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神災が進行してきた世界


 それは『chaos of world』通称cowと呼ばれる世界でのお話。

 学校に多額の寄付金と引き換えに特別補習だけで赤点で足りなかった分を補填した男がいた。それを補填したのは橘家。つまり橘ゆかりの父親である。

 そうでもしなければ補習で美紀たちが出場するcowの『神々の挑戦』と呼ばれる大会観戦が出来ないからである。それは橘家もとても困る話で国内でも有力なゲーム会社の社長が直接学校の理事長と対談することでそれらを全て手配したのは関係者の大人たちだけの秘密だったりする。


「お、おおおいいいい!」


「や、やめろおおおお!」


「「俺たちが悪かったです。ちょっとからかって見ようと思っただけなんです。だからゆるぢてぐださぃぃぃぃぃ!」」


「断る!」


 どやっ!


 生まれたての小鹿ようにブルブルと全身を震わせる中年の男が二人。



 ――時は遡って。

 二人は程よい風が吹く草原フィールドで大地の恵みを身体で感じ太陽を見上げるようにしてうつ伏せになって十分程前までくつろいでいた。

 そこに巫女装束をした機会少女がやって来た。

 『YOUR FANTASY MEMORY』(※タイトル改変してます)ではとても有名な少女なのだが『chaos of world』では知る人ぞ知る少女。

 その少女は代行者の眼を持ち立ちはだかる敵を一掃しかつてはイベントのボスとして数多くの挑戦者を倒してきた実績がある。職種は弓使いで背中に担いだ弓矢こそ彼女の武器である。

