ドラゴン、王都に入りたい
オレは人間になれたようだ。
ふっ、オレ様人間になっても可愛いな。さすがだ。
オレは水面で自分の姿を見ていると、隣で冒険者の小娘が驚いて腰を抜かしていた。
「な、なな…」
「ん? どうした」
「冗談で言ったのにマジでなれるんですか…」
冗談か。
まあいいさ。オレはとりあえず森を出ることにした。
人間になって…。衣食住はどうすればいいんだ? 住むところは大事だ。体も小さくなったからか妙に肌寒く感じる。
「ま、待ってください!」
「なんだよ」
「私も行きます!」
と、小娘は私の隣に立つ。
オレのこと好きすぎるだろう。まあいいさ。隣や背を任せるのは少々不安があるが…。オレがなんとかできるだろう。
「というかドラゴンさんメスだったんですね」
「ん? ああ。オレはメスだぞ。だから人化したら女だ。気づいてなかったのか?」
「まったく…」
「ダメだなお前は」
オレと同じドラゴン族ならメスかオスがすぐにわかるのによ。
オレは笑いながら小娘ならついていくことにしたのだが…。小娘は門番にペコリとお辞儀し、オレは普通に入ろうとすると門番に肩を掴まれる。
「あ?」
「見ない顔だな。王都に住んでいるか?」
「ああ」
王都はこの街のことだろう。森の中に住んでるから住人だな。ああ。
「なら身分証を見せたまえ」
身分証?
「身分証ってなんだ?」
「あっ…」
オレらが慌てていると門番の目が険しくなる。門番はオレと距離を詰めてくる。
「お前、本当に王都の人間かぁ?」
なんだよ、王都に入るのに身分証ってのが必要なのかよ。なんでだよ。こんな澄んだ目が信じられねーのかあ?
こうなったら無理にでも押し入って…。
「何してるのよアリィ」
「ね、姉さん!」
と、奥から女性がツカツカと歩いてくる。彼女は腰にナイフを携え、目の当たりに傷がついた女性が現れる。
この小娘の姉さんのようだ。
「これはサリィ様! いえ、この方が身分証がないと…」
「そう。通行料取ればいいじゃない」
「そうなのですが王都の国民だと言い張っており…」
「王都の森に住んでるんだから王都の人だろう! 頭おかしいのか!?」
オレがそう言うとみんな黙った。
「どうりで…」
「あのねぇ。森に住み始めたのはいいけどそれだと言えないのよ…。この門の中で住民票取らないと…」
「そうなのか?」
「そうですよォ!」
なんだよ。それならそうと言ってくれ。
「だが通行料ってもオレ金ねーよ?」
「わ、私もないですぅ…」
「はあ…。ほら、これでいいわよね?」
と、小娘の姉が金を手渡した。ふむ、銀貨一枚。オレは知ってるぞ。
世界の貨幣はな。勉強はしてる。金貨一枚が銀貨10枚分、銀貨一枚が銅貨10枚分だろう? それは理解してるんだ。オレって賢いドラゴン!
「ね、姉さんありがとう!」
「あんたもいい加減薬草摘み以外やりなさい」
「か、考えとく…」
「それで? そちらさんは?」
「あーえっと…」
「ヘヴンド…」
「ヘヴンだよ! ヘヴン! ヘヴンドラゴンみたいに強くなって欲しいと言うことらしいです!」
オレは自分の種族名を言おうとするとアリィが口を塞ぐ。そして、アリィがオレの名前を誤魔化し言った。
ヘヴン…。まあいいけど。
「ヘヴンか。ほう。森の中に住んでると言ったな。あそこはやめといた方がいい。神のドラゴンが生息しているからな」
「私のこ」
「あっあー! ヘヴンドラゴンだよね。Sランク冒険者が討伐しに行っても深傷を負って帰ってきたっていう!」
なぜオレの言葉の邪魔をする。
と、小娘が私の耳に近づき囁いた。
「自分がヘヴンドラゴンだとバレたら大変なことになりますよ。なるべく言わないように…」
「ん、そうだったな」
忘れていた。
ヘヴンドラゴンとバレたら王都が騒ぎになるか。仕方ねえ。
「そうだな。やめておく。だがオレ金ねーからよ…」
「金ないのなら仕事を…。特技は?」
「丸焼き」
「料理かしら。料理人…なんてどう?」
「料理なんてしたことないぞ」
と、アリィがオレの頭を叩いてくる。
「肉の丸焼きしか使ったことないらしいんだよ! なにせサバイバルだから! 丸焼きだけなら上手いよ! うん」
「そ、そうだな。さばいばるってのをしてるからな」
くう、忘れてたぜ。
丸焼き…。近づいてきた魔物を炎のブレスで焼いて食べてたりするし冒険者たちに火を吹いて攻撃してるから…。
「そう? サバイバルが得意なら冒険者なんてどう? あなた、それなりに腕は立つと思うし」
「ふむ、そうするか」
「そうですか! なら私が薬草摘みの極意を教えしましょう! これでも冒険者ギルドでは薬草先生って言われてるんですね」
「それ嘲笑われてるだけよ…。ああ、そうそう。名前を言ってなかったわね。私はこの子の姉のサリィ。冒険者をしてるわ。ランクはAだから困ったら頼ってちょうだい。ほら、アリィ。冒険者ギルドに案内してやりなさい」
「はーい」
冒険者。冒険者か。オレが冒険者になるのはなんか新鮮だな。いつも相手する側だったからな。