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027密室

 駿河は夢を見た。




 「本日の夢は司会のワシ、小泉源三郎と」

 「解説の私、朝霧 みずちで進行させていきます」


 「誰それと、疑問に思ったそこのあなた」

 「はい、その疑問は正しいです。私達二人はキャラクター設定されているにも関わらず、名前すら出てこない人物なのです」


 「ボツ……か?」

 「いえ、名前は出てきませんが、物語の中で役割はあるのです。ちなみに源三郎さんは強子の祖父という役割ですね」


 「うむ。なら良い」

 「許しが出たので、早速行きましょう」




 「まず、第一の殺人現場じゃな」

 「はい、おっと早速、容疑者が何かやっております」


 「あれはロープか」

 「はい、その先は中西さんと繋がっております」


 「カーテンレールに通して引っ張っておるな」

 「はい。ああすることによって滑車の原理で持ち上げているのですね。内蔵を抜いたのは軽くするためでしょうか。血液と合わせて20kgぐらいは軽くなってそうです」


 「ロープを縛ったの」

 「ロープを固定してから、ワイヤーで彼をカーテンレールに結ぶようですね。これでロープを解けば、女子中学生一人でもできる成人男性の首吊り惨殺現場です」


 「飾り付け、頑張っておるの。健気じゃ」

 「地味ですね。地味なので、次の殺人現場にいきましょう」




 「美術室ということは二階堂かの」

 「はい。おっと犯人は共犯を連れております」


 「しずくちゃん、ごめんね」

 「大丈夫だよ。由比ちゃんのためだもん」


 「健気じゃの」

 「やってることが死体を撒き散らしているので健気さは微塵も感じられませんが、健気ですね」


 「そろそろ次いこうかの」

 「はい。中学生二人が狂気を孕んだ現場でした」




 「強子。悪いな。車出してもらって」

 「比良坂のためですもの」


 「おお。あれ、あれワシの孫娘じゃ。可愛いじゃろう?」

 「はい。そしてリムジンから臓器を放り投げてますね。孫娘さんも一緒に」


 「……次行こうか」

 「はい、特筆することがないので行きましょう」




 「ここはどこじゃ?」

 「セーフルームみたいですね」


 「おお、ザックザックと刺しておる」

 「刺されているのは新藤刑事ですね」


 「あの中学生酷いことするのう。四人も殺しておる」

 「いえいえ、実は五人です。最後の現場に行きましょうか」





 駿河は夜中にジュースを買いに自販機コーナーに向かった。


 その先で見つけたのは苦しそうに胸を押さえ蹲る少女。

 小学校低学年くらいだろうか。


 彼女は荒い息をしながら必死で痛みを堪えていた。


 「お、おい。大丈夫か?」


 駿河の声にうっすらと目を開ける少女。

 彼女は見覚えのある顔に、ニコリと笑いかけた。脂汗をいっぱいかきながら。


 「待ってろ。すぐに看護師を呼ぶから」


 少女を置いて、ナースルームに向かおうとする駿河。


 しかし、それは服を掴む小さな手によって止められる。


 「もう、嫌なの。痛いの、嫌なの……」


 少女は懇願するかのような瞳を駿河に向ける。


 「大丈夫だから。看護婦さんが痛いの取ってくれるから」

 「看護婦さんには……無理だよ。生まれてからずっとなの……」


 少女をよく見ると、手術が多いからだろうか、髪は剃られていた。それを帽子で隠している。細い手足、コケた頬。小学生の低学年くらいだと思っていたが、それよりも歳は上なのかもしれない。