 器はそのままにして中身だけを入れ替えたことは、本人や一部の者しか知らないのだが、男たちにとってはそんなことはどうでも良くて


「おっ! なんか可愛い子がきたな」


「絶対リアルでも美人な子なんだろうな~」


 などと横目で見ては呟いた。

 すると、巫女装束の少女――小百合の後ろを歩いて付いて来る平凡な男が一人いることに中年の男たちが気づく。


「ちょっとからかってやるか?」


「そうだな」


 悪い笑みを浮かべた男たちは平凡な男の元に歩いて行き声を掛ける。


「おい、兄ちゃん」


「はい?」


 小百合と同じく背中に弓を担いだ如何にも弱そうな少年は返事をする。

 この世界には強者と呼ばれるプレイヤーが沢山いる。

 本当に強い者は見ただけで強者とわかる覇気があると多くの者は言う。

 例えば朱音や碧のような安易に触れれば性別の差を超えて中年の男たちなど虫けら同然だというような目に見えない雰囲気である。

 そんな覇気が一切感じられない少年は中年の男たちに挟まれるようにして圧を掛けられる。


「いい女連れてんな?」


「兄ちゃんにはもったいない女だと思わねぇか?」


「……ん?」


「今日一日でいいから貸してくんねぇか?」


「それとも俺たちとやろうってんなら相手してやるぜ? 新人さんよ」


 この辺では実力者である中年の男たちは初心な少年を挑発する。

 小百合は助ける気がないのか静観していたのだが、ふとっ悪いことを思い付いたのでボソッと呟いてみる。


「渡航前に少しでもこちらの世界に慣れるためにここに来たのにもう私の案内がなくてもいいのなら私はなにも言いませんけど?」


 学校から「世界で活躍する幼馴染の応援のために休学しろ」と言われ母親からもなぜか「そうしなさい」と言われ、何がなんだかよく状況がわかっていない少年。

 普段なら勉学優先の母親が既に某責任者と連絡を取り合い世界に名を売れるチャンスを無料で与えられるとそそのかされていることを少年は知らない。

 だが少年は学校の知名度を上げるためと幼馴染は大事にしろと言う意味だろうと解釈した。


「わかりました! では戦って俺が負けたら小百合さんをあげます」


 物扱いされた小百合は拳を握って満面の笑みで少年に言葉を投げかける。


「私も一緒に相手になりましょうか?」


「……ッ!?」


 その言葉に目を大きくして驚く少年。


「なんで!?」


「……はぁ~。冗談ですよ」


 諦め混じりの言葉の本当の意味に気づかない少年。

 少年の理解力では女心を読み解くのは難しい。


「安心しな。お嬢ちゃんのために俺たちが勝つからよ」


「アハハ! お前さん相手は子供だぜ? 少しは手加減してやれよ?」


「当り前よ! ならお前さんの好きなタイミングでかかってきな」


 月曜日。

 蓮見と橘ゆかりが表向きには体調不良の為学校を休んだことになっている頃。

『YOUR FANTASY MEMORY』 とデータを同期している『chaos of world』の世界で新しい歴史の一ページが生まれることとなった。


 小百合が空に逃げると、十秒もしないうちに核爆弾を爆発させたような大爆発が起きた。大爆発は草原フィールドを一瞬にして焼き払い巨大なクレーターを作りあげるだけにとどまらない。爆煙の中から姿を見せた巨大な竜は神災竜。


 男たちは一瞬で少年の正体がわかった。


 噂に聞いたことがある神災者にして、朱音が認めた最恐が彼だったのだと。


「うわあああああああ」


 大きな身体から伸びる手が中年の男を掴み大きな口元に持っていては一飲み。


「な、なんでここに、し、【神災の神災者】が……いるんだ……?」


 この世には絶対に手を出してはいけない存在が幾つか存在する。

 そんな存在の一つ――【神災の神災者】つまり神災。

 あの日内野葵が現実世界で【神災の神災者】の異名を持つ彼は朱音さんの言う通り最恐の名が相応しい。と某SNSの公式アカウントで呟いたことはcowのプレイヤーの中ではとても有名な話だった。

 だけど【神災の神災者】は『神々の挑戦』には出場しないはずだ。

 だからこの世界にはいないはずなのに――。


「ウォォォォォ!!!」


 雄たけびを上げ、不気味な笑みを浮かべる神災竜がそこにはいた。

 黒い巨体。

 背中から伸びる二枚の大きな羽。

 竜でありながら武器を装備している。

 両肩、両腕、腰の左右に取り付けられた銃口は全部合わせると六砲。

 それは歴代初アジアランキング第一位の女を追い詰めた者の姿でもあった。

 ただし――一人(体)ではない。

 視線を上に上げれば、空にも同じ姿をした神災竜が九体いる。

 HPゲージは一割まで減っている。

 全身を覆う水色のオーラが見える。

 だが、中年の男から見たソレは朱音以上に恐怖する存在だった。


「誰だよ……こんなイレギュラー送り込んだ奴……もしかして!?」


 男は振り下ろされる拳に潰されて死ぬ間際気づいた。

 機械少女と紅の会話を思い出して。

 小百合と呼ばれた彼女が案内人として彼をここに連れて来たのだと。

 そして男は最後に笑う。


 サプライズゲストが誰なのかに気付いてしまったからだ。


 コイツ以上のゲストは絶対にいないと思われる存在――それが目の間にいるからだ。


 中年の男二人がログアウトした。

 それを遠目に偶然見ていたプレイヤーたちは唖然としていた。

 この辺では敵なしだった二人を僅か一分程度で倒したからだ。

 それが名の知れたプレイヤーなら特別何も驚かなった。

 なぜならそれはいつもの光景だから。

 だけど、別世界から絶対に来ないだろうと思っていた”悪魔”とも言える存在がやって来てソレを実行したからだ。


 ――この日、遂にcowの世界でも【神災の神災者】の名が光の速さで広まり最警戒人物のリストに名が乗るであった。そこでの名は【進撃の神災者】。それが此処での名となった。


 同時にcowに大量のプレイヤーが流れてくるのだった。

 人々はその多くの者を神災教信者と呼び始めた。

 公式曰く、《《来るべき日が間もなく訪れる》》らしい。

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