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011球技

 「白百合先輩をギャフンと言わせてくれたら良いよ」



 姉妹の契りでも血縁のように似るのだろうか。

 楽しいものが大好きな『お姉さま』にしてこの妹ありかよ。


 旧友を重ねて見てしまった事に気づいた駿河は、思わず苦笑する。





 ターゲットは白百合まゆ15歳。容姿端麗、文武両道の中学3年生。全国大会に出場したテニス部では部長もしている。白百合財閥の直系でもある。

 同学年に勝てるやついるのかと疑問に思うほどの完璧超人の情報を得た駿河は絶句する。


 トントントン……

 爪で机を小気味よく叩く。

 腕を組み、目を瞑る。


 白百合まゆに恨みなど全くないが『富士埼由比』のまま、『比良坂駿河』の情報を得るためには仕方ない。しかし、ギャフンと言わせるという曖昧な目的にどうすれば至ることができるのか。


 駿河は考えを巡らせる。





※※ ※


 「試合? ですか?」


 駿河に疑問を呈するのは楠木翼13歳。



 『ギャフンと言わせる』

 考えた末の結論、テニスで白百合まゆを負かすことと置き換えた。


 『ギャフンと言わせる』の定義は『言い負かされて言葉も出ないさま』を表す。得意となっている分野で素人に負け、専門的な指摘を受けたら言い負かされると受け取れるだろうと駿河は方向性を固めることにした。

勉強で勝負といっても学年も異なる。容姿では勝つことはできない。消去法でスポーツを選ぶことになる。


 むろん、すぐさま本命の白百合まゆ15歳と試合を行うのは無理な流れである。

 そのため、駿河はテニス部所属のクラスメイトの楠木翼13歳に空いたコートでリハビリ代わりにあなたと試合がしたいと提案した。彼女は踏み台である。その試合で周りを魅せて本命との試合に繋げる。そんな行き当たりばったりの計画であるが、実力さえあれば繰り返されることにより必ず到れる道でもあった。


 いきなりのスポーツ少女への転向は目立つことは間違えなく、本来の『富士埼由比』から外れることになる。しかし、『富士埼由比』のままでは白百合にギャフンと言わせることはどう考えても無理であるため致し方なかった。



 「でも、その……大丈夫なのですか?」


 富士埼由比14歳の体は虚弱である。

 幼少の頃から手術を繰り返し、手術創だらけである。

 授業中もたびたび倒れるのでその貧弱っぷりはクラス公認であった。余談だが、駿河としての意識が目覚めたときも胸を抑えて倒れたらしい。


 楠木翼13歳ももちろん由比の体の弱さを知っている。



 「医者も太鼓判を押しているし、実際体調もすごく良いの。今ならウインブルドンでも戦えるわ」


 もちろん、医者から太鼓判は押されていないし、生前の駿河の肉体でも国際大会で戦える実力はない。取り繕おうとして適当なことを口八丁のでまかせを言う駿河。


 「え、ええ、えええええ……」


 挨拶程度しか由比と言葉を交わしたことがない楠木翼13歳。

 怒涛の展開に彼女の脳はオーバーヒートする。




※※ ※


 「え……えええ……えええええ」

 「いつでも来い」


 混乱から復帰しない楠木翼13歳を脇に、どっしりとコート際で余裕を見せているのは保険医、宗近雅子51歳。エスカレーター式の聖フォレスティア女子高等学校において、幾度となく倒れる富士埼由比の対処は彼女にとっては慣れたものであった。


 心配そうにギャラリーが見守る中、駿河はぽんぽんぽんとラケットでテニスボールを慣れた手付きで地面につく。



 構える。


 そのまま一呼吸。


 真上に高くトスを上げ、

 

 右腕を後ろに引く、


 膝を曲げ、力を全身にためる


 落ちてくるボールに向かって


 タイミングを取って、


 思いっきり跳んで――――インパクト!



 凄まじい勢いで飛んでいく。ラケットが。


 「ひゃあ!」


 頭を抱えてラケットを避ける楠木翼13歳。

 なかなかの反射神経である。




 あ、だめだ。比良坂駿河18歳時のプレイスタイルだと富士埼由比14歳には無理がある。


 駿河はプランの修正を余儀なくされる。



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