 駿河は自分の発言が場当たり的で、いかに薄っぺらいものだったのかを知った。


 「お兄ちゃんは助けてくれる?」

 「ああ、助けるよ」

 「本当? 本当に?」

 「助ける。だからもう少し待って……て」


 駿河が少女を説得し後ろを向いた直後、無骨な木の柄が彼の背中に生えていた。



 「……え?」


 駿河は何が起きたのか理解が追いついていない。


 「ごめんなさい。ごめんなさい。でも、もうこれしかないの。もう嫌なの。ごめんなさい。ごめんなさい」


 少女は号泣しながら謝罪の言葉を繰り返す。


 だから、駿河は――


 「しゃーない。許してあげるよ」


 彼女が求めているだろう言葉を最後に送った。彼女の頭を撫でながら。







※ ※ ※


 「いや、臓器の摘出はどこいった。死亡推定時刻がおかしい件はどうなった。源三郎、ちゃんと司会しろや。」


 目覚めた駿河は思わず自分の夢にツッコミを入れていた。

 だが、その声は勢いなく、彼の思考は最後の場面に囚われていた。


 あれは本当にあった出来事なのではないかと。


 比良坂駿河の背中にあった小さな傷。それがついたのは類似した経緯だったのではないだろうかと。



 寂しげな顔をしながら駿河は頭を上げる。


 「あると思ったよ」


 ぼそりと呟いた駿河の視線の先は一つの遺体、先程まで一緒に行動していた新藤 羽衣ういの遺体だった。




 駿河は小さな胸を抑え、


 ゆっくりと鼓動を数える。


 ゆっくりと。



 彼は中西の死体を見たときと違って幾分冷静である。それにも関わらずルーティングを行ったのは、より冷静にあれと自分に言い聞かせるため。


 駿河はスマートフォンを取り出す。

 時刻は20時21分。


 意識がなかったのはおおよそ4時間。


 そして、母親にLINEで遅くなったから友達の家に泊まると連絡する。

 同時に強子にもおおよその場所と合わせてLINEで連絡した。



 新藤の遺体。それは他の事件と同様に腹が切り裂かれている。そして臓器が取り出され室内に散らされている点も違いない。だが、一点大きな違いがあった。それは傷口。縦に裂かれた皮膚に直行するように横に一閃斬られた痕がある。また、下腹部に古い手術の痕。他に外傷が見られないことから、死因はおそらく刺殺。

 大きな臓器の損失は見られないように思える。現在の技術で移植できる臓器は、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸及び眼球の合計7種類。そのうち腎臓だけは小さいためか、持ち去られたためか見当たらない。手術痕があることや新藤の生前の話を合わせると奪われた可能性が高いように感じる。


 当たり前だが、死後硬直は見られない。死後20時間から発生するからだ。ズボンを捲り、紫斑を確認する。上体にはなく、足に現れていることからおおよそ死後1時間から6時間。服を全部脱がせばもう少し詳細な時間がわかるが、それは必要ないだろうと駿河は判断する。



 次に駿河は入り口に向かう。


 ドアノブを回すが扉は開かれない。事前の新藤の説明から、新藤と駿河の二人が握らない限り、開くことは無いと思われる。

 地面にうっすらと血痕が見られる。血痕はその大きさから雫の落ちたおおよその高さを計算することができる。血痕パターン分析法で簡易計算すると……80cmから1m20cmくらいの高さから落下したものと想定する。

 これが新藤を殺した一撃だとすると、腹部に横に広くついた傷は幅広い凶器で突き刺したものなのかもしれない。斬ったとするなら、飛散する血液の量はもっと多い。刺したまま抜かなかったとするのが一番状況に即する。


 足元の床をさらに確認する。足跡の数は最低三。だが、駿河が入ったときに室内にほこりが溜まっていた様子もなかったため、事件前についていた可能性も否めない。


 次に駿河は室内の換気口に向かう。


 こちらはホコリが溜まっている。が、部分的に潰れている。直近、誰かが換気口に侵入した可能性が考えられる。おそらくここから犯人が睡眠ガスを散布したものと思われる。換気口の真下に小さな傷痕。駿河は辺りを見回すと壊れた金属の部品を見つけた。


 駿河は催眠ガスを塗布されたときの、自分と新藤の位置を記憶の海から拾い上げる。駿河の位置はほぼ変わらない。新藤の位置は大きく変わっている。最初、彼はこの換気口の近くにいたはずだ。


 ユニットバスの戸を開く。内部に変化は見られない。こちらの換気口は異常が全く見られなかった。





 犯人はわからない。しかし、おおよその殺害方法にも検討がついたため、駿河はこの密室を後にしようとする。


 しかし、ここで問題が発覚する。


 ガチャガチャ……



 そう、扉が開かないのである。新藤の説明を噛み砕くと、この扉は外からも開くことはない。鍵もない。新藤と駿河が連続して短期間にドアノブを握るしかないのである。


 「まじかよ」


 引きつった顔の由比が見つめるのは、新藤羽衣の遺体。





 ※ ※ ※


 「畜生、証拠だらけだよ!」


 駿河は息を整えながら慟哭する。


 先程までとは異なり、室内には奥からドアまで続く血の轍。



 「警察官の皆さん、ご迷惑をおかけします」


 駿河は一言謝罪の言葉を述べ、ゴミ捨て場から大量に持ってきたそれを室内に撒き散らす。



 証拠を消せないなら、増やしてどれが真の証拠かわからなくする。





 駿河は順調に犯罪スキルを伸ばしていく。



次回『028勇気』

「最終的に臓器を移植したのは六人!

  富士崎由比が心臓!

  二階堂俊が肺!

  新藤羽衣と七瀬誠が腎臓!


あなたの脳裏に神戸の妄想が焼き付く

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