ドラゴン、村の歓待を受ける
オレは民家で肉を焼いてもらっていた。
焼けてくる肉の匂いとかがすごい。オレがヘヴンドラゴンだっていうことをばらしたがもういいだろう。王都では知ってる人も多くなったしな。
「本当にこんな肉でいいんですか…? 人の肉とかは…」
「人間骨っぽそうだから食べたくねーんだよ」
それに人肉も食ったことあるっちゃあるがまずいんだよな。
「さ、焼けましたよ。魔牛ステーキ!」
「おっほぉ!」
オレはさっそく手で肉を掴む。そして一口で口に入れた。あふれ出る肉の汁、少し焦げた赤ワイン風味のソース。
人間って料理というものをするから偉いよなぁ。オレ、ドラゴンでしか生きてないときは生肉だったもんなー。踊り食いっていうかなんていうか。
料理というのはすばらしい。
「そういえばあのドラゴンはもう襲ってこないのですか?」
「番も殺したし襲ってはこないだろうけど…。他のドラゴンが住み着く可能性もある。オレは長くはここにいないからな。ま、オレの匂いさえばらまいておいたらしばらくは寄り付かねーだろうが…」
ファルファルの森しかり。ファルファルの森もオレがいるっていう匂いがするからか野生動物など近づいてこないのだ。
だから住むところと狩場は別々なんだけどね。
「オレの臭い付けると牛が外に出ていかなくなるかもしれねーからなにもできねーわな」
「そうですか…」
オレは二枚目の肉を口に運ぶ。
「なにもいいことだけじゃねーってことだ。オレも匂いで苦労してるしな。ドラゴンだと食べ物に困る」
滅茶苦茶逃げるのでミノタウロスとかを狩って…とかそんな安易にいかないのだ。
ミノタウロスだってオレをみたら一目散に逃げるのでなかなか体力を使う。意外といいことない。強いってことぐらいだ。
「ん、この牛の舌肉に乗ってるのは何だ?」
「ああ、ネギよ」
ギルマスがそう答える。
「舌肉をこう巻いて一緒に食べると美味しいですよ」
「ほう」
オレは言われた通りに食べてみる。
おお、うまい。
「ネギの甘さに…このしょっぱさは塩とレモンか。また違った旨味がある! 食べ方もこだわってるなー。野菜もすごくうめーし人間はこんな豪華なものを毎日作ってんのか…」
「いやいや、人間はただ手先が器用なだけですから」
「オレなんかドラゴンのとき肉を焼こうとしてブレス吐いたんだけど丸焦げにしちまったからな。料理できる時点ですごくいい」
人間を真似たんだよ。そしたら焦げて…。あの苦さは忘れない。外はかりっと丸焦げだったくせに中には火が通ってなくて。
その時の人間が言うには瞬間火力が高すぎたということ。肉を焼くには弱い火でじっくりと…。らしい。
「ヘヴン様! 村のお酒ですぅ!」
「悪い、オレ酒飲まねーんだ」
「あら、そうなの?」
「酒より肉が好きで酒は飲もうと思ったことがねーな。いや、昔ヘルのやつが飲んだときは少量だっただけで酔っ払って国が滅びそうになったからよ。あれと同じならオレも酒弱いかもしれねー」
そういうとみんな距離をとった。
「いや、ヘルの話な。オレは止めたよ。あいつもあれ以降酒は飲んでなさそうだしオレもそれが怖くて飲んでねー」
「それは危ないわ。酒はだめね」
「だが酒蒸しとかは大丈夫だぜ。それはオレも冒険者になってよく食べてる」
「そうなのね。火が入ってしまえば大丈夫ってこと?」
「そうかもしれねえな。ま、酒は飲まねーことにしてるんだ。酒で国が亡ぶなんてことあってほしくねーだろ」
オレはそういって肉を食べる。
「そういやヘルって言ってるけど誰の事なんですか?」
と、奴隷少女が訊ねた。
「あれだべ。ヘルヘイムドラゴンのことだべ」
「あんなまがいもんじゃなくてヘルドラゴンな。たぶんオレの弟ドラゴン」
「ヘルヘイムはヘルドラゴンに似てるからつけられた名前だっぺ。本物が許すわけねーだろ」
本人何とも思ってなさそうだったけどな。
「ま、偽物とかオレらそんなん気にしてねーからいいよ。ああ、肉なくなったからおかわり」
肉がなくなったのでオレは次の肉を要求した。




