ドラゴン、感動のシーンに立ち会う
王女の様子は酷いものだった。
うなされている。脂汗もかいており息も絶え絶え。
「早く血を飲ませろ。危ねえな、この具合だと持って一時間くらいだったな」
もう末期も末期。
死にかけだった。オレの血を早く飲ませねえと死ぬぞ。
こんな状態ならエリクサーが効かねえのも無理はねえな。
「わ、わかった…」
王は瓶に詰めたオレの血をゆっくり王女の口に入れた。
王女はけほっと咳き込む。
「だ、大丈夫か!?」
「まずい!」
オレは思い出した。
オレは昔血を分け与えたことがあった。同じ症状のやつに。
オレの血を飲ませた途端咳き込み、口から…。
「おい! 今すぐこの部屋から出ろ!」
「え…」
「いいから! オレが見て置いてやる! 死にたくねえなら出ろつってんだ!」
オレは部屋から人を追い出しオレ一人になる。
その瞬間、王女サマの口からどす黒い煙が出てきた。その煙は部屋を包み込む。
危ねえ。感染するんだよこの瘴気。吸い込むのは危ないことだ。
「さて、これをどうするもんかね」
オレはとりあえず窓を開けた。瘴気が外に逃げていく。オレは窓から飛び出しドラゴンに戻り、翼で風を送り上空に瘴気を送り出した。
「これでいいだろ」
オレはとりあえず人化し、落下する。
王城の庭に落ちた。オレは急いで駆け上がり部屋の前に行くと王とギルマスたちが待機していた。
「ヘヴン」
「もう入っていいぜ。瘴気は残ってねーだろ」
「部屋から追い出したのは瘴気が原因か…」
「そう。オレの血は治すのもあるし不純物とかを追い出すんだ。毒は消し去るが瘴気とかは吐き出すんだよ。それは人間にも感染する」
オレがそういうと王たちは少し恐怖心を持ったようだ。
オレはシンドロードラゴンを追いたいがどこにいるかわからねー。無闇に追うのもなあ。
「ま、王女サマ元気になったぜ。寝たきりだっただろうからしばらく歩けねーけどしばらく誰かに付き添わせて歩かせたらいいぜ」
「恩に着る。本当に…ありがとう」
「ま、オレもこの国に居座ってるからな。協力ぐらいはしてやるさ。ただ、お前らの国事情とかはオレは知らねー。戦争とか起こしても手伝うつもりはねー。それだけわかってればいい」
オレはただ騒がれたくないだけ。何事もない竜生のほうがいいさ。
オレは王女の部屋の扉を開ける。王女は体を起こし開けっぱなしの窓を眺めていた。
「アンリ!」
王は王女の名前を呼ぶ。アンリと呼ばれた王女はこちらを振り向いた。
「お父様?」
「よかった…。生きてて…」
「お父様ぁ…!」
感動のシーンってやつか。
オレは王女の顔を覚えた。可愛い顔つきしているな。オレがオスで人間なら惚れてただろう。
「王女サマ。体調は?」
「お父様? この方は?」
「あー、知り合いだ」
「ヘヴンだ。よろしくな」
「ええ。よろしくお願いいたしますね」
ぺこりと可愛くお辞儀。
「それにしても私、生き返るとは思っておりませんでした。最近の記憶がないんです」
「ああ。実際死にかけだったからな。運がいいな、オマエ」
「みたいですね。神様が私に生きろと告げてるみたいです」
神様ねぇ。
「よいしょ…」
「あ、アンリ! まだ寝てなさい」
「トイレに行くだけです」
「あああ、マーズ! ついていけ!」
「かしこまりました」
とギルマスが返事する。ギルマスはマーズという名前なのか。
王女はアンリ、ギルマスはマーズ。覚えた。
王女とギルマスが部屋から出ていく。
出て行って数分後、戻ってきた…かと思いきや二人の男が扉を開いていた。
「父上、アンリは治ったのですか!?」
「あぁ…。治ったよ。よかった…」
「や…」
「「やったあああああああ!!」」
王子だろう二人は手を挙げて喜んでいた。
「私母上に伝えて参ります! 母上も泣いて喜ぶことでしょう…」
「あなた!」
と、その時また女性が部屋に入ってくる。
「アンリが歩いてましたわ…。治ったのですか…?」
「ああ。治ったよ。ヘヴンドラゴンが来てくれたからだ」
「ヘヴンドラゴン…?」
「ヘヴンドラゴンの血が娘を治したのだ。あのドラゴンには頭が上がらん」
そりゃそうだろ。
オレが普通のドラゴンの考えだったらオレに勝ったならいいぞとか言うもんだがオレは肉をくれるだけであげたんだ。優しいだろ。
「ヘヴンドラゴンは人間に協力的なのですか?」
「そういうわけでもねえよ。必死だったから助けたまでだ」
「なぜあなたが…。というかあなたは誰ですか?」
「もうほとんどバレちまってるからバラすけどオレがヘヴンドラゴンだぜ」
「…嘘は」
「嘘ではないぞ。私はきちんとこの目で見ているからな。ヘヴンドラゴンだ」
そういうと王妃と王子が驚きながらもオレに頭を下げる。
「そうか。あなたが…。ありがとうございます。大切な妹を…」
「娘を助けていただきありがとうございます…!」
「ですがひとつだけ…。なぜあなたは妹を助けたのですか? あなたは別に血を提供する必要はないはずです。私共の味方でもないあなたが…」
「うーん、どうしてって言われるとな。オレも特になにも考えてねーよ。必要だったんだろ? オレも肉貰ったしな」
別に助けようが助けまいがどうでもいいのだ。人間が死ぬ悲しみはオレには理解できねーし、するつもりもねぇ。
オレはどっちでもいいんだよ。敵も味方も。
「それに、この国から追い出すこともしねえしな。警戒されて監視されていたときはウザかったがそれは当然だしな」
「はは…」
「ま、オレはいつでもファルファルの森と冒険者ギルドのどっちかにいるから遊びに来てもいいぞ。つまんないだろうけどよ。あと最近ガキも背中に乗せて飛んでるから背中に乗せてやってもいい」
オレの信頼を得るための行為だ。
子どもは単純で信じてくれる。純真無垢というのは可愛いもんだ。
オレにゃ番はいねーし卵うめねえからな。子供がいるという気持ちは知らなかった。
「んじゃ、オレは帰って寝る」
「あ、ありがとう。この恩は…」
「返したいなら肉持ってこい。焼いてな」
オレは王城から出て歩いてファルファルの森に向かった。
熱が出てしまったんで明日更新はあるか不明です




