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Nadryw  作者: えどま えん
序章
3/11

Speak - 1.0






 我々が北イタリアの都心部にある住処につく頃には、日は落ちて辺りはディナーを楽しむ人々で賑わっていた。

一見おんぼろに見えるこの三階建ての建物は、アパートになっており我々はこの二階部分を借りている。通貨がユーロに変わってから、色んな物の価格が高騰したりと大変だったが最近では落ち着きつつある。それでもイタリアの不況ぶりとEU内での落ちこぼれ具合は変わらない。


 わたしは帰宅して、居間のソファーに深く腰掛けた。そのとなりにロスも座る。お互いに疲れていることは様子だ。

「疲れているところ申し訳ないんですけど、今日のことについて説明してもらいたいです」

彼は深いため息をつき、パイプを吸い始める。一息ついたのか、目を瞑りながらゆっくり口を開いた。

「Social Penetration Occult Organization…通称SPOOという組織を知ってるかい」

「いいえ。初耳です」

「主に人間に心霊的、超常的な不可解な現象を体験させ恐怖や畏怖といった不安定な感情を得るのを目的としているんだ。設立当時からやってるんだけど、年々ゆるくなってきててさあ」

「まるで悪魔のようなことをするんですね。思ったより人間が一番怖かったりして」

「まあね!」と彼は煙をふかす。

「定期的にやっていた会議も大戦があってからは不定期になってしまって。幹部のメンバーが政治や軍に関わっていたせいで皆んな裁判にかけられてしまって、ごっそり席が空いてしまったんだ。それで今日集まったのも、ものすごい久しぶりなんだよ。何人か見たことない顔もあったからね!」

 わたしは話を聞きながら夕食の準備に取り掛かることにした。キッチンはきれいに整っている。しばらく料理していないのがわかる。

無論、わたしが料理をできるはずがなく、冷蔵庫の中からご近所に住む女性からいただいた手料理のパックを手に取った。それをソファーの前にある小さいカフェテーブルに置く。

「やはり気がきくね、ありがとう。これでクッキングもできるとますます良いのだが!」

「それだともはや家政婦になりかねないですね」

「僕にとってほぼ変わらないようなものだけれどね」

 彼はまだタバコを嗜むようだったが、わたしはパックを開けた。中はどうやらパルミジャーナだった。わは口へ運ぶ。口内にトマトの酸味が広がる。

わたしには空腹という概念が人間とは異なる。しかしここに来てから、料理というものは見た目に惹かれて食べるようになってしまった。慣れとは恐ろしいものだ。

「それで今日の議題については?わたしにはさっぱりでしたが」

「うん。組織の活動は簡単に言うと人間を驚かす事だ。だからやり方は人によって様々なんだけども、僕の場合はよくやってるように道行く人にさりげなく衝撃的な発言をすることなんだよ。くだらないだろう?これでも立派な仕事の一つさ」

 なるほど、とわたしは彼がいつも出会う人に奇妙なことを言って相手を困惑させるのを思い出した。

彼はまだ料理に手をつけない。

「となると、わたしもそれに加担したことがありますね?」

 わたし自身も何度か彼に頼まれて怪奇現象もどきを起こした事がある。

「そう、たくさんあるだろうねえ。これからもよろしく頼むよ。僕は君を直感で選んだが、君でよかったと思ってるんだ。まあ今からそんな照れ臭い話をするつもりはないが」

 そう言われて悪い気はしないが、確かに少し恥ずかしいものだ。

「ああそうですね、賢明な判断かと。それより話の途中でしたよね」

「そうだったよ!それで、今まで僕みたいなやつは人間に直接的に関わっていたのだが、それが今日の会議で禁止になったんだ」

「死活問題では」

 わたしは最後の一口を頬張り、夕食を食べ終えた。

彼はこれから食べるようだ。「わあ美味しそうだ」目を輝かせている。

「そう大したことはないけどね。まあ僕としては楽しみが減るだけさ。じゃあどうすればいいかを今考えているところだよ」

「つまり間接的な接触がいいと。例えば、わたしとあなたが初めて会った夜のようなことも禁止事項に含まれるのですか」

「ああ、あの爺さんの日記で発覚した問題のやつか!」

 どうやら墓穴を掘るどころか、掘り返してしまったようだ。

彼は部屋の隅にあるテーブルからノートパソコンを持ってきた。そして例の日記が書かれているサイトを開いた。

「確かにこれはある意味、接触してるが……ううむ。そうだなあ。夜中と墓場という二つの点が功を奏し、爺さんが君を幽霊だと勘違いしたので有効な手段ではあるね。そうか、そうだな。これを応用した手法を用いよう。それと会議の去り際に会ったあの青年にコンタクトを取ろう。奴は興味深い!」

 彼はパソコンを触りながら、食べ終えたパックをわたしに渡してきた。わたしは仕方なく、食器を洗うためキッチンへ戻った。

キッチンからも聞こえるほど、彼の独り言が大きい。一度、興味を持ち始めたら興奮するのは分かるが一人暮らしではない事を考えてほしいものだ。



 後片付けをし、一休みしていた時にふと彼の言っていたことが引っかかった。

それは年齢についてだ。彼の外見からすると誰がどう見ても若者ーー最低でも二十代後半に見えると言える。なのに、発言の節々から伝わってくるのは彼が戦時中には普通に生きていたという、仮に本当なら今100歳近いことになるという事。今まで多くの時間を共に過ごしていたつもりだったが、知らないことはまだ多々ある。

わたしは気にせずにはいられず、彼にたずねた。

「そういえば言っていなかったなあ。僕の正式な生年月日を聞く人間は滅多にいないから、僕自身も忘れてしまってね。と、いうよりかは思い出せないんだ。なぜこんな長い時を生きているのかも。全てこの組織に所属してからの記憶しか無いと言っても過言ではない」

「まあ困らないからいいのだよ!」と彼はけらけら笑う。しかしその表情はどこか暗く悲しげだった。

「それに本来の僕を知っている人なぞ、もういないのだろうし。僕を訪ねてくる人もいない。孤独とは耐えがたきものだな」

 わたしはどう応えたらいいか分からず、黙ってしまう。普段の調子のいい口調と様子からは想像できぬ落ち着きようにわたしは彼には深い過去があるに違いないと感じた。

 彼はパソコンをしまい、寝室へそそくさと行ってしまった。いつもなら夜中になるまで起きているのに。一人で考えたい時は誰にだってある。わたしは放っておくことにした。

夜風が心地よくしずかに頬に触れる。わたしは何気なく、音のしない部屋にいるのが耐え切れずテレビをつけた。画面にはニュースが流れている。わたしは何度かチャンネルを変えて、気にいるのはないか探した。そこでふと興味深い番組を見つける。都市伝説を扱うユニークな番組である。





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