ドラゴン、令嬢たちと世話をする
街は活気付いている。
走り込みをしている人や祭りのために準備をしてる人、祭りをまわりたくてソワソワしてる人見える。
この国はいい国だ。
「あら、ヘヴンさんじゃありませんか」
「ヘヴン様〜!」
と、オレの横を通った馬車から顔を出したのはエミールと王女サマだった。
なぜ二人がこんな庶民の街に。貴族街からは少し遠いはずなのに。
「よう」
「ヘヴン様もよろしければどうです? 今から学校の竜舎に行くところなんです」
「竜舎?」
「はい。祭りで学校は休みなのですが竜の世話は誰かがしなくてはならないんです。エミールがそれを買って出たので私も手伝おうかなと」
なるほど。
でも訓練学校は貴族街の近くだ。ここじゃ少し遠いが…。
「今は頼んでおいた竜の鞍を仕入れたそうなので買いに来てたんですよ。腕のいい竜師もいますし我が国民を誇りに思いますね」
「貴族はアレですけどね」
「まあ、仕方ないではないですか。それでどうでしょうヘヴン様」
「いいよ。暇だし付き合う」
オレは馬車に乗り込んだ。
護衛もオレが少し怖いのか剣を向けずオレが乗ることを許可していた。
学校の竜舎につくと竜舎の担当先生が一匹一匹の竜の様子を見ていた。
オレは竜たちに挨拶をする。
「よう」
竜たちはオレにこうべを垂れた。それはまるで王が来たと言わんばかりに。
誰が王だ。オレは王に相応しくねーっての。竜の王はカイザードラゴンだ。
「あああ、いい匂いぃ〜…」
「エミール。まずは餌を与えましょうか。お腹すいてそうですからね」
「そうですねアンリ様。アンリ様はあげすぎに注意してくださいね。太りますから」
「わかってます」
二人は道具を持ってワラをそれぞれの餌カゴに置いて行く。
竜はそれをもしゃもしゃと食べ始めた。今でも不思議なんだがこいつらはこんな狭いところに閉じ込められて平気なのだろうか。
まあ、これはこいつらが決めたことだしオレはどうでもいいけどよ。
「今年は平和ですね。エミール」
「そうですねぇ。去年は勇者祭となるとやれパーティだなんだと煩かったですしね」
「今年は私は病み上がりということなので参加しないことにしておりますの」
「ずっるい! 私も参加したくないなぁ…」
どうやら二人はパーティが嫌らしい。
美味い料理が食えて何が不満なんだろうな。
「ヘヴン様は無縁そうですわね…」
「まあな。パーティはそんな嫌なのか? 美味い肉とか食えるだろう」
「それだけならいいんですけどねぇ」
「貴族同士の腹の探り合い、蹴落とし合いに媚び売りなど人間の負の面を集めたような場所ですわ。そんなところで食べたくはありません。料理は美味しく食べたいですから」
なるほど。人間関係か。
上のものに気に入られようと必死なのはドラゴンもたまにいる。
オレに気に入られようとオレに貢いできたドラゴンがいたがあまりにも相手しなかったのでヘルのほうに行ったやつがいたな。
「パーティに参加するのは毎年ですからねぇ。公爵家令嬢という立場に生まれたのが運の尽き…」
「私も王族に生まれたのが運の尽きですわね。
「二人とも大変なんだなあ」
オレはのほほんと暮らしてるだけだからな。
「今度ヘヴンも招待いたしますわ。お洒落をして参ってくださいね」
「い、いいやオレは。聞いてるとたしかに行きたくねーな」
「そんなこと言わずに」
そう話していると竜たちが彼女に首をすりすりする。
「あら、すいません。話し込んでしまって餌やりがまだ途中でしたわ」
「ほら、今からあげますね。いいドラゴンになるんですよ」
二人は世話を再開した。
オレも道具を持ち適当な分量を竜にやると竜は恐る恐る近づいてきて口をつける。目でチラチラ見てきている。
「なに、食っていいぞ。オレは草は食わねーしオレの目の前だからって失礼とか考えんなよ」
オレがそういうとムシャムシャ食べ始めた。
「なんていうかドラゴンの中の王の風格ですわね…」
「ドラゴンがここまで怯えるのは敵わないと本能で悟るような者。ヘヴンドラゴンはさすがと言いますか…」
二人はオレを少し讃えてくれていた。




