ドラゴン、暑がる
オレがドラゴン姿のまま平原を散歩していると冒険者が汗をかいて木陰で休んでいた。
今日は暑いからな。モンスター討伐などをすると体が熱くなるだろう。オレは冒険者に顔を見せて見た。
「おうヘヴンドラゴンじゃねえか! 元気だなお前はー」
「お、おい、そんなこと…」
「知らねえのか? こいつ人を襲うことはあまりないらしいんだよ。温厚だって巷じゃ噂されてるぜ?」
と、鱗をポンポンと…。
「あっちぃ!?」
バカだなー。オレの鱗は日光によってあっためられてんだぞ。
オレ暑さは平気なのよ。ジメジメするのは嫌だけどな。オレの鱗は普通に熱い。
「なんでこんな鱗…」
「日光に照らされ続けたからじゃないの?」
「そうだな…。火傷したかもしれねえ」
そんな熱い?
オレは温度に敏感な尻尾で鱗を触る。思わず飛び上がってしまった。
なんでこんな鱗めちゃくちゃ熱いの!? 日光に照らし続けたからか!?
「ぐああっ…」
「自分の鱗の熱でやられてるぞ…」
「抜けてるな…」
いや、どんなもんかなって思ったんだよ。尻尾は温度に敏感だから熱いとき熱いのよ!
しょうがない。鱗落とし!
オレは全ての鱗を落とした。
「お、おお! 鱗だ!」
「おい、ま…」
「あづあああああ!」
「当たり前だろバカ! すごく熱されてたやつだぞ! これじゃ夜まで待たねーと冷めないな」
「夜になったら取られるかもしれねーだろ!」
「そうだけどこれじゃもてないよ…。ほら、肉上に置いたらじゅーって音するし」
肉焼けるほど熱されてたの?
どうりで…。てかその肉旨そうだな。オレはじーっと見ていると冒険者がオレの視線に気づく。
「これが欲しいのか?」
くれ。オレは肉が好きなんだ。
「しょうがないな。ほら」
と、肉を手渡してくる。
この肉はちょっとレアの金色マトン。金色羊自体滅多に出会えないレアな魔物でその羊毛は金ピカに輝いており肉も臭みがなく柔らかくて美味しいという…。オレは滅多に食べられないんだ。逃げられるから。
「金色羊の肉あげてもいいのか?」
「鱗に比べたら安いもんだからね。この鱗、もらっても?」
構わん構わん。いらんし。どうせ捨てるから。
すると、食べているとオレの爪が抜ける。爪も爪で生え変わるために抜けるんだよな。
まあいい。爪もくれてやろう、ちょいとボロボロだけど。結構酷使してるし。
「つ、爪もいいのか?」
生え変わりの時期だからな。
鱗は自分で落とせるけど爪は自分じゃ無理なんだよな。折れたら次の生え変わりを待つしかない。
オレはぺこっと頭を下げて飛び去った。
少し経って冒険者ギルドにいく。
冒険者ギルドで先程の冒険者が意気揚々と話していた。
「肉をあげたらヘヴンドラゴンが鱗と爪をくれたんだよ! やっぱ討伐なんてする必要ねーって!」
「そうですね。討伐依頼、監視依頼は取り下げるべきです。ありがたや…」
「これでしばらく依頼受けないでも食えるぞ。てか、一軒家ぐらいなら買えるんじゃねーか?」
「あー、ここ最近鱗が多いので少し値下がりが…」
「なんだよおい!」
あげすぎちゃったかな。
たしかにここ最近めっちゃ生え変わらせてる気がするな。
少し自粛するか。
「でもそうですね。噂によるととても温厚で脅かす実力はあれどこちらから仕掛けなかったら何もして来なさそうですし、様子見ということで取り下げるようギルマスに相談しておきます」
「おう!」
「でもギルマスはよしとしても竜騎士が煩いんですよねぇ」
ここでも竜騎士か。
「あのいけすかねー騎士どもかよ。見下してるけどモンスター狩って王国を守ってるのは俺らだろ。そんな奴らの言うこと聞く必要ねーよ」
「あちらは貴族の方が多いので下手に刺激できないんですよぉ! それに、この国は竜が有名ですし産物となってます。あんなのでもいるんです!」
受付さんよ、お前もあんなのって言ってる時点で刺激してるからな。
竜騎士ねぇ。オレがいてなんの弊害があるって言うんだろう。そりゃドラゴンをビビらせることは可能だけどビビるくらい雑魚なのが悪いだろ。
「いらねーよ正直。竜を手懐けんのはすげーけどそれがどうした? 竜に乗れるからはいすごいでちゅねーって褒めりゃいいのか?」
「ああいうのは竜に乗ってる俺かっこいいって感じなので当たり前だろといなされますね」
「ちっ。ヘヴンドラゴン、あいつらだけ滅ぼさねーかな」
「そうなってしまったらそれこそヘヴンドラゴンは王国の敵と捉えられてしまいますよ」
そうだよな。だからこそ迂闊に殺せないんだよ。殺してもいい大義名分…。あっちから攻めてこない限り。
「なんの話してるんだい?」
「ギルマス。いや、竜騎士の野郎の愚痴を」
「竜騎士? ああ」
「ギルマス、ヘヴンドラゴンの依頼取り下げてもいいでしょうか? 害は無さそうなので放っておいてもよいかと」
「うーん、私としてはいいんだけど竜騎士がね…。王は今のところ討伐しない、とは言ってるけどアイツら聞かないから…」
「王に従わない忠臣とかいる意味ねーだろ。あくまでここは王国なのによォ。あいつらが偉いわけじゃないだろってのに」
そう話していると入り口の方で音が聞こえた。
そこには鎧を着ている竜騎士が複数人立っていたのだった。




