注目される進撃者
紅が小百合に連れられてcowの中心部となっている大ギルド広間を案内される。
その姿を見た者たちが二人には聞こえない声量でひそひそ話をする。
「なんであの二人手繋いでるの?」
cowプレイヤーでありながら、二人が居た世界にも詳しい者が呟く。
「迷子になるからとか?」
同じく二つの世界に詳しい女が答える。
「あぁ~」
「なる」
「……やっぱりしばらくはこっちに居座るのかな?」
「さ、さぁ?」
ただ歩くだけで目立つ二人に向けられる視線は多く、物珍しいものでも見るような視線が大半だった。
「先ほど説明した感じでここにはcowで共有される多くの情報があります。例えばそこにある提示板なんかが良い例ですかね」
左手は紅と離れないようにしっかりと握り、右手を使って巨大なディスプレイを指指す小百合。
大ギルドと言うだけあって敷地面積は広く、はぐれたら探すのがとても大変なので小百合としては勝手に何処かに行かれては本気で困る。なので、そこに恥じらいなどは一切なくほとんど友達感覚で握っていた。対して紅は初めて見る光景に驚きの連発や初めて見る装備のプレイヤーが沢山いたりと見る者が多すぎて視線をキョロキョロとあっちにやったりこっちにやったりと忙しく動かしており殆ど前を見ていない状態である種二人を繋ぐ手だけがある種の生命線となっていた。
「おぉぉぉぉぉ!!! 超でけぇー!」
「はい。ここのディスプレイはプレイヤー同士の交流を目的として作られていますが、それとは別に運営からの告知などもここで確認できます。例えばアレとか見てみましょうか」
小百合が視線を合わせると、自動的にその情報が拡大され手元に映し出される。
「これは今度行われる『神々の挑戦』の出場者リストです。今回は特別招待の方もいますので出場者数が少し多いです。本来は三十二名なのですが、こちらの世界から三人呼びましたので三十五人と後一枠空席がある状態です。この空席は大会の《《運営責任者》》の推薦枠となっており、当日に誰が選ばれたか参加者と観戦者の全員に告知されます。と書かれていますね」
「なるほど……この世界の言葉わかるって小百合さん凄いですね」
「えっ?」
「俺には全然読めません」
感心する蓮見に小百合が咳払いをする。
「落ちついてください。全部日本語です」
各プレイヤーのデバイスで設定された言語に自動で翻訳してくれることを知らないといっても紅の脳が驚きの連発に早くも処理限界を迎えようとしていた。そのため日本語を日本語として認識できなかった……のだろうか。
「たしかに! 俺でも読めるだと!?」
新発見をしたように驚く紅に小百合がやれやれと首を小さく横に振る。
「現実世界と変わらないぐらいにバカなのは仕方がないか……だって紅だし」
誰にも聞こえない声でボソッと呟く小百合。
小百合にはわからない。
どうしてこんなバカが強いのか。
そしてこんな奴を好きになる人たちの気が知れない。
「どうせならこっちの世界で皆さんがどのような会話をしているか試しに一つだけ見てみますか?」
「はい!」
小百合はプレイヤーたちで賑わっている板の一つを適当に探して、さっきと同じ手順で手元に手繰り寄せては二人の間に拡大して共有する。
1214 名前:???
この世界に嵐がやって来た
1215 名前:???
実力世界のこの世界で通用するか見物だな
1216 名前:菖蒲
油断はできない相手ですよ?
1217 名前:碧
そうです
1218 名前:???
実力者の言葉だけでは納得するには物足りないな
1219 名前:碧
だったら『神々の挑戦』を見て下さい
そうすればすぐにわかると思います
彼こそが最恐だと
1220 名前:???
そもそも神災ってなんなの?
1221 名前:朱音
全知全能の力かしら♪?
1222 名前:神災教信者A
この世界でも我らの神の活躍が見れるとは
1223 名前:神災教信者B
多くのプレイヤーを生贄に捧げる事で神が召喚される世界は誠美しい
1224 名前:???
なんか別世界の奴ら頭可笑しくね(朱音含む)?
1225 名前:菖蒲
可笑しくありませんよ?
忘れました?
その使い手は別世界でサーバーダウンを起こした人物ですよ?
1226 名前:???
あっ……そうだった
1227 名前:???
この世界での名前は【進撃の神災者】だったけ?
1228 名前:???
つまりサーバーダウンが進撃してきたわけだなw
等々、まだ元居た世界程有名ではないが、認知はされている力。
この世界での一部の者たちの間ではかなり有名な力であってもやはり自分の目で見ないとどれ程の脅威かわからないというものたちがいるのも事実。
かつて似たような形で油断し警戒を怠った者たちが別世界でどうなったかまでは知らないらしい。
だが真の実力者からは既に最警戒される神災。
そして二つの世界を知る者からも同じく最警戒される神災。
それがどこまでこの世界で通じるかが紅の希望のわけなのだが、
「へぇ~この世界には神災って技が存在するのか! それにお母さんも居る! なんかこうして見るともうすぐ会えるし見てて嬉しい気持ちになるな、えへへ」
などと、思わず小百合の目が大きくなるような発言をする紅がここにいた。
「……へっ?」
「……んっ? どうしました?」
「……」
手を繋いだまま首を傾ける二人の時間が止まる。
お互いになぜそのような発言をするのかが理解不能だったからだ。
しばらくして――。
理解しようとすることが間違いだと気づいた小百合の時が動き始める。
「そ、そうですね。朱音さんはその力を評価しているようですね?」
「ですね!」
小百合の言葉に頷く紅。
「と、とりあえずもうちょっとだけ見てみましょう。せっかく朱音さんが発言していますし何か面白い情報が手に入るかもしれません」
そう言って小百合が紅の視線を誘導して板の続きを見せる。
その間に小百合は大きく深呼吸をして、乱れた思考回路を元に戻していくのであった。




