005解析
「大変なことが発覚しました!」
事の発覚は、城島時男17歳が持ち出した一枚の写真からである。
一軒の家の玄関の扉。その開閉時における瞬間的な映像を、彼はスーパースローモーション撮影を用い、分析していた。
そして彼は見てはいけないものを見つけてしまったのである。
「靴が、靴がありません!」
その一言はクラスメイト全員を戦慄させるに値する言葉だった。
5月1日土曜日19時13分。
とある住宅街の道路を封鎖し、緊急対策本部が設置された。
※※ ※
清閑な住宅街の一角、車がすれ違うのに速度を落とさざるを得ない道路の中央。
そこには40人ほどの男女が集まっていた。
彼らの視線の先にはどこから調達したのか一つのホワイトボード。
さらに言うと、ボードに磁石で止められた4つ物的証拠に集まっていた。
一つ目は、とある住宅の玄関の扉開閉時の写真である。仲睦まじく、男子が女子を家の中に誘おうとしている姿である。問題はその玄関に脱いだ後の靴がどこにもみあたらないことである。
二つ目は、赤から青にグラデーションした映像写真である。サーモグラフィーで観察された結果であり、日中のとある家屋に二名の人物がくつろいでいることが見てわかる。
三つ目は、近所の住人の証言がまとめられたメモである。『容疑者Hは母子家庭であり、母親は製薬会社勤務。彼女は残業が多く、毎日夜遅くに帰宅することが確認されている』と書かれていた。
四つ目は、現場近くのコンビニのレシートである。それには本日19時7分に薄々君と赤マムシが購入されたと書かれている。購入したのは、店員の証言から『百歩神拳』と書かれたTシャツを着た男性と発覚している。
「これはもう疑うまでもない」
「すぐに止めるべきでは?」
「なみちんのことだから大丈夫でしょ」
「そうそう、なみちんの方が強いし」
「菊理って押しに弱くないか?」
「……確かに……」
しかして議論は煮詰まり、吉田海王星24歳一浪の手により『コードレッド発動』とホワイトボードに一言書かれた。
※※ ※
「わかった。わかったから」
同時刻、押しに弱い女、菊理那美18歳は勢いだけは強い男、比良坂駿河18歳の土下座戦法に追い込まれていた。
比良坂駿河18歳の策は4月29日木曜日に仕掛けられていた。彼はこの時間に母親がいないことを承知の上で、予定表に比良坂邸にて『両親と顔合わせ』と書いていたのである。なお、彼の父親に至っては解析係である城島時男17歳の調べ通りすでに亡くなっているにも関わらず『両親』と書いたことに彼の決意を感じえない。
「ありがとうありがとう」
那美の発言を了承ととらえたのか、お礼を何度も言いながらベルトをカチャカチャと音を立てて外そうとする比良坂駿河18歳。彼の手は止まることを知らず、己の本能に突き動かされていた。
「待って。四つ。四つだけ言うことを守って。そしたら……」
「わかった。守る」
やや食い気味にかぶせられた言葉は脳内で処理されたものではなく、脊髄で反射されたものであった。なお、ベルトはすでに外され、今まさにジーンズのファスナーが下ろされようとしていた。
「STOP。停止。正座。守ったら好きなだけさせたげるから」
その言葉が言い終わる前には、比良坂駿河18歳はたたずまいを正して座していた。ハァハァと彼の息は荒く、口端からは涎が垂れている。
若干、駿河の反応に引きながらも言葉を続けようとする菊理那美18歳。
実は彼女はこんなこともあろうかと咲夜のうちに駿河とかわす約束事を決めていた。そして、こんなこともあろうかと勝負下着を身に着けていた。
「キ、キスを何度もして……違う、唇を突き出すな!もっとこう、自然なままで触れるように」
「好きとか、あ、ぁぃ……とか何度も言って……壊れたロボのようにエンドレスリピートすんな! 好きなのかキスなのか、わからんわ!」
「わ、私だけを見て……凝視しろって意味じゃない!」
「おしりの穴には触るな」
「それはひどいだろう!」
最後の願いを聞き正気に戻り抗議する比良坂駿河18歳。彼は菊理那美18歳の腰から尻にかけてのラインを愛していた。