表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流され聖女の無人島ライフ  作者: なおすけ
3/4

流刑地に着きまして

太古の森と呼ばれている国有林の、ちょうど真ん中に広がる湖の名は【ミレモ】

その湖面を覗くと、今も遥か古代の木々が、そのままの形で沈んでいるという、なんとも幻想的な風情の湖なんだけど……。

まだ国が統一される前、3人の勇者に沈められた古竜が、今も湖の底に眠っているという伝説からついた【ドラゴンの涙】という呼び名もあるらしい。

観光地としてにぎわっていそうだけれども、実情はさびれている。すたれている。忘れられている残念湖。

なぜなら、ここは許可なくは立ち入れないのよ、流刑地なんだものーー。

実際この湖には、魚などの生き物は一切いないし、飲み水としての使用も不可。飲んだら死ぬ……、ほど苦しむらしい。なにそれこわい。

しかも、ここに沈んだら二度と浮き上がらないという、おどろおどろしい噂もある。

信じるも信じないも、罪人次第です。


右手をご覧ください。湖の真ん中に、ポツンと浮かんでいるように見えるのが、ミレモ湖、ミレモ湖でございます。

ここが、我が人生の最終地点なのであります。





ミレモ湖畔に着いたときには、もうすっかり日が落ちておりまして。


「湖に灯台なんて、めずらしいですね」


湖全体を見張っているのでしょう、湖畔に立つ、ずいぶんと古そうな灯台の上には、小さな明かりが灯っておりました。


「明かりが灯るのは、数十年ぶりだそうだ」


ぼそり、と聖騎士様が教てくれる。

なるほど、流刑人も久しぶりということですな。


聖騎士様は、黙々と枯れ木を組むと、ポッと火を起こされておりまして。

なるほど生活魔法! 神に仕える方たちは、普通に魔法が使えるんですなあ。便利便利。

小さな鍋をかけて、水筒の水を沸かして、干し肉をちぎっていれて、ええと材料はそれだけですか?それだけなんですね。そうですか。

干し肉をダイナミックにちぎる男の手料理。シンプルイズベスト。

なんとなく、いい香りが当たりに漂ってまいりましたよ。


大きめの石に腰かけて、聖騎士様と向かい合います。

殿方とお食事なんて、なんだか照れちゃいますね。

麻袋かぶってますけどね。


「食事した後に、島にむかうんですか?」


「いや、島に渡るのは明日の朝だ。……この湖は、夜に船を浮かべると、沈む」


「沈む?」


「沈む」


なんだかショッキングな話を聞いてしまいました。禍の集合体ミレモ湖恐るべし。



火がパチパチと爆ぜる音が心地よく。

――キャランバンでも、異国の人たちと火を囲んでいろんなお話したよなぁ。

なんて古き良き思い出に浸っておりましたら、ズイっとスープを差し出されまして。


両手縛られたままですが。

麻袋被ったままですが。

まあ、飲めないわけではございませんね、ありがとうございます。


「おいしい」


たいしたダシもでておりませんが、温かさが五臓六腑に染みわたります。


「ここには、明日から兵が交代で見張りにつく」


「はあ、こんななにもないところにご苦労様でございます」


「ゆめゆめ、島から脱出しようとするな。……たいてい死ぬ」


「そんな気がしておりました。おとなしく島ライフ楽しもうと思います」


「うむ」



パチパチと火が爆ぜる。

焚火のゆらぎ効果のなせる業か、向かいに座る聖騎士様のお顔が、更に3倍お美しく見える。

銀糸に抜けるような白い肌は、ザ・北方系。神々しい。

その聖騎士様は、眉間にシワを寄せたまま、ずいぶんと難しいお顔をされているけれど、恐いとか、そんな雰囲気では全然なく。

むしろたぶんこの人、わたしを心配してくれている。

いやまあ普通に考えたら、誰でも多少は心配してくれると思うけれどもね、この状況は。


「……20日に一度、朝、島の湖畔に食料が配給される。家族に手紙を送りたいときは、湖畔にわかるように置いておけばいい」


「じゃあ、家族からの手紙も届けてくれるんですか?」


「うむ。よほど大きいものでなければ、差し入れも可能だ」


「わぁ、うれしい!」


「うれしい、か」


「うれしいですよ! 罪状! 流刑! なんて言い渡された日も、護送日までは家にいろって帰されたし、きびしいんだか、やさしいんだか、よくわかりませんね?」


「まあ……、久しぶりの流刑だからな」


「なるほど。ちなみに何年ぶりなんですか?」


「少なくとも、俺が聖騎士団員になってからは、ない」


「これが祝・初流刑護送?」


「なんで祝だ、……まあ、はじめてだ」


「なるほど、流刑はレアなんですねぇ」


「まあ、そうなるな」


聖騎士様が、気まずそうにポリポリと頭を掻く。

ふふ、なんだろう、この和やかな(?)会話。

まるで湖畔でデートみたいじゃないですかね。

わたしは罪人なんですけどね、明日島流しなんですけどね。



「その……」


「はい?」


「俺の弟が、……お前の世話になった」


「聖騎士様の弟? はていつのお話で?」


「大災害の日、衛兵団の詰め所で、お前に治療してもらったらしい」


「ああ! 街の治安を守ってもらってますからね。お返しできてよかったですよ!」


「……感謝する」


「はい、どういたしまして」


聖騎士様は、「ふぅ」と大きくため息をつくと、どこかホッとした感じになられまして。

なるほど、ずっと礼が言いたかったんですね。本当いい人だなぁ。



――あの大災害の日。

衛兵団の詰め所は、それはもう見事に崩れてしまっていて。

若い兵士さんが、確かに何人か大怪我していたなあ、と思い出す。

あの中に弟さんもいたのかぁ。

自分のやったことが誇らしいね! 結果、罪人になったけれども。



「そういえば、あの大災害の時、お貴族の聖女様はなんで助けにきてくれなかったんでしょうかね?」


思い切って、ずっと心にくすぶっていたことを聞いてみる。


聖騎士様たちの姿は、たくさん見た。

教会に救いを求めてきた人たちを、分け隔てなく助けていた。

街が治安が悪くなることを警戒して、警備もしてくれていた。

揺れがおさまりますよう、被害が広がりませぬようにと、皆祈りを捧げていたが、――聖女様の姿は、ついぞ見られなかった。



「……あの聖女様の【神の施し】は、サカムケの治療レベルだ」


聖騎士様が、ボソリとつぶやく。


「サカムケ?」


「サカムケ」


「確かに痛いけど」


「あれが痛いか?」


「痛いですよ」


「そうか」


なるほどサカムケ。

そりゃ大っぴらに、治療しにはこれなんわな。

そんな大聖女様に、わたしゃ遺憾されたわけですか。


「……聖女という冠は、婚礼前の貴族子女に人気がある」


なんとも苦々しい顔をした聖騎士様を見て、わあ、なんかすごい納得した!

それ以上詳しく聞かなくてもわかるよ、商売人の娘だもの。


そうか。そうなのか。

あきれる、を通り越すと、人は無になるのかもしれない。

がくり、と首をうなだれる。


「ぶっちゃけ話ありがとうございます」


「いや、……こちらこそ、……すまん」


「聖騎士様が謝ることではないですよ」


「そうか……」


なんだなんだ、そんな悲しい顔しないでおくれよ。

こういうことは、世の中よくあることだからさ。

だが、サカムケ聖女様、貴様は絶対に許さん。

剥いても剥いてもとまらない、サカムケ地獄に落ちるがいい!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