013誕生日
「お・ね・い・さっ・ま!」
「やーちゃん、冗談でもやめてよ」
「いやー……でも実際、神がかってたよね」
富士埼由比14歳をからかう永田弥生14歳。
一見和やかであるが、片方は中身が18歳の男であった。
駿河は試合後、囲まれた。
比良坂駿河の人生18年。
同性から好意を告げられることはなかった。
異性からも一度だけだった。
そんな駿河を囲い、桃色の言葉を吐く女子の集団。
彼女らが何を考えているのか、駿河には全くわからなかった。
試合の前、自分が活躍することによる心配は大きく二つ。
由比の体と、由比の変化に対する周りからの疑念である。
後者については『運動してなかったけど才能はあった』という妄言で貫こうと考えており、それ以外の対策は特になかった。
そこに来て、多数の妹志願者である。
曰く、鋭い目つきが好き。
曰く、格好良かった。
曰く、支配してほしい。
曰く、美しかった。
由比より年上なのに妹を希望する奇特な人もいた。
閉鎖的な空間だからだろうか。海外の刑務所ではケツを掘られる被害が多いらしい。
口にしたら炎上しそうなことを考える駿河。
彼は由比の友人である吉原しずくに救助されるまで、呆然と立ち尽くすこととなった。
そんな悪夢の光景を思い出し、駿河のテンションは降下する。
永田弥生ことやーちゃんとちらりと見る。
彼は彼女の態度が本気でなく、揶揄するもので心底安心した。
※※ ※
一時間くらいが経過したことだろうか。
タイミングを見計らっていた駿河は、一言ぼそりと小声で口にする。
「きょんきょん」
誰にでもなく、向けられた一言。
話し声が飛び交う中、聞こえるはずのないその言葉に反応を示した人物がいた。
会場の反対側にある人だかり、
その輪の中心にいる人物――小泉強子20歳。
彼女は首を徐々に徐々に駿河の方へ向けた。キリキリキリと音が聞こえてきそうな雰囲気である。張り付いたような満面の笑顔が特徴的だ。
強子の視線が自身に向いた確認すると、自分の乳に手を当てて持ち上げるようなポーズを取る駿河。続けて今度は頭頂部の髪を持ち上げ、ウインクする。
強子は瞬間的に能面のような顔を見せたが、再び笑顔になった。
そして、足音も立てずに滑るように駿河に向かってくる。
近づいてくるにつれて、顎やこめかみの血管がヒクヒクと緊張しているのがわかるようになった。
静かに対峙する二人。
やーちゃんこと、永田弥生14歳は身の危険を感じたのか脇にそそくさと逃げる。
先に口を開いたのは駿河だった。
「わたくしが付き合って差し上げると言うのです。『はい』以外に回答はないでしょう。さあ、言いなさい………………えと、好きで」
「うわあああああああああ!」
芝居がかった駿河の言葉をかき消すかのように叫ぶ強子。
見て見ぬふりをする上流階級の方々。
やーちゃんこと、永田弥生14歳は飛び出そうなほど目を剥いていた。
ハアハアと呼吸もおぼつかない強子。
彼女に向けて、駿河は請う。
「思い出させて悪いな、きょんきょん。
……突然ですまないが二人で話がしたい」




