ドラゴン、破壊する
オレが帰りの馬車に乗り込もうとするとふと横を見ると首輪がついた人間が目に見えた。
「なあ、あの女首に首輪つけてるけどああいう服装なのか?」
「奴隷かしら…。この国じゃ奴隷は犯罪者であっても認めてないはずだけど」
「ふぅん」
「怪しいわね」
ギルマスはそう言って馬車に乗り込もうした途端、その首輪をつけた女と目があった。
その女はふらふらとした足取りでこちらに近づいてくる。ギルマスもそれに気づいて馬車に乗せていた足を退ける。
「た、助けて…」
と、少女は言ってその場で倒れたのだった。
オレとギルマスは目を合わせる。オレは仕方ないので女の子を抱え、近くにある宿屋に向かうことにした。
オレは宿屋で椅子に座っていると女の子が身を起き上がらせる。
「こ、ここは…?」
「宿屋よ。あなたは私たちの目の前で倒れたから仕方なく連れてきたのよ」
そういうと女の子のお腹から音がなった。
「お腹空いてるのね。ほら、とりあえずパンあげるわ」
そういうと少女はパンを引ったくって貪っていた。急いで食べ、胸をとんとんと叩く。ギルマスはミルクを渡すとぐびーっと飲み干した。
「そんな急いで食べなくてもいいわよ。それで、なにがあったの?」
「あ…」
「話したくないことでも話してもらうからね。乗り掛かった船だししょうがないから助けてあげるわ」
「あ、ありがとうございます…」
少女は頭を下げた。
「その…私は奴隷として売られたんです。シュプレヒター伯爵様が私を買って…毎日叩かれて…もうこの生活は嫌なんです! 私はなにもしてないのにっ…」
と泣き出した。
「そう。奴隷を売ってるところはわかる?」
「はい…。ですが…相手は貴族様ですから、あなたたちは…」
「貴族とかどうでもいいわよ。こちとら千年くらいこの国に貢献してるわ。そこらの貴族より発言権とか権力は私にはあるの」
とギルマスは言った。
「ヘヴン。まず奴隷の店を物理的に破壊するわよ」
「捕まらないか?」
「何のためにあなたがいるのよ」
と、ギルマスがいいたいのはオレがドラゴンに戻れということだ。
場所を把握してそこだけを潰せ、というのは難しいぞ。周りに被害を出さないという事はまず不可能だ。
「とりあえず案内してもらえる?」
「は、はい!」
そう言って少女はオレらを奴隷の店に案内するのだった。
だが案内されたのはデカい建物。看板にはアルフェリート商会という名前がデカデカと掲げられている。
「アルフェリート商会! まさかこんな大規模な商会が!?」
「有名なのか?」
「建国当初からある由緒正しい大商会よ。年数で言えば私より生きてるわ…」
「この商会の地下で奴隷オークションは行われているんです。今もどこかの誰かが拐われてます。奴隷は拐ってきた人間なんです。身体のどこかに紋章を入れられて…」
「なるほど。でもこんな商会が…」
ふぅん。
オレはここを潰せばいいということだな。
「じゃ、待ってなよ。オレが全てぶっ壊してやる」
「ですが…」
「オレに貴族なんてのは関係ねぇ。ギルマス、郊外の道はここでいいのか?」
オレはそう問いかけるとギルマスは悩んでいた。
「なにを悩んでる?」
「ここを潰すとなると…なんだか気がひけるわ。ここは大手。どこの貴族も一度は関わったことがあるくらい根付いている。王も気に入って使ってるの。壊したら…」
「知るかよそんなこと。奴隷はこの国で違法なんだろ? 許せるのか? 大商会だから、王族が贔屓してるからって許しちゃダメだろ」
オレがそういうとギルマスは深く頷いた。
「ぶっ壊して欲しいんなら壊してやる。どうして欲しい?」
「ぶっ壊してくれるのなら…。お願いします」
「わかったわ。私はなにも見ていない。ドラゴンが何を狙うかは私も知らない」
そう言ってギルマスは目を背けた。
オレは急いで郊外に向かうのだった。
郊外の平原に出てオレはドラゴンに戻る。翼をはためかせ、上空から町を見下ろした。
オレは大商会の上に着地する。
オレの体重を支え切れないのかひび割れていくのだった。
中から人が出てくる。人は上を見上げてきた。
「ヘヴンドラゴン…!?」
「に、逃げろ!」
オレは思い切り足を振り下ろす。建物の一部が崩れていった。
「きゃああああああ!」
「中にシュプレヒター伯爵様の息子がいる! 救助をっ…!」
オレは思い切り飛び上がり、勢いよく降下する。建物はオレにぶつかり、ガラガラと瓦礫が落ちていく。
オレはトドメのブレスを建物に向かって放った。
光のブレスは瓦礫を取り込み地下に届く。出来た穴を覗き込むと枷に繋がれている人間がいるように見えた。
いや、人間だけじゃない。獣人もいる? 珍しい。獣人は人前に姿をあまり現さないのに。
まあいいさ。破壊完了。
オレは翼を広げて飛んでいくのだった。




