ドラゴン、暴走を止める
学校はデカかった。
オレはギルマスと一緒に歩いている。ギルマスが校舎内を説明してくれている。
どうやらこの学校で竜騎士の訓練もするそうで竜騎士目指すには竜騎士科というところに行かなくてはならないとか。
「オレ竜騎士科見てみたいんだけど」
「そうね。時間もあるし見に行きましょうか」
そういってオレらは竜騎士の訓練所に行くことにした。
竜舎と呼ばれる竜を飼育してるところにいくと貴族の身なりをした人たちが竜の世話をしていた。
「ったく、なんで俺が…」
「こういうのは専門のやつにやらせりゃいいだろ」
と、ぼやいている身なりのいい奴ら。ギルマスはそれを見て呟いた。
「こんなんが竜騎士になるのは将来ダメになる一方ね」
同意。
だがしかし、意欲的な生徒もいる。
「よーしよしよし。ほらほら、掃除させてくれないとお姉ちゃんずーーっと撫で回してあげますからねぇ」
「お、食いつきがいいな。だが流石にこれ以上食べさせたら太るか…」
王子とエミールだった。エミールは過剰なくらい撫で回しているし王子はきちんと竜を理解しようとしている。
ギルマスは近くにいた男性へ話しかけにいった。
「アイギール。大丈夫なの? こんなものばかり」
「入った当初はやる気があったんですよ。でも竜の飼育とかは嫌らしくて」
「ワガママねえ。あ、そうだ。今日手伝いとして連れてきたヘヴン。私に用事があったらこっちに伝えてもいいから」
「わかった。他の先生にも伝えておけばいいんだろう?」
「わかってるぅ。頼むわね」
「かしこまった」
どうやら先生らしい。
オレは興味本位で竜に近寄った。鱗はキチンとしている。
年老いてる竜だらけだからこそ手懐けているのだろうな。年老いてないと暴れたとき手がつけられないもんな。
「それにしても臭いがすごいな。ちゃんと掃除とかしてんのか?」
「ここ最近できてねえな。竜を外に出したいんだがなぜか出ていかなくてよぉ。何かを守ってるって感じがすんだよ」
と、ボヤいていた男子生徒がそう言った。
何かを守る、か。卵だろうな。それらしきものは…。
「とりあえず先生、門開けるぜ」
「あ、ああ。今日は外で遊んでいて欲しいが出るか?」
「ならオレが追い出し…」
そういうとギルマスにぽかりと頭を叩かれた。
「あんたが脅したら戻ってこなくなるでしょ」
「えぇー…」
「ドラゴンにしてもあんたは脅威なのよ?」
と、小声でお説教いただいたのでやめることにした。
「俺こういうの作ってみたぜ。ヘヴンドラゴンの看板!」
と、木の板に描かれた雑なオレの絵。
それをみた一同は。
「「「似てなっ…」」」
と、オレと同じような感想を抱いていた。
ああ、オレはもうちょいプリティーでみんなから愛されるような顔してるんだよ。こんなのはオレじゃねえ。
「うるせえ! 竜なんか細かくみねーだろ! シルエットで似てると思えばいいんだよ!」
いや、細かくみてます。オレは。
「おらぁ! これみろ竜ども!」
男はその木の板を掲げる。竜は知らんぷりして世話してくれてる生徒に掃除してくれと頼んでいた。
掲げている少年はぷるぷる震えている。
「うわーーーーん! 貴族の俺にこんな屈辱をおおおお! 許さんからなああああ!」
と、木の板を放り投げた瞬間、何かが割れた音が聞こえた。
先生が慌てて中に入って確認しにいっている。
「まずい! お前ら逃げろ!」
すると、竜たちは怒りに任せて咆哮をあげる。
卵が割れたんだろうな。可哀想だが…。まあ、悪気はなかったんだろうよ。
すると、竜たちは暴れ出す。竜舎の柵などが壊れてくるのだった。
「外に逃げろ!中だと校舎に被害が及ぶ!」
「きゃあああああ!」
壮絶だった。
オレの横を通り過ぎていく生徒たち。オレはぽつんと取り残されていた。
「君も逃げるんだ! 年老いても竜は竜! 人間などたやすく殺される!」
「なあギルマス。一匹くらいは殺してもいいよな」
「え? ま、まあやむなしって感じだけど…」
「わかった」
オレは右腕をドラゴン形態に戻す。
オレは突撃してきたドラゴンの一人を食い止めた。ドラゴンはオレを見る。
「おい」
すると、ドラゴンの動きが止まる。
オレの威嚇は怖いらしい。頭に血が上っていても本能で感じ取っているんだろうな。
ドラゴンは賢いからな。オレの正体なんかすぐわかるだろう。
「オレからも謝るよ。お前らの卵を割ったのはごめん。少なくとも当たるのは予知していなかった。それはいいよな?」
ドラゴンは無言のまま立ち止まる。
「このままオレとバトルするか大人しく戻るか選べ」
そう言うとドラゴンたちは素直に戻っていった。大人しくなったようで少しばかり恐怖で震えている。
オレは右腕を元に戻し、ギルマスの方を向いた。
「ほい、鎮静完了」
「流石ね」
「まぁな。オレの威嚇ともなればドラゴンなんてすぐビビる」
これでもオレはドラゴン界でめちゃくちゃ強い部類なんだぜ?
「と、止められた…?」
「何者だアイツ…」
「さすがヘヴン様…!」
「さすがに勝てないか」
生徒たちは驚いているようだ。
王子とエミールがオレに近づいてくる。
「見事な威圧でしたわ!」
「ドラゴンの中でも頂点と噂されるあなたの片鱗を思い知りました」
「ま、この程度の相手は普通よ。とりあえず竜はびくついてるからしばらく大人しく言うこと聞くだろ。ヘヴンドラゴンに言っちゃうぞとか言えば効果あるだろうな」
「人間のために何から何まで…」
「人間のために行動してるわけでもねーけどな」
オレは別に誰のために動こうがいいんだよ。人間は厄介だから敵に回したくないだけで。
比較的オレは協力的な態度をしているが…。時が来たら攻撃…はしないけど別の国にはいくかもな。
「ヘヴン、そろそろ時間よ。いきましょう」
「わかった。それじゃ、またな」
オレはギルマスと共に目当ての教室に移動したのだった。
ていうかこんな見た目も違うのにアイツらよくオレだと気付いたな。
卵を割った本人はものすごく叱られたようです。




