第12話 侍女、ベルベット
結局ボク達が教会を後にしたのは1時間程後になった。司祭様に事のあらましを告げ、用事が有るからと逃げる様に教会を出たのだった。
結局ボク達が居る間。彼女が目覚める事は無かった。
【彼女が起きるまで待たなくて良かったのですか?】
町の中央通りを下りながら、良さそうな店を捜すボクに豆はそんな事を聞いて来た。
「早く服を買いに行かないと店が閉まっちゃうよ」
【そうですか、そうですね、早くお店を見つけましょう】
少し煮え切らない返事だったが、豆はそれ以上何も言わなかった。
その後、良いも店を見付け買い物を済ませるとボク達は宿へと戻る。
「そう言えば、どうしてあんな治安の悪い方に行こうとしたんだ?」
豆が町の西の外れに行こうと提案した事で、誘拐事件の現場に遭遇したのだから結果良かったのかもしれないが、豆らしくないと感じたのだ。
【それはサスケの能力とご主人との連携を試したかったのです】
だから最初隠れてたのか。
「っていうか、ボクを危険に晒して試したのか?」
豆のほっぺを摘んで、みょんと引っ張ってやる。
【勿論、危なくなったら僕が止めに入りましたよ。ご主人に傷一つ付けさせません!】
まったく、豆が自信過剰になって無ければ良いが。
敵を侮れば、ふとした事で思いもしない怪我をする事だって有る筈だから。
「・・・で、サスケはどうだった?」
【ご主人の命令もちゃんと聞いていたので問題無いかと】
サスケの契約主はボクだが、その契約魔法そのものを使ったのは豆なのだ。
契約魔法は本来上の立場の者が、下の者に対して使う魔法なのだが、今回シャドウ・ウォーカーが豆の攻撃で弱ってる時に無理やりボクと契約させたので少し不安に感じていた。
その不安を少しでも払拭する為の名付けだったが、そのお蔭で進化したナイト・ウォーカーはボクにも忠誠を誓ってくれているのかもしれないと、今では信頼している。
「これなどはどうでしょうか?」
店員の用意してくれた服はそこそこ上等な用で、着心地に問題はないし動き易いしと申し分ない。
デザインは、まぁ普通だが其処が丁度良い。
「うん、これを貰うよ」
元の服は豆に収納して貰って、結構良い値段だったがこの間の報酬がまだまだ残ってるので問題ない。
そのまま、店を出ると出店を回って食料を買い込みつつ豆の散歩をする事にした。
町の中央広場の噴水に腰を掛け、さっき買った串焼きやパンを食べた。
「しかし、ここは色々な種族が居るんだな」
【魔族領とも近い所為か、まだ魔族の方も居ますしね】
確かに、まだ少数だが魔族っぽい人も店を構えてたり、街中を歩いてたりしている。
「魔族が攻めて来ている事はこの町にも伝わっている筈なのに・・・」
「不思議ですか?」
不意に声を掛けられて、僕はその場を飛び退いた。
其処に居たのは1人の女の子・・・誰?
(豆?)
【敵意は無いですよ】
豆は気付いてて教えなかったな。サスケも反応しなかったから、危険は無いのだろうけど。
「どちら様ですか?」
ふっと笑うとその少女はスカートの裾を摘んで礼をした。
「私はベルデス・ブルーノ辺境伯様のご息女、ベリーナ様の専属メイドで、ベルベットと申します」
ブルーノ子爵にもベリーナさんにも心当たりが無いのだが。
「そのベルベットさんが何か御用でしょうか?」
ボクは思わず一歩引いて相手を見た。
「今日、人攫いからお嬢様をお救い、教会に保護されたのは貴方様ですね?」
うん、それは間違いなくボク達だ、しかし。
「・・・何故僕達だと?」
「伺っていた物とお召し物は違って居られましたが、その年恰好と他の者とは違う雰囲気。何より見た事の無い利発そうな犬を連れていましたから」
豆か~!
確かにこの世界でウェルッシュ・コーギーなんて見た事が無い。そんな世界でこんな姿の犬は珍しいのだろう。
【ご主人!この人は良い人です!】
利発だと言われて分かり易く浮かれてるな、豆。
「えっと、それで何か御用でしょうか?」
何か不味い事をしたのかと、思わず体を引いてしまう。
「此方を」
そう言うとベルベットさんは胸の谷間から一通の手紙を取り出した。
(何処から取り出してるんですか!?)
少し暖かい手紙って何か嫌だな~、と思いつつ受け取った封書をまじまじと見る。
どうぞ、と手渡されたペーパーナイフで封を切り、中身を見る。其処には丁寧なお礼の言葉と、お礼を渡したい為、今滞在している屋敷へご招待したいとの旨が書かれていた。
「別にお礼とか要らないので・・・」
「お越し頂けますね」
「・・・え~と、大した事はしていませんし・・・」
「お越し頂けますね」
にっこり。
あ、これ断ったら面倒な奴だ。
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