第6話 これはあくまでも治療行為だから
「魔族を殺してるのは本当の事なのにゃ。つい先日も四天王の部隊が壊滅、四天王も殺されたのは知ってるにゃ」
ああ、あの砦の。だがおかしい。
【確かに闘いましたし、お互い殺しあったのでその中で死んだ者も居るでしょうが、大将っぽい人は殺してませんよ?】
そう、大将の魔族は殺してない。手傷を負わせたが、部位の欠損は勿論命を落す様な怪我はさせてないのだ。
「しかし、ガデュードは・・・」
【危ない!】
豆が叫び、咄嗟にその場を飛び退いた魔王は、そのままばたりと倒れてしまった。
「魔王っ!?」
【そこですね!】
ドゴッ!
豆は地面に攻撃して、大穴を空けた!
見れば、土煙の中そこに潜んでいたらしい、魔族が倒れている。
豆はその魔族を拘束してから、倒れた魔王を抱き寄せるボクの元に戻って来た。
【ご主人!?】
「豆!どうしよう!?魔王が・・・」
凄い熱と汗。顔を真っ青にして子供が苦しそうに踠く姿が居た堪れない。
【キュア・ポイズン。キュア・パラライズ。ハイ・ヒール】
豆は色々魔法を掛けてくれたが、一瞬ましになるだけで効果が出ない。
「これ多分毒だろ?どうしよう豆?このままじゃ・・・」
【あの魔族がこの様な物を持っていたのですが】
豆の持ってきた小瓶には『解毒薬』と書いてある。少し躊躇したがボクはその瓶を空け、少し舐めて確かめた後苦しむ魔王に飲ませた。
「だめだ、飲み込まない」
苦しむ魔王は解毒薬を吐き出してしまう。
「豆、どうしよう」
【これはアレですね、口移ししかないのでは?】
「口っ!?」
ボクは顔を赤くして驚いた。
良いのか?いやそんな事を言ってる場合じゃない!種族の違いが有るけど、まぁ、問題無いだろう。
「分かった、じゃあ豆、頼む」
ボクは苦しむ魔王を片手で支えて、解毒剤を豆に差し出した。
【何をやってるのですか、ご主人?】
「何って、解毒剤をその、口移しで飲ませんるんだろ、ほら」
【ご主人~、僕の口でそんな事出来ると本気で思ってるんですか?】
「え!?じゃあ誰が飲ませるんだよ」
豆は黙ってボクを前足で指した。
・・・ボッ、ボク!?
いやいやいや、僕まだ13歳だし、まだした事ないし、相手はまだ子供だし、魔王だし。
【早くしないと死んでしまいますよ?】
「ぐっ!?」
ボクが・・・。
魔王の唇を見る。苦悶に歪むその唇は紫に変色して、呻き声を漏らしている。
「わ、分かったよ」
魔王とは言え、見た目10歳くらいの女の子の唇を見る。
罪悪感が凄いが、命には代えられないと覚悟を決めた。
昼過ぎ、魔王は座ったまま寝ている僕の腕の中で静かな寝息を立てていた。
ボクはというと心配で堪らなかったが、ただジッとしているだけだったので眠ってしまったらしい。
そんな魔王を抱いたまま目を覚ましたボクは豆と目が合った。
【お昼ごはんはまだですか?】
おい!
夜、気が付けば魔王は既に起きていて夕食の準備をしてくれていた。
と、言っても豆の収納魔法から出して並べただけだが。
魔王はボクが起きた事を知ると、これまでとは別人でまるで借りてきた猫の様に大人しかった。
夕食後の落ち着いた雰囲気の中、その雰囲気に似つかわしくない話をしなければならない。
「魔王、こっちに来て」
ビクッと体を強張らせた魔王は、ゆっくり振り向くと観念した様に此方へと歩いてきた。
「な、なににゃ?」
「魔王はこいつの事を知ってるかな?」
そう言って差し出した小さな魔族に、魔王は驚いた。
「それはシャドウ・ウォーカー。影に忍ぶ魔物にゃ」
「魔族じゃなくて、魔物なんだ」
【なんで魔王の影に、こんなのが入ってたのですか?】
「そいつは護衛役にゃ」
【護衛役?】
首を傾げる豆。ボクも信じられないという感想だ。
「そうにゃ。そいつは影に潜んで主人が危険になったら突然現れて意表を突いて主を守り、時にはその身を呈して守るのにゃ」
「身を呈して守るだって!?」
コクリと頷く。
「代わりに潜んでいる相手から少しづつ魔力を貰って生きてるのにゃ」
【寄生ですか?】
「共生や契約に近いにゃ。影に入って守って貰う代わりに魔力を与えてるにゃ」
「魔力を?」
「こいつ等の食事にゃ。量も自然回復量程度なので問題無いのにゃ」
確かに魔王の言葉通りなら問題無いが、コイツは魔王を殺そうとした張本人なのだ。その事を知っているボクと豆にはおかしな話である。
「・・・魔王はコイツを護衛にしてたんだ」
「私は要らないと言ったんだけど、ジュラールが五月蝿かったから仕方なくにゃ」
【ジュラール?】
「祖父の頃から使えてる魔族の右大臣にゃ」
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