ドラゴン、遊びに行く
昨日のこともあり、王国内にはちょっとばかし緊張があった。
張り詰めた空気が王国内にある。いつ襲われるか、いつ襲ってくるか不安なんだろうな。ま、まだ信頼されてないってことか。
まあいいんだけどな。
「当たり前のように我が家に来るのはなんでですかぁ! 裏切ったくせに!」
「いいじゃねえか。広いしお菓子も美味しいし」
と、オレは貴族街にあるハイドリヒ公爵邸にお邪魔していた。
身分差とかそんなのはオレドラゴンだから関係ないし、以前食べたここのお菓子が美味しかったんだよ。いい料理人がいると思ったね。
メイドさんたちは突然現れて突然お邪魔したオレをよくおもってないのかちょっと睨んでいるが。
「あれからめちゃくちゃ叱られたんですよ!? 私のコレクションも没収されましたし! ヘヴンさんのせいですからね!」
「オレのとこにきたエミールが悪いだろ」
オレがケラケラ笑っていると若い男性がオレの耳元に近づいてきた。
「お菓子はパイかクッキーどちらにいたしましょう」
「それ耳元でささやかなくてはダメなのか? うーむ、パイだな」
「かしこまりました」
と、男性が去っていく。
「あいつは?」
「うちの侍従のハミットですわ。結構いい働きをするのよ。多少過保護な面あるしちょっと声小さいから耳元でいわないと聞こえないけど…」
「なるほど、だからか」
それにしてもメイドの視線が痛い。
エミールはとても大事にされているようで、オレみたいな身なりの汚い冒険者且つこんな乱雑な言葉で接せられるのが嫌なんだろうな。
過保護っちゅうかなんていうか。
オレはメイドを睨むと、メイドはひっと視線をそらし掃除を始めた。
「…今背筋がぞくっとしましたわ」
「あはは。ま、別に嫌がられるのはいいけどあそこまで嫌悪感むき出しでやられたらそりゃ睨みたくなるよねー」
「…うちのものがなにか?」
「いや、別に。ああ、そうだ。お土産っていってもなんだけどこれ、オレの鱗…」
「ゆっくりしてってくださいましね」
変わり身が早い。さっさと帰れとか言わんばかりだったのに。
オレが鱗を手渡すとエミールは鱗にほおずりし始めた。
「この硬さ、この匂い…。素敵ですわぁ。あなたはこんな立派な鱗があるのに…。もっと他のところはないんですの!?」
「他のとこって言うと落とせるのは爪ぐらいだぞ…。それに、その鱗はオレの中でもちょっとレアで逆鱗なんだよ」
たまにあるのだ、逆に鱗が生えてしまうことが。その鱗は他の鱗と違った形で少し変形しておりマニアは逆鱗を好むとか。
「逆鱗! なんとすばらしい!」
「逆鱗だけは自分で生やすことができないからな。結構レアだぜ」
逆鱗だけで釣れるとかちょろ。
すると、先ほどの男性侍従が現れた。片手にはパイを持っている。
「アップルパイとミートパイでございます」
「ミートって…肉?」
「はい」
「ありがとう! 肉!」
オレの前にミートパイが置かれる。
オレは素手でパイを持ち、パイを齧った。肉がうまい。肉は正義だ。肉があったら何事も許せる。それぐらいオレは肉が好きなのだ。
「ん?」
なんか変な味がする。
「エミール。変な味がするからちょっと食べて…」
というと、ハミットがオレに耳打ちする。
「あなたのために焼きました。ぜひ…」
「変な味がするものを提供するのかよ。ってかエミールに食べてほしくないんだろ? だからあげるといったらこんなことをするんだ。おおよそ薬でも入ってんだろ」
「…」
この家はどうやらオレを追い出したいようだ。
エミールとかは頭おかしいけどまともなのにな。
「…たしかに変な味がしますね」
エミールは食べてみてそうこぼす。
「エミール。これは喧嘩を売ってるって捉えていいか?」
「そ、それは…」
「エミールはまともだと思ってたけど…。睨まれるぐらいなら別によかったけど薬まで使うってことはもう…」
「も、申し訳ございません!」
エミールが頭を下げる。
すると、門の方から誰かが入ってきたようだった。
「不審者がお嬢様と話しているって…。誰だ俺の娘に…」
と、オレと目が合った。
「昨日ぶりだな」
「うお、ヘヴン!」
オレはぺこりとマクロスに礼をした。こちらは遊びに来てる側だから礼儀は一応、な。
「お父様。その、言い難いんですがハミットがヘヴンに薬を盛ったらしく…」
そうマクロスが聞くと、マクロスはオレに頭を下げる。
「たびたび申し訳ないっ…!」
「な、なぜ主人が謝る…」
「ハミット。お前は今日限りでクビだ。来客に薬を盛るとは…」
「なっ…! 待ってくださいご主人! なぜこんな身なりの汚い冒険者に薬を盛っただけで…」
「どんなものであれ薬を盛るのはダメに決まってるだろう! 公爵家で働いて随分と傲慢になったもんだな! 拾ってやった恩を仇で返すとは…!」
「まあまあ、マクロスも落ち着いて。オレ冗談で怒っただけだから。味が変ってだけで薬はオレに効かねーし」
味が変なのは嫌だけど。
「そんな腫れもの扱いはしないでくれよ。オレなにもしねーし」
「す、すまない…」
「なによりエミールと友達だからな」
「一生の友です」
「一生はちょっとあれだけど」
「なっ…。運命の相手なんですよ! ヘヴンさんは! 私の運命です!」
運命の相手と言われるのはちょっとな…。




