ドラゴン、苦手を発見する
オレは図書館で本を読んでいた。
「ドラゴンも本読むんだ」
と、横に座ったのは冒険者アリィの姉、サリィ。サリィは胸を強調した防具を着ている。
手には魔物図鑑を持っていた。
「で、何の本?」
「ん? 恋愛小説だ。敵対する二つの国で運命の相手を見つけた主人公とその姫のな」
「へー、そんなの読むんだ」
「オレは恋だなんだのとは無縁だからな。こういうのは好きだぞ」
初めて読んだけどな。
人が恋に落ちる。ドラゴンだったらメスは自分より強いやつに求婚して卵を作るんだが…。
だがしかし人間は一目惚れというものをしてかららしい。
「ケッコンって素晴らしいものなんだな。サリィもオレとするか?」
「ぶふっ…。いや、しないよ…。ケッコンっていうのはその、お互い好き同士じゃなくちゃ」
「ふぅん。難しいんだな」
ケッコンってのはお互い好きじゃなきゃダメなのか。
「で、サリィは魔物図鑑をどうするんだ?」
「いや、倒しに行くモンスターの下調べをね。弱点とかそれを念入りに調べないと」
「ふぅん。細かいんだな」
「相手を舐めてたら死ぬからね。それに、毒を使ってくる魔物で解毒薬がない!ってならないように毒持ちとかもきちんと考えてから装備整えていくんだよ。死なない確率を少しでも上げるためにさ」
「堅実なこって…」
オレは大雑把だからそういう下調べとかしたくねーんだよな。
毒使ってくるんだ、ふーんっていうような感じで行くのがオレだ。
「ま、それだけだよ」
「そうか。サリィ、オススメの本教えてくれ」
「んー、ジャンルは?」
「じゃんる?」
「ホラー、冒険もの、推理とかあるけど」
「ホラーだな。アンデッドの話を聞きたい」
「ホラー=アンデッドってわけじゃないけどね…。いや、大体そうなんだけど」
サリィはどこかに行って本を持ってきた。数冊オレの前に詰む。
オレは一番上の本を手に取った。
「スラム街の悪魔?」
「読んでみたらわかるよ」
と言われたので本を開いた。
オレは心臓がバクバクだった。
「こわっ! 人間こわっ!」
「殺人鬼ものはどう? 怖いでしょ。人間はこういう表現ができるからね」
なんというか、怖い。
恐怖心などを持たないオレだが今日の夜無事に眠れるだろうか?
後ろに血が垂れたオノを持ってるような奴は出てこないだろうか…。
「殺人鬼怖い…。なんていうか、こういう奴いるんだな」
「現実の話じゃないよ。現実の話がモチーフになったのだとこれかな? 『スィートホーム』ってやつ。これは今でもこの国のどこかに実在しているホラーハウス、スィートホームで住んだ時のことを書いてるらしく…」
「よし、探し出して燃やすぞ」
オレの聖属性ブレスならアンデッドもイチコロだ!
幽霊は大人しく成仏しやがれってんだ。オレは幽霊が苦手なのかもしれないからな。幽霊いなくなるに越したことはない。
「まあまあ。でもまあ、あとはそうだなあ、幽霊のもの、ゾンビパニック…。闇の王、ドラゴンゾンビとかたくさんあるよ」
「ドラゴンゾンビ…。オレも死んだらなるのかな」
「あはは。想像したくないね」
たまに死んだドラゴンが動き出す。それを総じてドラゴンゾンビといい、そのゾンビはどこかに向かうのだ。
人間たちは向かってる先は竜の楽園とかいうがそんなのはあるっちゃあるがそこにはいない。
「あと本の話じゃないけど、この国にもいくつか幽霊が出る場所があってこの図書館の奥にある地学の棚に出るんだよ。夜な夜などこだっていう声が聞こえるとか」
「やめろ。オレがここに来れなくなるだろ」
ここにいると聞くと逃げ出したい。アンデッドは魔法などで一発だが怖いものは怖い。
まさかこのオレ幽霊が苦手なんて…。
すると、奥の方から何かが落ちる音が聞こえた。
「あっちは地学のとこだね。本が落ちてる。誰もいないみたいだけど…」
「やめろ。幽霊が…」
「大丈夫だよ」
サリィは本を拾い上げて棚に戻す。
何も起きないようだ。
「幽霊はいるけどこんなとこにいるとすぐに教会の人に浄化させられるって。安心していいよ」
「怖いもんは怖いんだよ」
オレは本を棚に戻し今日は帰ることにした。




