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Nadryw  作者: えどま えん
第二章
6/11

Meeting




ロス曰く政治や軍事に関わる国を左右させるレベルの重要な依頼は今までも何度かあり、その大半はかの大戦時と冷戦時代が繁忙期だったという。

一度失敗すると依頼は来なくなり、収入源の5割以上を占める仕事には細心の注意を払っていた。もっとも、財産が山のように隠されているみたいなのでわたしは心配する必要は無いと思っている。

「では作戦会議をはじめよう、ロギノフ!」

やはり場所は移動せずにあくまで公園で話をするつもりらしい。誰かに知られて失敗したとしても、さいあくわたしには関係ない話だとしらを切れるからいいだろう。

彼はA4サイズが入るほどのバッグーーいつの間に持っていたのだろうーーから小さいサイズのホワイトボードを取り出した。

「タブレットパソコンという手はなかったんです?」

それを見た瞬間にわたしは思った。わざわざ原始的な方を選ぶのだなと。もしやすると、これも情報を抜き取られないためなのかもしれない。

「ああ!その手があった。ははは、毛頭なかったよ」

情報がどうだとかの問題ですらなかった。

彼は頭を掻いた。そしてホワイトボードに何やら箇条書きする。

・選挙活動を控えさせる

・投票数を操作する

・変な噂をながす

・出馬を辞退させる

どれも幼稚に見えるが、彼は真剣な表情のままペンを握っている。

「過去にやったことのある方法がよろしいかと。経験はものを言いますし」

「ならば辞退させるのが確実だなあ。すこし手間がかかるが、そのぶん確率は高い」

彼は赤いペンをとりだし、

・出馬を辞退させる

の部分に赤丸をつけた。

「手間というと?」

「相手の弱みを握り脅迫したんだが、弱みを探るまでにかなり時間がかかった。それほど警戒心の強い者だったからな」

「あと一週間未満ではできないでしょうね。そうすると一番準備に時間がかからないのは、噂を流すことですか」

「実はその噂を流す作戦だと勝率が下がるんだ」

ホワイトボードに何やら書き込んだ。

・選挙活動を控えさせる(簡単だが危険)

・投票数を操作する(地味に面倒だが安全)

・変な噂をながす(簡単だが勝率低い)

・出馬を辞退させる(確実だが要時間)

わたしはそれを見て、なるほどと考えた。

残り時間は五日。場所もここノルウェーではなく、モルドバと少し距離があるため移動する時間があるならば他のことに時間を使うほうが有意義。

「ふと思ったのですが、噂を流す際にインターネットを活用するのはどうでしょう?最近の若い子は一日中、スマートフォンを触っていますから影響力は絶大ではありませんか」

「だが一か八かでもある」

「ちなみに依頼主の簡潔な政治方針と支持率を教えていただけますか?」

聞くと、彼はホワイトボードにそれらを書き記した。


[ミハイル・ヨシモヴィッチ]

隠れコミュニスト。保険制度の確立と、税金の支払い額を年収別に変える政策を主に訴えて多数派の貧困層から支持を得ている。

「その感じですと今のままでも勝てるのでは」

「多数派ではあるんだが現在の支持率は35%前後なんだ。対抗馬は40%近い。まあ無関心な奴らもたくさんいる。ただミハイルは叔父がソ連人でKGBの一員だった事もあり、かなり社会主義的思想を持っている。まあ、資本主義を目指す知識人から嫌われてるよ」

当たり前だがね、と彼は肩をすくめる。



モルドバは旧ソ連圏で、まだまだ国としてはしっかりしていない。経済も苦しく親露でもある。だが昨今あったクリミア半島事件を機に国民感情が変わりつつあった。

「やはり有利なのでは?」

頭の中で大量の国際情勢の全体像を整理してみても、国全体が社会主義寄りであるため依頼人の当選は有利のように見える。

「知っての通り旧ソ連の国々の大統領は任期が長い。ベラルーシの独裁ぶりも知っているだろう。最近も選挙の対抗馬者や支援者を投獄したことで、資本主義側で問題になっている。もちろん国内でも。夫が投獄されたから自分が出馬せざるを得なくなったとかいう女性を見た」

と彼はわたしにスマートフォンで、それが書かれたニュースを見せた。

「そこまでは知りませんでした。となると問題は所得別納税額ですか。因みにライバルはどのような?」

頭を使えば、相手を怪我させたり、脅したりする阿呆な方法をやる必要はないのだ。極力、人に悪影響を与えたくはない。吸血鬼が何を言うんだと思われるだろうが、こちらとて不要に関わろうとはしない。

だが、ロスはわたしが次々に出す提案にうんざりした様子だった。先ほど渡した飴をがりがりと噛み砕いている。飴玉を噛み砕き飲み込むと、彼はわたしを睨みつけた。

「ハッ。頭がいい様に見せて本当は苦労をしたくないだけだろう?いくつもの意見をありがたく聞かせてもらったが、ミハイルは頭脳より早く行動を起こしてほしい奴なんだ。ついさっきも連絡がきて、まだかと言われた。この間にも世論は動いているんだと」

わたしはやれやれと頭をおさえながらため息を吐く。

「わかりましたよ。ではこうしましょう。インターネットにてライバルの怪しい噂を流します。しかしこれはクレオさんにお願いします。その間に我々は現地の開票所に向かうのです」

「おお!いいねえ、それ。クレオ君が有能かどうかも判断できる。さあ行こう!」

ロスがホワイトボードを鞄にしまい、すくっと立ち上がる。わたしもあとを追う。我々は公園を後にした。




※登場する国家、組織に関する情報は全て現実に寄せたフィクションになります。

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