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Nadryw  作者: えどま えん
第一章
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Speak - 2.0




 わたし達は今、住処の近くにある公園にいる。

冬場はだれも来ないが暖かい季節になると、こんなに人が住んでいたのかと驚かされるほど人が公園に日向ぼっこしに集まる。

わたしが住んでいた町では、見たことのない異様な景色に初めは目を疑った。でも、ここノルウェーに避暑地として別荘を置くロスにとっては日常の一部であった。

「ときどき僕は自然が恋しくなる」

「はあ」

 公園に来て何をしだすのかと思えば、とつぜん詩を詠み始めた。今に始まったことではないが、わたしは呆れてしまう。

「いま、また変なこと言ってるなと思ったろ!詞でもなく本心からの気持ちを言っただけだ!」

 わたしの心情を勝手に読み、彼は憤慨している。

「それで、本題はなんです」

 わたしは暑くなってきたのでワイシャツの袖をまくった。彼も興奮したせいで暑くなったのか、首元を手で仰いでいる。まわりの人間たちはみなTシャツ一枚や半裸なのに対しわたし達は少し浮いていた。

「いやあ、昨夜のニュース見たかい?あのレオン・ナイガードの事故について」

「ええ。たしか先週ほどに放送された深夜のオカルト番組に出演していましたね。さすがにわたしでも、この組織の誰かの仕業というのは予想がつきますよ」

「おお!さすが我が相棒。その通りなんだ。この前の集まりの時に話をした彼ーークレオだ。彼の背後にいた奴の仕業だな。あの戦法は会議で議題になっていたことの条件をクリアできていて、とても魅力的だ」

「では我々も真似てーー」

「いやしかし殺しまではいかがなものかと思わないかい」

 彼はタバコを吸おうとしてやめる。わたしが代わりに棒つき飴を手渡す。「ありがとう」と舐め始めるが、飴を口に入れた瞬間むせた。

「な、なんだこの味は!?」

 わたしは驚く。

「それは、美味しいという意味ですか?」

「そんなわけがあるか!まずいにもほどがある。嫌がらせか?」

「そんなはずは」

 なにせ公園に来る前に何かお菓子が食べたいと思い、街中の店に寄り店員にオススメを聞いたらさしだされた品物である。見た目は黒いが、黒い飴がイコールで不味そうだとは全く思わなかったので、しかも東洋の国で食べた同じような黒い飴は美味だったため疑問にも思わず買ったのだ。

「ふくろを見せろ」

 わたしは飴が入っていたふくろを彼に見せた。

「サルミアッキじゃないか!ははは、さては店のやつに騙されたな?」

「そうなんですか。しかし良い店員さんでした。観光客には必ずこれをすすめていると」

「まあそうだろうな、話題性がある」

 彼は咳払いして、話を戻した。飴は吐き出してティッシュにくるんでいた。そこまで不味いとは知らなかった。意図せず彼に攻撃することができて、わたしは少し気分が良くなった。

「我々のモットーは人々をおどろかし、恐怖を煽ることだが死なせることではない。とうぜん自殺をうながすのも違う。あの手法は理にかなっているがやり過ぎだ」

「ではどうしろと」

 彼は結局タバコに火をつけた。近くで寝転がり日向ぼっこをするカップルらしき女の方が嫌そうな顔をしている。

「まあ彼らには注意したさ。組織に厳格な規則はないが暗黙の了解はある。過去に死人は指で数えられるほどしか出ていないのが証拠だ。それに加えて、被害者が番組で語っていたがあれだと本気で視聴者が歴史上の偉人だったのではと勘違いしてしまう。実際はフリードリヒ二世は戦死ではなく老衰で亡くなっている。そのような汚名を被せるような行為も腹立たしい!」

 怒り続ける彼を横に、仲良く日向ぼっこをしていたカップルの男の方が立ち上がり、女をおいてどこかへ行った。わたしはなんとなく嫌な予感がした。

「とまあ僕の評価はさておき。実はかなり重要な依頼がきたんだ。とある国の政府からなんだがーー」

 と言いかけて彼は口を結んだ。わたしの後ろを見て顔をしかめている。何事かとわたしは振り向くと、先ほどどこかへ行ったカップルの男が警官を引き連れて戻ってきたのだ。しかも我々に向かって。

「こんにちは、ちょっといいですか?」

 警官は我々に話しかける。嫌な予感は的中したが大したことではなかった。内容はロスのタバコについてだった。この公園は禁煙とのことで、吸った場合罰金が科せられる。ただ警官の目には我々が観光客に見えたようで厳重注意だけで済んだ。

ロスがあきらかに不服そうな顔をしている。わたしは思わず笑ってしまい、なんてラッキーな日なんだろうと喜んだ。

「なぜ笑う!君さては知っていたな?」

「まさか!ここに初めて来たのに知ってるも何もないですよ。むしろ何十年と暮らしていて気づかなかったあなたの方がおかしいのでは」

「ふうむ。非を認めるよ」

 それで、と彼は話を続けた。

タバコは足でつぶし火を消したが、かすを拾うそぶりがなかったので仕方なくわたしが拾ってゴミ箱に捨てることにした。

「組織にモルドバの政府関係者がいるんだが、そいつが協力ほしいと言ってきてね」

「我々にそのような権力はあるのですか?」

「そうでなく、僕らが得意とすることで今度の選挙を操作してほしいらしいんだ」

「ええ、これをこんな大衆の中で話していいんです?」

 わたしは急に不安になる。誰が会話を聞いていてもおかしくない状況だ。

「逆だよ。室内の方が危険なんだ。こうして大勢の中に紛れ込んでいる方が都合がいい。とにかく、選挙は来週に行われるから一刻も早く対策を考えないといけないわけだ!」



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