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031本当の敵

 「竜胆茜……あいつも、比良坂駿河だ!」


 駿河の叫んだ内容に驚愕の顔をする三人。


 駿河は彼らに自分がそのように考えた理由を説明する。


 「紙片の内容は、本来の竜胆茜が細胞記憶の比良坂駿河に宛てたものと考えればすんなり胸に落ちる。つまり、彼女は自発的に試薬Pを打っている。比良坂静香の協力者だからだろう。竜胆の尋問時の発言は二年前と、あの夜の比良坂邸のことが混ざっていたと仮定すると全てが腑に落ちる。『俺を刺したのはお前』は二年前の本来の富士崎由比に対してのことで、『怪我を負ったのは実家』は殺人事件があったあの夜のことだ。服のセンスも良かったが、それは中身が比良坂駿河だからだろう」


 「ちょっと待って」

 「服の?」

 「センス?」


 駿河の説明に全て納得しかけていた一同、しかし、最後の説明で疑問を投げかけた。思い起こすのは二年前、菊理くくり那美とのデートで着てきた『百歩神拳』と書かれたTシャツ。三人は比良坂駿河に服のセンスはないと確信していた。


 「あいつは黒地に白で『ベルリンの赤い雨』と英語で書かれたタンクトップを着てたぞ。どっちも某少年漫画の必殺技の名だ。どう考えてもセンスが良いだろう」

 「ああああ」

 「比良坂氏だ」

 「間違えない」


 駿河の加えた補足は、これまでのどの説明よりも三人の腹に落ちるものがあった。


 駿河は駿河で説明中に言葉にしなかったが、あっちの駿河りんどうの方が親友、恋人、親を引き連れている分、主人公っぽいポジションにいると内心思っていた。




 「これで一つはっきりした。グループAは殺しをしていない」


 駿河の一言は三人に強い確信を与える。



 比良坂駿河が自分の復讐のために恋人や親友、両親を巻き込むことはない。そう思わせるだけの繋がりが四人の中には根付いていた。



 「となると、グループBと想定して確認するのは、比良坂氏の携帯を持っているかの確認と、小泉氏の家に睨まれてでも二階堂氏と新藤氏を殺した理由。後は比良坂氏に惨殺死体を見せる意味ですか?」

 「携帯は基地局ハッキングすれば半径1~3kmくらいの範囲に絞れるよ。キョン子の車に戻ったらすぐやるよ」

 「今、発音に違和感を感じましたが」

 「良いの? ひらりんが見てるよ」


 城島の発言の内容に齟齬がなかったため駿河は喉頭で返す。


 三つの疑問の一つは方向性が定まった。


 残りの疑問を解消するため、四人はさらなる情報を確認する。





 ※ ※ ※


 「プロジェクトDというのを見つけましたわ」

 「こっちはプロジェクトRの問題点っての」


 情報のサルベージを再開してから、暫し経った後に二つの声がほぼ同時に上がった。


 駿河達は差し当たりプロジェクトDから確認することにする。



 『プロジェクトD -Delete-


  D(Delete)を投与することにより、

  S2の励起状態を基底状態に戻すことに

  成功した。このときレシピエントの

  記憶は、P投与時のときまで遡って

  いることを確認

  なお、投与された被検体に対し、再度

  Pを投与したが、Sが励起することも

  活性化することもなかった

  このことから、Reincarnation時でも

  レシピエントの記憶は停止しているだけ

  で破壊が起きているわけではないと

  推測する

  (追記)

  S2状態でのD投与で基底状態に戻る

  ことが判明。DはPではなくS2に反応

  をするためと考えられる       』



 「意図的に消すこともできるのか」


 駿河の発言に、心配そうに彼を見つめる強子。

 駿河は視線に気づくと、優しく彼女の頭を撫でた。



 『プロジェクトRの問題点


  ・S2を励起できる遺伝子鎖を持つ対象者が

  極端に少ないこと。過去の被験者を除くと

  現状としては以下の二名である

   ├比良坂静香

   ├比良坂駿河

   └

  ・現在のPでは、以下の状態で不安定になる。

   ├過去に臓器移植の手術を受けている

   └

  ・二度目のReincarnationについては、

  同臓器の移植が必要であり、それは一回り

  小さく切り取らないといけない。

   ├ Reincarnationの回数制限

   └                   』


 「あー。これ、比良坂氏の臓器が狙われる理由ですね」


 城島は両手で顔を覆う。


 「Shareは成功しているって、さっき書いてあったから、Rが目的だね」


 ワン・フーは備蓄品のペットボトルに手を付けていた。


 「特殊な状態で不安定になるということは、特殊な状態でなければRも不安定ではないのですよね」


 強子は二人の意見に反論を出す。

 事実、文脈を理解するとRは移植歴のあるレシピエント以外には成功していると読み取れた。




 駿河は彼に視線を向ける三人への解答の前に、状況を整理することにした。


 「二ヶ月前に試薬Pを富士崎由比に打ったが、俺は富士崎由比の演技をした。今日得た情報は二年前なので、由比が打ったのはおそらく試薬Pの改良版か。まあ、それを投与してみたが、一度移植をしていた場合において、リンカーネーションが起こらないと結論付けられた。一方で失敗したはずの被検体である『富士崎由比』が何故か比良坂駿河邸にいた。ご丁寧に『比良坂駿河』の認証コードを使った形跡もある」


 強子は左手のひらを右手で叩いた。

 そして、駿河の言葉の続きを口にする。


 「犯人は失敗と思われていた試薬Pの改良版が、実は成功だったのかも知れないと思ったわけですわね。ですから、富士崎由比を殺さず放置したと」


 次いでワン・フーが犯人の思惑を推測した。


 「犯人は『富士崎由比』の中身が本当に『富士崎由比』なのか、はたまた『比良坂駿河』なのか確認したかった。っと」




 一つの推測が纏まると、今度はそれに対しての矛盾も出てくる。


 「あれ、そうすると二階堂や新藤から臓器を奪った理由は?」

 「小心者の吉良が小泉氏の家に反旗を翻したのは?」


 二人の上げた疑問。

 その理由を考えるうち、駿河は一つの推論に行き着く。



 「……吉良じゃないんだ」

 「お母様?」


 気づいたことの重大さに思わず眉間に皺を寄せる駿河。

 強子は彼の様相から彼の母が犯人ではと邪推してしまった。


 「違う。二年前と同じなんだ」


 駿河は否定する。



 彼は皆を見渡し、ゆっくりとその理由を言葉に表した。


 「二年前、吉良の計画と異なり、レシピエントの一人である富士崎由比が先走って比良坂駿河を殺害した」



 駿河は唾を飲み込む。


 「今度はレシピエントが暴走して、適当な移植者の『健全な臓器』を『比良坂駿河の臓器』に取り替えて追加の実験をしようとしてやがる」




次回『032バグ・ナグと木下グエン』

  「ゴーメンナサイヨー、ゴーメンナサイヨー」

  「だ、誰ですか?」

  泣きながらガシャガシャと音を立てるグエン。

  駿河はとりあえず赤の他人の振りをすることにした。


あなたの脳裏に神戸の妄想が焼き付く

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