたからだ。
時は少し遡り。
「この世界にはプロがいます。今までのように簡単に勝てる相手ではありません。そこで今からこちらの世界のシステムになれる為にも私と模擬戦をしませんか? 応援するときにもこちらのシステムになれてた方が色々と良いでしょうし」
「わかりました」
提示板を見る紅は気付いていなかった。
だけど脳が正常に働き始めた小百合には既に自分と【神災の神災者】である彼が大衆の注目を浴びていることに気付いていた。
そこでひそひそ話から聞こえてくる声から推測しある結論を出すのであった。この世界では【神災の神災者】と呼ぶ者と【進撃の神災者】と呼ぶ者がいることに。どちらも示す解は同じ。恐らくどちらの世界に元々居たかでの差でそのような名が付いたのだろう。だけど、小百合は知っている。
新しい名が付く時、必ずと言っていいほど隣にいる《《バカ》》が新しい扉を開くことを。
そして悪い笑みを浮かべた小百合は先ほどの提案を紅にしてここに案内した。
「さて、ルールは一通り確認してシステムの設定は終わりましたか?」
「はい。とりあえず設定は終わりましたけど……」
「けど?」
「本当に本気で暴れていいんですか?」
どこか心配そうに語りかける紅にニコッと微笑んでは答える小百合はなにかを期待しているような声をだす。
「勿論です。周りにいる方々への配慮は一切不要です」
案の定というべきか。
紅の戦う姿に興味がある者たちが勝手に集まっては野次馬になっているのだが、小百合はそれらを全て無視して良いと紅に伝えた。
これからするのは二人にとって遊びであって遊びではない。
「おい。まじかよ……向こうのラスボスと悪魔《紅》がこっちに来てもう本気で闘うのか」
「噂に聞いた神災。さてどんなものか見せてもらおうか」
「ださっ。あんな装備で向こうじゃ強いとかありえないでしょ? 見るからに私より弱そうだし」
などなど沢山の声が聞こえてくるわけだが、ブツブツとなにかを考える紅には聞こえていないのだろう。
それは新しいシステムでの戦闘に緊張しているわけではない。
ただ、平地の草原フィールドに囲いをして練習場としているだけのこの場所でどうやって暴れようか早速考えているのだ。
厳密に言えば新しいシステムを使って、と表現した方が正しいだろう。
「百メートルの正方形型のフィールド……平地は俺様全力シリーズにとってあまり良くないんだが……それに小百合さんには厄介な眼がある……あれ……ちょっと待てよ……」
紅はふとっ思う。
例えばここに火山を作って俺様シリーズで爆発させたら新しい扉が開くのではないかと……。
火山を作ると言うことは……当然そこには。
なら――。
例えば地殻を破壊して敵をマントルの海に敵を沈めたら……。
例えば強制的に重力を与え続けたら……。
その眼を貫通したダメージが与えられる!?
など、到底一人に向ける規模ではないなにかを瞬時に沢山閃いていくのであった。
そして、満面の笑みを見せた男は閃いた。
違う。そうじゃないと。
ここからは新たな時代の幕開けであると。
「わかったぜ! この世界での俺様裏全力シリーズが!」
「……んっ?」
小百合はなにか聞き間違いたかと思ったが、それが勘違いであることにすぐに気づく。
「裏って言いました?」
「はい! 俺がこっちの世界で創造する力は裏です!」
「そうですか。ではその力を見せてください」
そして、クスッと微笑んだ小百合は静かに武器を構える。
同時に代行者の眼が発動する。
完全な戦闘態勢に入った小百合は、
「いつでもいいですよ。紅さんが少しでも動くか戦闘意思を見せたタイミングで試合開始です」
紅に戦闘開始のタイミングを委ねるであった。
紅は知らない。
既にこの世界に来る前に小百合がアップデートされたことを。
小百合は知っている。
既にこの世界に来て紅が目の前でアップデートされたことを。
だけど両者に差はない。
なぜならどちらも相手の切り札を知らないからだ。
知っているのは古い切り札であり、今の切り札ではない。
そんな二人の試合は小百合の瞬きと同時に開始となった。




