003計画
「三回目のデートだよな?」
「何が三回目なん?」
「セックっブルーアイズホワイトドラゴン!」
「少しは変化球を覚えろ!」
強烈なインパクトを残した4月27日の騒動は、クラスメイトに急激な慣れを促していた。
その証拠に、翌4月28日水曜日には教室の隅で腕挫十字固を比良坂駿河18歳がかけられていても、それをかけているのが菊理那美18歳でも全く気にも留めていなかった。
※※ ※
慣れは馴れ合いを助長する。
「比良坂君はやめた方が良いんじゃない?」
「あんな奴のどこが良いの?」
大半が何の考えもなしの発言だが、困ったことに那美を本当に心配する声も混ざっていた。これもすべて此方彼方で繰り返される駿河の迂闊な性欲丸出しの発言が原因である。
バンバン……
キュッキュッ
「パス、こっちフリー」
4月28日水曜日三時間目の体育の授業はバスケットボール。
班ごと交代で試合が行われており、菊理那美18歳は現在、休憩中。保育館の壁にもたれかかって、息を整えていた。
「ひらりんと、まじでこれからも付き合うの?」
そこへ投げかけられる同じく休憩していた那美の親友、田中愛梨17歳の口から出た忠告。それも外野の雑音と似たようなものであった。
「そんなん言うな」
あっさりと流す那美。
その澄んだまなざしは迷いなく、真っ直ぐだった。
タオルで汗をぬぐう仕草にも若干の余裕が見て取れる。
「でもあいつ、明日から毎日放課後デートしたら週末にはやれるーって叫んでたよ」
「そ、……そんなん言うな」
親友の忠告に引っ掛かりを覚える那美。
先ほどとは違う理由から出てくる汗を拭う那美。彼女は拳による早急な話し合いの必要性を考えていた。
※※ ※
「ホ、ホテル?」
「金あるん? そもそも、高校生だけで泊まれないやろ」
「ディズニーランド?」
「だーかーらー金あるん?」
4月29日木曜日の昼休み、比良坂駿河18歳は菊理那美18歳にデートプランの提出を強要されていた。もちろん昼食は抜きだ。
書いては破られるルーズリーフ。ノートでは得られないその分割廃棄による利便性は遺憾なく発揮されていた。
彼は半泣きになりながら頑張って壮大な計画を捻りだすが、全て彼女にダメ出しされている。
その作業は昼休みでは終わらず、五時間目の授業、六時間目の授業中も続けられる。五時間目の数学の教師、五十嵐九十九52歳バツ1と、六時間目物理の宇喜多権蔵43歳未婚は長年の教師生活の経験から空気を読むことに長けており、アンタッチャブルな二人に触れないようにしたからだ。
お陰で教師に止めてくれることを期待していた駿河は世の中の理不尽さを少し早めに味わうことになった。
六時間目の終わりまで後10分といったところで、駿河が歓喜の声を挙げる。
「まじで? やった! 終わった!」
出来上がったデートプランが書かれた一枚の紙を高らかに掲げ、立ち上がる駿河。
そこには等身大の素朴な、そして、お泊り無しの計画が書かれていた。
クラスメイトは皆、拍手を彼に送った。
那美に行為を抱いていた男子も拍手を送る。
感受性が高いのか、少し涙ぐんでる女子もいた。
六時間目の授業の担当である物理の教師、宇喜多権蔵43歳もオイラーの法則の説明を止め、手をたたく。
二人のその後が気になっていたのか、数学の五十嵐九十九52歳バツ1も廊下から教室を笑顔で眺めていた。




