ドラゴン、背中に乗せる
翌日の冒険者ギルド。
ギルド内では会議が行われていた。というのも昨日のバジリスク。本来はここら辺りに出ないというらしい。
「ヘヴンドラゴンは関係ないんすか?」
「関係ないと見て間違い無いだろう。ヘヴンドラゴンがいると知ったのならバジリスクは逃げていくはずだ。王都付近で目撃されたということはバジリスクが生息する訝しみの谷にバジリスクよりも強いものが現れたと見て間違い無いだろう」
それもそうか。
逃げてきたとなると…。バジリスクはBランク指定だったか? あの毒が厄介なドラゴン。
あれより強いとなると最低Aは確実か。
「これより我々は訝しみの谷に調査をしに行かなくてはならない。Aランク冒険者と回復ができる魔法使いを連れていく」
「お、お姉ちゃんは何ランクだっけ?」
アリィがサリィに尋ねた。
「Aね。もしかしたら私も行くかもしれない。そしてヘヴン。ちょっといい?」
とサリィに呼ばれる。
「あんた訝しみの谷行ったことは?」
「ないな。ここしばらくはあの森で眠っていただけだから行った記憶はない」
「じゃあんたのせいではないわね」
疑われてたの?
ふむ、オレもオレでモンスターが気になる。ドラゴン形態でついていきたいが…。
「あの、ギルドマスター。オレもいいですか」
オレは手を上げた。
ギルドマスターは意外だったのか考えていたがオーケーという返事をもらえた。
訝しみの谷。
なぜそう呼ばれるようになったんだろうな。オレは細けーことは考えたくねーけどよ。
「きてもらう冒険者は後々発表する。今日は解散」
といって会議が終わる。
今オレが確認しに行ってもいいが…。それはダメだよなあ。騒ぎをでかくしそうだ。
会議を解散された後は好きなようにしていいらしいが訝しみの谷にはいってはならぬということでそこにいくクエストは昨日まであったのに今日は剥がされていた。
「それにしても、モンスターの脅威が多いな。人間はビビリだ」
「しょうがないでしょ。弱いんだから。人間は群れてでしか強くなれない生き物なの。弱いからこそビビるんだよ」
「それもそうだな」
とりあえずオレは肉を注文した。
オレは人間の怖さは知っている。人間の弱さもわかっている。だが、気にくわん。
人間は、窮地に陥るほど強くなることが。死に際でも諦めないことが。
「あんたはドラゴンだからわかんないと思うけど私らは違うの。人間は弱くて調子に乗るから弱いままだってのわかんねーかなー」
「酔ってるのか?」
「酔ってなぁい!」
と、顔を真っ赤にしていつのまにか酒を飲んでいたサリィが机を叩く。アリィは薬草をじーっと眺めていた。
アリィって頭おかしいよな。今更だが。
「大体なんで訝しみの谷なんかに強いの出るんだよぉ! バジリスクをこっちに寄越すなってんだ! こうなったら私が討伐してやらぁ!」
「酒が入ると強気になるのかコイツ…」
オレは肉をかじりながらそう呟いた。
夜、解散しアリィはサリィを介抱していた。サリィは酔い潰れており一人で歩けなさそうだ。
「ではヘヴンさん! また明日ー!」
「はいはい」
オレはどこで眠ろう。
宿屋で眠ってもみたがあのベッドの感触が肌に合わん。土の歌とかで眠ってたせいか固くないと眠れない。
「今日もドラゴンとして眠りますか…」
門を抜け、森に向かう。
森でドラゴンに戻り、目を閉じると人間の話し声が聞こえる。
「きたきた。ヘヴンドラゴン。どうせ本当は弱いんだろ? みんなが大袈裟に話してるだけなんだよ」
「や、やめろよ。怒ったらどうすんだ…」
「眠ろうとしてる今がチャンスなんだよ。お前もこい」
「死ぬって!」
「意気地無しだな! 俺一人でも討伐してやらぁ! 俺が独り占めすっからなコラァ!」
冒険者のようだ。銅のバッジということはCランクの冒険者。
その冒険者は剣で私を突き刺そうとしている。鱗が硬いのでそう簡単に剣は通るわけがない。
私は目を開けてその男を見てみる。
「やめろ! もうやめろ! ドラゴンが気づいた! 殺されるぞ! 逃げろ!」
「仕掛けておいて何もできずノコノコと逃げれるかよ!」
と、勢いよく剣を突き刺した彼は鱗をやっと貫通し私の肉体に剣を突き刺した。
痛い。ちょっと痛い程度だが、ムカつくなぁ…。
「やりぃ!」
喜んでいる。バカか? 油断するなよ。
あっちは生かしてやる。忠告していたからな。やめろと何度も言っていたのにやめなかったコイツが悪い。
私は男に前足を振り下ろす。
「ぐぎゃっ」
可愛い悲鳴。だがすぐに男は手を伸ばした。
「た、助けてくれ!」
と、男に手を伸ばした。
男は悩んでいた。攻撃するかしないのか。仲間を見捨てるか助けるのか。
男は悩んだ末に話しかけてくる。
「そこにいる男は俺の友達なんです! 離してやってくれませんか!」
と声をかける。
いい奴じゃないか。コイツに免じて許してやろう。だが怖い目にはあってもらおうか。
私は前足で男を掴む。そして羽を広げ、空を飛んだ。
「ひいいいいい!?」
あはははは! 眠りを邪魔した罰だァ! これに懲りたらやるんじゃねえぞ! 空の旅だぜ! いつ振り落とすかわからねえけどな。
オレは満足に飛んだ後元の森に戻る。ぐったりとした男を仲間の男の近くに置いた。
あー、楽しかった。こういう制裁も悪くない。
「た、楽しそうにしてる?」
お、わかるのか?
「た、楽しかったのですか?」
頷いてやる。
どうやら顔で感情がわかるようだ。こいつの顔色でも伺いながら生きてたんだろう。とっとと解放されてしまえばいいのにな。
そういう意味を込めて私は顔でくいっと背中に乗れというと、いいんですか?といい背中に乗ってくる。背中に乗せることはあまりないからな。
オレは乗ったのを見計らって空を飛ぶ。
「うわああああ…」
男は嬉しそうに空の景色を眺めていた。
こういう人間なら大好きだぞ。