ドラゴン、ダンジョンに行く
雨だ。
オレは人化して冒険者ギルドに逃げていた。オレは雨は嫌いなのだ。ジメジメするし。
ギルマスの部屋のソファでぐでーっと寝転がっている。
「うへぇ、雨だぁ」
「雨は嫌なのかしら」
「ジメジメが嫌なんだよぉ。オレの鱗カビるからよォ」
知らないところでカビが生えるのだ。
鱗の下にもたまに生えるので洗うのが大変。海にまでいって必死にゴシゴシするしかない。
だからじめっぽいのは嫌いなんだ。
「じゃあ雨の森っていうダンジョンはダメね。一緒に行こうと思ったのだけれど…」
「ああ、あそこか。一年中雨が降ってるアソコ…。アソコにはたしか知ってるドラゴンがいるな」
「いるの?」
「レインドラゴンつってな。レインドラゴンがいるとこは常に雨が降るんだよ。気の優しいやつだぜ」
雨の森の雨はレインドラゴンがいるからだろう。レインドラゴンは一度巣にしたところは動かないからな。あのドラゴンは雨雲を呼び寄せる。雨が常に降るのはレインドラゴンがそこにいるからだ。
「いいドラゴンなの?」
「臆病で人間にもビビるくらいにはいい奴だな」
「へぇ…」
あいつは強いくせにびびるんだよ。ドラゴンなんだけどビビリだ。
アイツ、水魔法をも使うし結構攻撃力も高いからなー。怒りにくいけど怒ったら厄介なんだよな。
「その雨の森に何か用でも?」
「雨の水晶っていうもんがあるのよ。雨の森の奥深くの泉に…。それを取りに行こうとね」
「ふぅん」
「雨の森は結構魔物も強くて私ぐらいじゃないとここの冒険者はいけないのよね。行けてもダルマとか数少ないSランクだけだけど…」
「なるほど。オレに同行してほしいと」
「そういうこと。でも雨は嫌なんでしょ?」
たしかに嫌だ。
「でもま、懐かしいレインドラゴンに会いに行ってやるよ。アイツの巣は把握してるしお土産でも持ってってやるかね」
「助かるわ」
オレは背中にギルマスを乗せ雨の森に向かっている。
雨の森の入り口についた。上からじゃ木々で道が隠れているからダンジョンを歩くしかない。オレのこの図体でも入れるくらいにはデカイが…。
「あなた人化しないの?」
「いや、もしかしたらって可能性あるし。それに、こっちの方が魔物はビビって出てこねえ」
「そうね」
オレは生物界のトップクラスのドラゴンだ。命を捨てるようなことはしない。
現にオレの近くに呼吸の気配はあっても襲ってくるという気配はない。
「しかし、雨っつーのは気が滅入るな。オレ昔からこれだけ嫌なんだよ」
「そうなの? レインドラゴンの目撃例が少ないから私はあまり知らないのよ」
「そりゃビビリで食事時とある習性以外は外でねえしな」
基本巣の中に引き籠もっている。オレは巣の場所がわかるしいけるが…。
「とある習性?」
「ま、多分レインドラゴンに今日会えるから聞いたらわかるさ」
オレらは前に進んでいく。
そう言えばなんだが、今思い出した。泉の前にたしか…。
オレが思い出しそうになりながら歩いていると突然横から攻撃を受ける。
完全に不意を疲れ、オレは攻撃を喰らった。
「ウキャキャキャ!」
「やっぱまだ居座っていたかコイツ」
「な、なによコイツ。見たことない魔物…」
「ゲシェムモンキッキ。自称レインドラゴンの子分で泉を守る使者だ。こいつは格上にも勇敢に向かってくる」
だからこそオレにも立ち向かうんだがな。
ゲシェムモンキッキはレインドラゴン以外の言う事を聞かない。レインドラゴンを親分としてみているからだ。
「以前来たときにも戦ったがあの時殺しておくべきだったな。雑魚のくせにうぜえんだこいつ」
「ざ、雑魚?」
「こいつはモンスターランクで言うとせいぜいCくらいだ。ギルマスでも余裕だろう。こいつがこの森に住めるのは背後にレインドラゴンがいるっていう恐怖だ」
だから襲われない。自称してるだけだが信じるんだよこの森の魔物は。
レインドラゴンはこの森一番のツワモノだから。A〜Sランクの魔物が蔓延ってる場所だからな。それを踏まえれば一番のツワモノといえば実力はわかるだろう。
ちなみにオレみたいな厄災級はランクというわけではなくSランクより遥か上らしい。
天変地異みたいな存在ということだ。ヘルヘイムも厄災級。あの炎はこのオレでもダメージを喰らう。
「うききっ!」
「退きなさい」
「うきゃー!」
ギルマスは炎の魔法を当て、ゲシェムが燃える。泉に飛び込もうとしたゲシェム。
それを逃すまいと風の魔法で高く打ち上げ、そして光の魔法を放ち消し去った。実力はあるんだなー。さすがに遅れはとらんか。
「ま、探してる泉はあれだな。水晶はあるかね」
オレの予想だと時期じゃないからない。
ギルマスは泉に近づく。が、ギルマスは膝から崩れ落ちていた。
「水晶がない…。アレが必要なのに…」
「何に使うんだ?」
「雨の水晶はエリクサーに必要な材料なのよ。王女がエリクサーを飲まなきゃいけない病気にかかって雨の水晶が必要だったのだけど…」
「ふぅん。オレの血じゃダメだったの?」
「……あ」
オレの血は万能薬と言ってただろうに。
「それに水晶が欲しいなら出せるぞ」
「本当?」
「ま、出すのはオレじゃねえし戦闘は避けられねーがな」
雨の水晶の正体を知っている。
「雨の水晶ってのはなんだと思う?」
「雨が固まって…とかじゃないの?」
「違う違う。レインドラゴンの涙だよ。アイツの涙が水晶なんだ」
「そうなのね」
「で、何故ないのかというと涙放出期じゃないからだ。そうだなあ、周期的にあと3ヶ月後くらいだろうな」
一年に一度この泉で泣くのだ。
だから泉に水晶があるとされる。
「ま、まだまだ先じゃない! じゃあ…」
「だから戦闘は避けられねーんだよ」
「え?」
「人間ってどうやったら泣く?」
「そりゃ嫌なこととかあったら泣くし悲しいときとか…。あと、痛いとき、とか?」
「そう。痛めつける。痛めつけて泣かせる。これが手っ取り早い。だからオレこの姿だしな」
無理やり泣かせてやればいい。
あいつは泣くだけで水晶を落とす。痛めつけて泣かせてやるのが手っ取り早い。
「なるほど!」
「よし、じゃ、いっちょボコるか」
久しぶりに会いに行ってそれが泣かせるってちょっとどうかとは思うけどな。




