ドラゴン、また血をあげる
オレは特にやることもないので冒険者ギルドの厨房を借りてギルマスからもらった肉を焼いていた。
肉は焼くのに限る。肉が焼ける匂い。ちょっとだけ香辛料をかけてスパイシーな香りもある。
「焼けたー! 食べるぜえ!」
オレは焼けた肉をテーブルに持ってきて口を開けると肩を掴まれる。
「あ? なんだよ。オレ今肉焼いて食おうとしてんだけど」
「ヘヴン。ちょっといいかしら」
「ダメ。肉が冷める」
「お願いします。本当に大切なんです…。ミノタウロスはまた私がとってきますから」
「……くぅ、肉ぅ」
切羽詰まってるようだ。
肉が…。オレが焼いたせっかくの肉がっ…。なんだよこんな時にっ…。
オレは肉を食べてーの!
「これを食ってから!」
「事態は一刻を争うんです」
「うううううう」
オレはよだれを垂らしつつ、肉を隣にいた冒険者にあげることにした。
オレの肉がっ…。肉がああああ!
オレは途中で人化を解き向かうとなにやら馬車が停まっていた。馬にしては結構デカイ。それと魔力を感じる。
魔馬か。
「オレの食事タイムを邪魔するぐらい大事なことじゃないとぶっとばすかんな!」
「…………」
「な、なんとか言ってみろやぁ! オレは肉を楽しみにしてたんだぞ…。オレ泣くぞ」
ギルマスの顔は浮かない。
オレがいつも寝てる場所にいくとそこには王冠を被った人と数人の騎士がいた。
王冠ということは王?
「王、ヘヴンドラゴンが参りました」
「ヘヴンドラゴン…」
オレを目の前にすると突然傅いてくる。
「ヘヴンドラゴン! どうかあなたの血をください!」
「…ああ、王女ね。王女の病気治すんだろ?」
「なぜご存知で…?」
「んー、風の噂。それでオレの血を…ね」
「お願いいたします。どうか…」
「んー、条件つけるけどそれならいいぜ」
オレは食事を邪魔されたからな。
「条件は肉をたくさん寄越せ。それでいい。オレは肉が食べたい。焼いてると尚更ベスト」
「かしこまった。直ちに用意する」
やけ食いしてやる。ミノタウロス食べたかったのに。
王は騎士に命令を出し、肉屋から肉を買い占め焼けと命令を出した。
ギルマスはなんだか物言いたげにオレを見るがタダであげるわけねーだろ。オレが痛い思いするんだ。
そして数時間後、オレの目の前に肉が山積みになっていた。
「よし、じゃ、血な」
オレは前脚を振り上げる。
そして、オレの片方の前脚に振り下ろし爪を突き刺す。
「おい、早く取れ。痛いから早く治してーんだよ」
「わ、わかった」
王は瓶を手にし血を採取していた。
オレは傷を治す。
「じゃ、いただきまーす!」
オレは山積みになった肉をバクバク食べ、ものの数分で完食してしまう。
げぷっと、息を吐く。
「王女様オレもみたい」
「つ、ついてきてもいいですがあなたのその姿では…」
「ん、じゃ、人になってやる」
オレは人化した。
人化したことが意外なのかこちらを凝視してくる。オレは少し痛む手をおさえる。
「なんだよ」
「ひ、人になれる…のか?」
「まあ、そういう術はドラゴンに伝わるからな。つってもほとんどプライド高えから人になるやつなんて少ねえけどな」
アイツらドラゴンこそ最強の種族だと思い込んでるからな。
思い込むのは勝手だが油断しすぎなのだ。
「それにこの姿で冒険者してるぜ。ギルマスはオレを知ってる」
「なっ…」
「ちなみにマクロスとその娘もオレを知ってる」
王は絶句、騎士たちも唖然としていた。
「ああ、そう。ヘヴン、黒いドラゴンで呪いを使うドラゴンっている?」
「ん? あー、呪いを使うのはいねーぞ」
「えっ…」
「呪いは人しか使えん。ただ呪われるようなことをした覚えはねーだろ?」
「あ、ああ。恨みは買いやすいが国民のためを思ってやってきた。それは娘も同じだ」
「で、黒いドラゴンを見たってことか?」
「ええ。そうらしいわ」
ふむ、呪い、じゃないけどそれに似た類の瘴気を纏うドラゴンならいるな。
それはたしか吸い込むと衰弱し、一ヶ月後くらいにはどんな生物も死ぬというドラゴンだ。オレは耐性を持ってるので効かないが…。
「多分そのドラゴンは原因だが、多分瘴気を大量に吸い込んだんだろうな。名前は…そうだなあ、シンドロードラゴンだったか」
「そいつが…」
「吸い込んだ時にエリクサーを飲めば回復するけどもう時間が経ったらエリクサーは効かねえ。だからアイツが厄介なんだよ。アレはオレとは違ったベクトルで人間にやべえドラゴンだな」
アレはひどい。
ある国ではあのドラゴンが居座ったせいで流行り病みたいに人が瘴気で倒れ国が滅んだという事例がある。
「アレは早く対処しねえとな」
「私ら聞いたこともないし図鑑に載ってないわ…」
「んー、まあ、人前に出るけど近くに寄れねえしな。見ても形だけだろうよ」
アレが撒き散らす瘴気はヤバいんだよな。
「アレ、オレが倒してやろうか? 放って置いたら国が滅ぶぞ。そういう事例もある」
「…頼む」
「オッケー。オレには瘴気効かねーしちゃちゃっと片付けてやるよ。素材は持ち帰らねえから燃やしておくがな」
「…恩に着る」
「ま、まずは王女様だ。オレの血が特効薬になるだろうし多分大丈夫なはずだぜ」
オレらは馬車に乗り込む。
馬車は王城まで急いで向かうのだった。




