ドラゴン、祭りを知る
翌日。ギルマスは疲れ切った表情ながらも仕事をしていた。
ギルマスのもとに大量の冒険者が集まる。
「そろそろ今年の勇者祭で出すもん決めようぜ」
「あら、もうそんな時期?」
オレはギルマスの部屋で茶菓子を貪りながら聞いていた。
勇者祭とはなんだろう。祭り? 肉?
「冒険者ギルドとしては今年は魔牛の串焼きを提供しようと思ってるの」
「魔牛!? 随分と高いもんを…」
ダルマが驚いていた。
「ま、採算度外視よ。それに、今年は予算が沢山あるからね。赤字でも別にいいわ」
「そうか。今年はヘヴンドラゴンのおかげで近郊の魔物退治や大量発生もないからな」
「そう。魔物討伐費が大量に浮いたのよ。繰り越すのも嫌よね? 冒険者なら」
ギルマスがそういうとみんな頷く。
え、そうなの? と思っているとサリィがオレに耳打ちしてくる。
「冒険者は宵越しの銭は持ちたくないのよ。いつ死ぬかわからないから手に入ったらその分使っちゃうのが冒険者なの」
「なるほどな」
理解できた。
まあ、いつ死ぬかわからないならその分楽しんだ方がいいということだな。
「串焼きは男が焼くわ。ダルマ、お願いできる?」
「任せろ。肉を焼くのは得意だ」
「売り子はサリィと…ヘヴン。お願いできる?」
「え? オレも?」
「見た目いい子が売り子した方が売れるのよ。うちの冒険者にイケメンって言うイケメンがいないから…」
すると扉が開かれる。
「ギルドマスター。僕がいるじゃないか…」
「と、まあ、あのナルシストは除外で女性人気が出そうなのはヘヴンだけなのよ」
「オレも肉は食えるんだろうな?」
「報酬として用意しとくわ」
「わかった」
肉が出るなら問題ない。
「なあ、お前ヘヴンドラゴンだろ? 人間である俺が言うのもなんだが肉で釣られていいのか?」
「気にするな。肉は正義だ」
ていうかオレがヘヴンドラゴンだって結構広まってるんだな。
前に勝負を挑んできたダルマも知ってるとは。
「あんな強いドラゴンが肉で釣られるってのもなんか微妙ね…」
「ふふふ、オレの懐柔の仕方理解できたろ? 肉を用意すれば大抵喜ぶ」
肉はこの世の正義だからな。
「で、今聞くんだが勇者祭ってなんだ?」
「ああ、そうね。あんた知らないわね…。勇者祭ってのはその名の通り勇者の祭りよ。勇者が魔王を討伐した日…その日に行うのが例年のことね」
「で、ギルマス。今年は出るやついるのか冒険者で」
「今のところサリィ、ユーハイム、エーデルワイスが出場予定よ」
というとサリィに視線が向かう。
サリィは照れ臭そうに頭をかいていた。アレとはなんだろう。
「アレ?」
「あー、えっと、勇者を決めるレースだよ。毎年勇者をレースで決めるの。そのレースで勝った一人が今年の勇者になって国王と謁見して食事会をするっていうの。勇者になった人は国王からなんかとてつもないものもらえるらしいからみんな躍起になるんだよ」
サリィがそう説明した。
ふむ、あの国王とか。顔だけはほんわかしてるくせに首から下がムキムキっていう国王か。アレはどうなんだろ。オレは一緒に食べたいと思わないな。
「ふーん」
「今年は戦闘訓練学校からサクラ、そして騎士団団長の息子のペインドルト侯爵子息が参加するそうよ」
「げっ、あの底なし体力の?」
「サクラってあのサクラか」
あの例の光魔法少女…。アレ体力あるのか?
「それに、私はユウ、メアを走らせるつもりでいるわ」
「あいつらも走らせるの?」
「走るのには自信があるそうよ」
ほう、あんなヒョロっちいやつがか。
だがその程度のレース、オレ参加したら一強か? いや、参加しないけど。
「とりあえず屋台は決定ね。サリィ。冒険者ギルドの意地を見せてやりなさいよ。レースの時は売り子を抜けていいから」
「了解ギルドマスター!」
サリィは元気よく返事をした。
勇者祭、勇者祭ねぇ。




