009擬態
『比良坂駿河君は鋭利な刃物で手足や首を複数箇所刺され……』
いくつもの記事に目を通して、状況を推測する。
おそらく失血死。
手足を傷つけられていることから防御創かもれない。
そうなると、死亡直前の記憶がどこまであるかが怪しくなってくる。
死亡時刻が深夜未明ということも考慮すると死亡前6時間ほどは最悪空白か。
いくつものWEBサイトを渡り、おそらく最新記事であろうページを見つけたとき、少女は臍をきつく噛んだ。
『2年前の病院での高校生殺人事件はいまだ解決しておらず……』
「二年……」
ぼそりと言葉が漏れる。
少女はブラウザを閉じて、スマホに表示される日付を確認する。
時刻はおおよそ事件の2年後である『2023年5月18日13時17分』を示していた。
「ふー」
しばらくスマホに表示された日付を睨みつけたあと、ため息とともにベッドにバタリと倒れ込む。
5分経過――
少女は再び起き上がると、少女はスマートフォンの動画アプリを立ち上げる。
そこには富士埼由比や彼女の友人たち、それに由比の家族が映されていた。
『やーちゃん』
「やーちゃん、やーちゃん」
『しずくちゃん』
「しずくちゃん、しずくちゃん」
『パパ』
「パパ」
『ママ』
「ママ」
動画アプリから再生された富士埼由比の声に続いて発声する少女。
声色を動画のものに少しずつ少しずつ慎重に合わせていく。
※※ ※
「ゆいー」
「あ、しずくちゃん。ごきげんよう」
5月18日。聖フォレスティア女子高等学校の敷地内。正門から校舎までの並木道で一人の少女が別の少女に声をかける。
声をかけられた少女は振り向き挨拶をする。
「ごきげんよー
もう学校に来ても良いんだ」
「うん。部活も大丈夫だって」
可愛らしく微笑む二人の少女。
年相応のゆっくりした歩み、
交わされる何でもない会話、
互いが互いに向ける笑顔。
そのどれもが、昨日までの光景に比べ隔たりはなかった。