ドラゴン、Sランクと戦う
貴族の屋敷から戻り翌日。
冒険者ギルドの前にはまた馬車がとまっていた。紋章はついてない。
「あ、ヘヴン!」
「おお、てめえは新入りか」
と、サリィと、筋肉ムキムキのマッチョマンが目の前に現れた。
男は身長が高く筋肉が滅茶苦茶あって…。手だけでもサリィよりずいぶんとでかい。人化したオレは普通の女性の体格ぐらいしかないのでオレよりもでかい。
「誰だお前は」
「俺は数少ないSランク冒険者の一人、ダルマのフェイルだ。ダルマって呼んでくれ」
「わかった」
ダルマがそういうのでそう呼ばせてもらおう。
この馬車はこいつが乗ってきたものか。いつまでとめてるのかは知らんが…。
「で、Sランクが何の用だよ」
「ヘヴンドラゴンの討伐に来た」
「討伐ぅ?」
「竜騎士複数から依頼があってな。ヘヴンドラゴンの討伐をする」
…なんだよ。オレの敵か。
サリィを見るとごめんというように手を合わせている。別にいいけどよ。こいつの実力は知らないんだよ。
たしかに雰囲気で言うと周りよりは一つも二つも離れた実力はあるように見える。が、オレに敵うか? とは思う。
オレを倒すには実力が足りないと思うのだ。
「だから許可しないと言っているだろう。刺激して怒らせでもしたらどうする」
「大丈夫っすよ! 俺が絶対殺すんで」
「だから…」
ギルマスも頭を抱えていた。
オレを見ると、ごめんというように申し訳なさそうな顔をしている。これは戦うしかないようだな。めんどくさい。
オレはしょうがないので戦うのを了承した。
ダルマはオレがいるとされる森に向かう。オレは道中で抜け、ヘヴンドラゴンに戻った。
オレが待ち構えているとダルマがやってくる。武器は斧で、片手で持っている。ダルマはさわやかな笑顔をこちらに向けた。
「王国の民を困らせるヘヴンドラゴンよ! 討伐させていただく!」:
困らせてないがな。
オレはまず先制攻撃。大きな爪を振り下ろしてみると、ダルマはそれを躱し、腕を斧で切った。おお、これはなかなか痛い攻撃だ。でも効かない。オレの力でやっと穴が開くぐらいだ。それぐらいオレの鱗は硬い。
その程度の攻撃で切れるわけないだろう。
「オラァァァ!」
と、斧をぶん投げ首筋に刺さる。血がぽたぽたと流れる。首だけは鱗がちょっと柔らかい。弱点としたらこの首筋だろう。
相手もオレの弱点に気づいたらしい。オレの体をのぼろうと近づいてくる。オレは尻尾でつかんだ。尻尾の存在を忘れていたのであろうダルマは驚いている。抜け出そうともがいているが…。
オレは口を開いた。
「クソっ…! 全然ダメージが効いてねえ! まずい、死ぬ…」
当たり前だ馬鹿野郎。
弱点は首筋だけだ。それ以外にはそれほど攻撃は効かん。硬いからな。
殺すこともできる。が、こいつを殺すと確執が生まれるだろう。オレは放とうとしていたブレスの軌道を変えるために口をずらした。天に向けブレスを放つ。
オレはダルマを解放した。
「な、なぜオレを殺さない?」
お前は腐ってもSランクの冒険者だ。この国でも少ない実力者の一人。それを殺したとなるともっと騒がれる。
別に殺すほど憎いわけでもないしな。
「……悔しいがオレじゃ敵わねえ」
そう思ったんならさっさといけ。
「悪かったヘヴンドラゴン。喧嘩を売って」
と、落ち込んだ様子でダルマが帰っていった。
負けたのが相当悔しかったのか、殺してもらえなかったのが悔しいのか。オレには知らんがそう死に急ぐこともない。




