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014積もる話

 「感動の再会とかないの?」

 「そんなもの豚に食べさせましたわ」


 しばしの問答の結果、比良坂駿河は小泉強子に自分の存在を認めさせた。主に幼少の恥ずかしい出来事を赤裸々に暴露することで。



 「変わってねーな」

 「比良坂、あなたは随分と可愛らしくなりましたのね」

 「すーるがー。あのね……あのね……」

 「うがあああああああ」


 売り言葉に買い言葉。

 強子の嫌味に、黒歴史で対抗する駿河。先程から一事が万事この調子で話は一向に進んでいなかった。



 「現状を教えて欲しい」


 急に真面目な顔をする駿河。

 強子は比良坂駿河に似ても似つかない少女に、駿河の姿が重なりしばし声を失う。


 「…………おほん。

それは事件の? 

家族の? 

それともクラスメイトの?」

 「……全部だ」


 返ってきたのはシンプルな回答。

強子は顎に手を添える。


 「わかりました……では、見返りにパーティー会場で一曲歌いなさい」

 「……変わってねーな」


 元祖の無茶振りに駿河は苦笑いする。





 「刺された箇所は10箇所よ」


 思ったより多い。

 駿河は頭の中に築いていた事件現場を修正する。


「両手首と両足首、肘の内側と膝の裏側。背中に小さな傷。それに首の頸動脈がばっさりと」

 「そんなに切られて俺は起きなかったのか?」

 「血液から麻酔の成分が確認されましたわ」


 駿河の疑問に即答する強子。


 「麻酔……」

 「ええ。おそらく眠らされた後に暴れないように手足の健を切られ、首からの流血による失血死です」

 「なんでそんな面倒な真似を」


 駿河のついて出たような質問に、強子は回答を逡巡する。


 「……か、空っぽだったの!」




 目を瞑り、手を握りしめて告げたられた言葉。

駿河はその一言にためらう意味がわからないため、続く言葉を待つ。



「見つかったあなたの体には……臓器がなかった」

 「臓器が……」

 「移植のために奪われたのではと思い、そちら側も調べたのですが……」

 「その様子だと芳しい結果ではなさそうだな」


 会話が成り立っているように思えるが、駿河は上の空。

 現実味の無い会話は彼の頭で処理するまでしばしの時間がかかった。



 「地下で血液型等、あなたと、比良坂駿河と適合率が高そうな移植患者は誰もいませんでしたわ」


 強子は吐くように事実が告げる。

 行き詰まる調査結果に彼女は自身の無力を感じ得なかった。


 「念のため、国内の病院で正規の移植手術を行ったアクセプタも調べましたが……」

「ドナー登録してねえよ」

 「ですから、念のためと言いましたわ」


 正規の臓器移植はドナーの同意が必須だ。ドナーとして登録していない駿河の体から臓器が移植されることは法律上ありえない。



 「比良坂家の手の届かない、知られていない犯罪集団?」

 「そうだとしても、レシピエントは国内の人間ではないということに……」


 推論というよりもただの想像。

 そのことに二人は縋り付くべき考えではないと判断する。





 「犯人の目星は?」


 先の件は議論できることが済んだとばかりに論点を切り替える。


 「おそらく……医者です。もしくは元医者、非正規の医者。切断部が正確でキレイな切り口でした。それに麻酔の選択と量が適切です。ものによっては臓器移植に問題が発生する麻酔もありますから。したがって、犯人はきちんとした医療の技術を持った人間です」


 口早に告げられる推論。

 それはおそらく正しいがあまりにも対象が多かった。


 「俺の入院していたサイレントヒル総合病院の医者は?」

 「少なくとも地下でどこかで繋がっているということはありません」


 次の案件は早くも暗礁に乗り上げ、言葉が出ない二人。





 「みんなは?」


 この駿河の話題は、先の二件の議論のせいか、盛り上がる話にならなかった。大学進学だ、就職だと説明を受けるが、駿河がいなかった二年間に各々が日常を過ごしていたということでしかない。明るい話題なのに二人はより顔を曇らせていた。


 「そうです。皆を集めましょう」

 「やめとこう」


 即断する駿河。

 強子は少し悲しげな表情を浮かべる。


 「皇を……疑ってますの?」

 「……まあ、入院の原因だし……な」


 駿河は入院したために死んでいる。入院の原因を作った一人が皇裕太だ。転生云々は置いておくとしても、彼が殺人事件に何らか関わっている可能性を駿河は否めないでいた。


 「く、菊理くくりさんが良いかもしれません」

 「……那美?」


 早口でなされた提案。

その回答に駿河は迷う。


 会って何を話せば良いのか。

 生きてたことを喜んでくれるだろうか。

 しかし、この体は比良坂駿河の体ではない。

 そのことに那美はどう反応するだろうか。


 「わたくしの方でも調べさせましたが、菊理くくりさんはクラスの『三銃士』を率いて調査してましたから」

 「……あいつらだけ引っ張って来れない?」


 駿河は逃げるようなことを口にする。


 「できますが、後に回すほど彼女の怒りを買うのでは?」

 「……とりあえずあいつらだけ」

 「オーケーですわ」


 保留とも後ろ向きとも受け取れるその考えに、強子の口調がほんの少し軽くなる。





 「……母さんは?」

 「お母様は行方不明です」


 これまでの会話とは打って変わって、強めの語調で強子は答える。


 「……は?」

 「そもそもあなたのお母様は何者なのですか? 行方不明の捜索が二年経った今でも続けられています」

 「え? いや、母さんは……母さん?」




 情報を得るために強子の元に来た駿河。


 彼は情報よりも疑問を多く持ち帰ることになった。






※※ ※


 その後、約束を忘れていなかった強子により、駿河はパーティー会場での歌のお披露目を強制される。



 ♪ ♪ ♬♬♪ ♪~


 転生特典なのか由比のポテンシャルなのか、


奏でる歌声は聞くものを魅了し、


美しい少女の姿は見るものを虜にした。



感激のあまり、やーちゃんこと永田弥生は涙する。





 「アンコールですわ」


歌い終わった駿河を迎えた強子の一言。

そして、沸き立つコール。


駿河は抗議の視線を送るが、強子の『そうでした。わたくしまだあなたからプレゼントをいただいていませんでした』という一言で、二曲三曲と歌わされることになった。




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